小児総合診療医のひとりごと

小児科, 総合診療科(家庭医療), アレルギー についてのブログ

Case1:急激に拡大するまだら紫斑、ショックと多臓器不全となった19歳男性

症例:N Engl J Med 2021; 384:953-963

症状/病歴

  • 19歳男性、数時間前まで元気だった
  • 数時間前から急激に進行するまだら状の紫斑

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身体所見/検査

  • 受診時:体温37.4度、脈拍:147/糞、血圧:154/124mmHg、呼吸数:24/分、酸素飽和度:97%。受診30分後に呼吸不全、低血圧性ショックとなった。
  • WBC:7930/μl、RBC:538万/μl、Plt:1.2万/μl、CRP:81.4㎎/dl、血沈:2mm/h
  • PT:69.9秒、APTT:150秒、プロテインC活性:5%(70-150%)、プロテインS活性:25%(70-150%)、AT-Ⅲ:28%、Fib<60㎎/dl、血液培養で髄膜炎菌が検出。

診断

髄膜炎菌による電撃性紫斑病

 

電撃性紫斑病の概要

  • 定義:下記の3つを満たす

①四肢遠位部の虚血性壊死、②二肢以上が同時に侵される、③近位の動脈閉塞を伴わないもの

  • 主に、プロテインCの先天的または後天的欠乏により微小血管血栓を生じる。皮膚の出血性壊死およびDICが急速に進行し、致死的となる
  • 発症は急激で、網状皮斑が病初期から見られ、重篤凝固機能障害やSIRSが24時間以内に出現する
  • 特徴的な所見:重度の低フィブリノゲン血症によりCRPが増加/ESRが不均衡に低下する、プロテインCやS・AT-Ⅲが低下する

原因

  • 細菌・ウイルス感染症重篤な合併症として知られる。ほかに、出生後早期に発症する新生児電撃性紫斑病は、先天性プロテインC欠乏症により起こる。
  • 感染性の電撃性紫斑病は、以下の細菌群で多く発症する

  Neisseria meningitidis

  Streptococcus pneumoniae

  Capnocytophaga canimorsus(特に犬猫咬傷)

その他にも、influenzae,S. aureus,Esherichia coli,Klebsiella, Proteus,Aeromonas hydrophila,他のグラム陰性菌, Aspergillus,水痘,麻疹など様々

鑑別

  • 皮膚壊死

①カルシフィラキシス(Calciphylaxis)

・高齢者や透析患者に発生する。

・初期段階で網状皮疹を生じる。高脂肪の領域(下腹部、臀部、上肢)に発生し、触れると非常に痛い。亜急性(数日~数週)に進行する。

・凝固障害やSIRSは関連しない。

②ワルファリン誘発性皮膚壊死(Warfarin-induced skin necrosis)

・ワーファリン患者に発生する。初期段階で網状皮疹を生じる

  • 血小板減少性紫斑病

・皮膚病変と重度の血小板減少症を生じ、ITPとTTPが鑑別に挙がる

・亜急性の経過で、下肢を中心に点状出血斑を認める

・一般的に、SIRSや凝固障害はない

・小血管性血管炎

・通常は斑状の紅斑性発疹、関節痛、多発性神経障害、倦怠感を引き起こす

・多くの場合、基礎疾患(最も頻繁にはC型肝炎)がある

・亜急性の病歴で、SIRSや凝固障害はない

・名前と異なり、数日から数週間にわたって発症