ファイザー製のコロナワクチン接種後の心筋炎
Pfizer-BioNTech COVID-19 ワクチンを投与し、心筋炎を発症した若年者のまとめ
小児科領域で権威があるPediatricsの文献:Pediatrics September 2021, 148 (3) e2021052478
12歳以上の若年者に接種が始まりましたが、心筋炎/心膜炎の報告が聞かれます。接種説明をする医療者である以上、ワクチン接種後の心筋炎/心膜炎がいつ、どのような経過をたどって起こるか、学ぶ必要があります。
続きを読むビオチン欠乏症(病歴、検査、診断、治療について)
Point:乳幼児および成人において、皮膚炎を見たときに、薬剤歴や食事歴に応じて、ビオチン欠乏を鑑別に挙げること
続きを読む反射(深部腱反射、表在反射)による神経局在診断<基礎編>
深部腱反射
- 深部腱反射は、反射弓(腱~感覚神経~運動神経~神経筋板~筋)が正常に機能しているかをみる。反射弓のいずれかの部位が障害されていれば、深部腱反射は低下または消失する。
- 障害部位以上の錐体路障害で腱反射は亢進する *ただし、急性期脊髄障害では、深部腱反射は低下または消失する。
判定:亢進(++, +++)、正常(+)、消失(-)を用いる
腱反射の亢進→反射弓より高位の錐体路障害
腱反射の低下・消失→反射弓の障害
*下顎反射は亢進のみが病的(顎をたたくと下顎が大きく上昇する)。亢進は皮質橋路の両側性障害を意味し、嚥下言語障害を伴う場合は仮性球麻痺と診断する。
深部腱反射の診察方法:Clinical Examination of reflexes - YouTube、下顎反射
続きを読む犬や猫咬傷の原因細菌と、抗生剤選択について
動物咬傷について
・動物咬傷は、猫と犬によるものが多く、感染した創部には複数の細菌が関与するため、好気性菌と嫌気性菌の混合感染を考慮する必要がある(1)。
・生物の口腔内に多く存在する嫌気性菌は、Prevotella 属、Porphyromonas 属、Fusobacterium 属など、β-ラクタマーゼを産生する菌株が多い。したがって、口腔内の嫌気性菌の関与が疑われる抗菌薬選択にあたっては、通性嫌気性菌と偏性嫌気性菌に抗菌活性を示し、かつ、β-ラクタマーゼに安定であるものを選択する必要がある(2)。
・犬と猫に多い原因細菌を下記に示す。特に頻度が高いPasteurella と、重症化しやすいCapnocytophaga canimorsusが重要である(1,2)。
続きを読む2019年小児科専門医 復元問題A2 SGA性低身長
SGA性低身長でただしいのは、どれか
A SGA性低身長は10-15%に生じる
B 遺伝性素因を認める
C IGF1が高くなる
D 1歳から治療を開始する
E 成人期にメタボを発症しやすい
続きを読む本のまとめ:脳医学者が教える英語の超勉強法
新型コロナウイルスとクループ症候群
☑ 新型コロナウイルスによるクループ症候群の小児例が報告されはじめた。新型コロナウイルスによるクループ症候群が重症化しやすいかの結論はまだ出ておらず、今後の症例蓄積が望まれる。
【新型コロナウイルス:SARS-CoV-2によるクループ症候群について】
ヒトコロナウイルスは上気道炎の原因の10~15%を占めるとされている。ヒトコロナウイルス NL63(human coronavirus NL63: HCoV‒NL63)は 2004 年に初めて報告され、乳幼児の下気道感染症やクループ症候群と強く関連 する。
ヒトに感染するコロナウイルスは HCoV‒ 229E,HCoV‒NL63,HCoV‒OC43,HCoV‒ HKU1,SARS‒CoV,MERS‒CoV、SARS-CoV-2の7種類が知られている。
HCoV‒229E,HCoV‒OC43,CoV‒ HKU1 は一般的な感冒の 15~30%を占める。HCoV‒NL63 は、比較的新しく発見されたコロナウイルスで、2004年にオランダで初めて分離された。わが国では2005年に、鈴木らによって HCoV‒NL63 遺伝子が検出され、2004年に HCoV‒NL63が発見されて以降、クループ症候群で入院した児の原因病原体のうち14.7~17.4%をHCoV‒NL63が占めており、今まで多くを占めると考えられていたパラインフルエンザの1型や3型より多くの割合を占めていた報告も存在する。
(気管挿管を要した,ヒトコロナウイルスNL63による重症クループ症候群の一例. 鶴岡 洋子ら、小児感染免疫2017 29(1):61-66. http://www.jspid.jp/journal/2017/029010061j.html)
上記の文献で分かるように、コロナウイルスはクループ症候群の原因として、多くを占める可能性があり、新型コロナウイルス感染症に関しても、SARS-CoV-2によるクループ症候群の症例が海外より計5例が報告されている。
症例 |
年齢 |
肺炎 |
治療 |
喘鳴消失に要した時間 |
PICU管理 |
||
DEX |
その他 |
||||||
Vennら |
9歳 |
あり |
4回 以上 |
4回 以上 |
Heliox吸入 NPPV レムデシビル |
19時間 |
あり |
2歳 |
なし |
3回 |
4回 以上 |
- |
13時間 |
なし |
|
11か月 |
なし |
3回 |
2回 |
- |
21時間 |
なし |
|
Pitstickら |
1歳2か月 |
なし |
1回 |
1回 |
- |
NA |
なし |
Carolineら |
1歳6か月 |
なし |
なし |
1回 |
酸素吸入 |
NA |
なし |
NRE:Neblized racemic epinephrine, DEX:Dexamethason,
NPPV:Noninvasive positive pressure ventilation,
PICU:Pediatric intensive care unit, NA:Not avairable
Venらは、入院を要する症例は喘鳴の消失までに典型的なクループ症候群で期待されるほど、急速な改善がみられなかったことを報告しているが、Carolineらは、Vennらによる報告と異なり、入院12時間後には退院可能な急速な改善が見られたことを報告している。Carolineらは、加えて、エンテロウイルスの混合感染が見られたことと、クループは多くで重感染が発見され、単一の感染が稀であるため、原因となるウイルス性病原体ではない可能性が高く、クループを発症した場合は、重感染のチェックが必要と考え、SARS-CoV-2は小児の重度クループのCommonな原因ではない可能性を説いている。SARS-CoV-2のクループに重感染が多いかは、まだ結論は出てない。
1) Venn AMR,et al. Am J Emerg Med 2020;S0735-6757(20)30829-9.
2) Pitstick CE, et al. Pediatrics 2021;147(1):e2020012179.
3) Caroline LHB, et al. Am J Emerg Med. 2021;18;S0735-6757(21)00130-3.
比較的徐脈(相対的徐脈)って何?定義と原因
比較的徐脈の定義と原因を記載した論文を検索し調べた。
The clinical significance of relative bradycardia
Fan, et al. WMJ. 2018 Jun;117(2):73-78.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30048576/
目的と方法
比較的徐脈の原因となる感染症および非感染症の概要を調査する。
PubMedおよびMedlineから比較的徐脈に関連する論文を検索し、原因と発生率について検討した。
方法
PubMedおよびMedlineデータベースを、比較的徐脈の用語(Relative Bradycardia, fever, pulse-temperature dissociation, and pulse temperature deficit)を用いて検索。検索対象、2016年10月2日以前に発表された英語文献に限定。主に、コホート研究、ケースシリーズ、ケースレポートが検索され、基準を満たした174論文を同定。比較的徐脈という言葉を検索しており、比較的徐脈の定義は各文献で異なる。
結果
比較的徐脈は、種々の感染症や非感染症で起こる。炎症性サイトカインの放出、迷走神経緊張の亢進、心筋への直接的な影響、電解質異常などのメカニズムが考えらえれているが、病態はまだよく分かってない。
比較的徐脈の発生率は各報告で大きく異なるが、母集団の大きさ、脈拍と体温を測定する時間経過、定義が一律でない など複数の要因が原因と考えられる。
結論
比較的徐脈は感度が高いが非特異的な臨床症状であり、感染性および非感染性の病因の鑑別診断を絞り込む重要なツールとなりうる。特に鑑別が絞れない状況で、病因の臨床推論に至る手がかりとなりうる。
論文の重要点を抜粋
・1800年代後半にLiermeisterの法則が報告された。
Liermeisterの法則:体温38.3度よりも高い発熱があると、心拍数は1度上がるにつれて8~10回/分増える。
・体温上昇に対して予想される脈拍増加が得られない、体温と脈拍の乖離のことを、Fagetの兆候=比較的徐脈という。
・相対的徐脈は、38.9℃以上で最も感度が高くなるため、体温が38.9℃を超える場合にのみ使用することが提案されている。この臨床的徴候は、特に詳細な病歴、身体検査、臨床検査所見と組み合わせることで、臨床診断上 有用となる。
比較的徐脈で予想されるバイタルサインは下記(比較的徐脈は、38.9℃以上で通常用いる)
体温 (℃) |
脈拍 |
脈拍 |
8/分ずつ上昇 |
10/分ずつ上昇 |
|
38.3 |
108 |
110 |
38.9 |
116 |
120 |
39.4 |
124 |
130 |
40 |
132 |
140 |
40.6 |
138 |
150 |
41.4 |
146 |
160 |
比較的徐脈の原因となりうる感染症
*細胞内寄生性病原体による感染症や薬剤熱(Ex βブロッカー),非感染性炎症性疾患を基本考える。細菌感染:マイコプラズマ肺炎、レジオネラ、サルモネラ、日本紅斑熱、スピロヘータによるワイル病なども報告あり。腫瘍熱、副腎皮質機能低下症なども報告あり。
→下記も参考:救急総合診療のピットフォール. 日本内科学会雑誌 2015年105巻3号 515-518、あなたも名医!名医たちの感染症の診かた・考えかた 岡秀昭編jmed mook 41日本医事新報社, 2015
比較的徐脈は、臨床現場で評価されにくいが、感染症および非感染症の病因を診断するための重要なベッドサイドツールである。さらなる調査・検討は必要だが、特に臨床診断に至ることができない症例において、診断のために有用な所見となりうる。
ただし、比較的徐脈の出現頻度は0-100%と大きく差があり。
論文では、『疾患によって相対的徐脈の発生率が大きく異なるため、比較的徐脈の定義を明確に定め今後、症例蓄積し検討が必要』 と結論している。
PFAPA症候群(検査、治療)
検査
PFAPA症候群に特異的な診断検査はない。診断は、病歴と身体所見に基づいて行われる。
免疫グロブリン:発作中はIgDが、高IgD症候群のレベルまではないが、優位に上昇しうる。
プロカルシトニン:発作中に増加しない。これは、PFAPAの患者に特有で、Evidenceはないが、PFAPAの発作と急性細菌感染の区別に役立つ可能性がある。
抗核抗体:健常小児と同様に1/30の頻度でみられる。
ちなみに、PFAPA症候群では抗原提示細胞およびCD4 陽性T細胞の活性化がみれれ、発熱の発作時はIFN-γ、TNF-α、IL-6、IL-18が上昇することが指摘されている。
私見:なお、特異的な診断検査がないと書かれてはいるが、下記の症例のように、サイトカインプロファイルを指導医から提出するよう求められることが多い
周期性発熱で PFAPA 症候群と診断後,扁桃摘出術を施行し軽快した症例
検査例
1:十分な問診(発熱期間、随伴症状、家族歴、出生地等)
2:咽頭培養検査
3:血液検査
a)血算、白血球分画
b)生化学一般、赤沈
c)CRP、血清アミロイドA
d)免疫機能(IgG、A、M、D、CD4/8)
e)補体価
f)抗核抗体・各種自己抗体
g)プロカルシトニン
h)各種サイトカイン
i)血清亜鉛
4:ウイルス検査(EBウイルス、アデノウイルス)
5:検尿・検便
6:各種画像検査
7:他疾患との識別が必要な場合には遺伝子検査
鑑別が必要な疾患
1:他の自己炎症疾患との識別(FMF、TRAPS、HIDSとの識別が必要)
2:周期性好中球減少症
3:全身型若年性突発性関節炎
4:ベーチェット病
5:その他(クローン病、感染症、習慣性扁桃腺炎など)
治療
・NSAIDs
多くの場合有効性が一過性か、無効が多い。
・タガメット(一般名:シメチジン)
H2ブロッカーに分類される薬。Th1へ過剰に傾いた免疫をTh2へ戻すような免疫調節作用があり、20〜40mg / kg /日を12時間毎(最大用量1200mg/日)に通常は投与する。内服を開始後、通常は6〜12ヶ月後に中止する。患者の約1/4 (24〜27%) は発熱エピソードが無くなり、24〜32%が症状頻度または重症度が改善する。
・副腎皮質ステロイド
発熱発作の初期にプレドニンを0.5~1mg/kgを1回ないし2回投与すると、12~24時間以内に症状が70-80%で劇的に改善する。有熱機関の短縮効果はあるが、発熱の反復を抑えることができず、発作間隔が短縮した結果、次の発熱が早くする発来する問題点がある。
・コルヒチン
家族性地中海熱や痛風に使われる薬ですが、PFAPAに対しても有効性を訴える報告がある。(9例にコルヒチン0.5-1㎎を6-48か月投与して8割で発熱間隔が延長した)
・扁桃摘出術、アデノイド切除術
内服薬を使用しても症状が改善しない場合に、外科的切除を行う。60%以上に効果があるが、再発することもある。
参考文献:
1)自己免疫性疾患診療ガイドライン2017
2)塚原 晃弘ら, 小児期に発症し30年以上の経過の後に診断に至ったPFAPA症候群の1例. アレルギー 2020;69(1):53-58
3)村田 卓士ら, PFAPAの診断と治療. Jpn J Clin Immunol. 2007;30(2):101-107.
4)Feder, H, et al. A clinical review of 105 patients with PFAPA. Acta Pædiatrica 2010;99: 178-184.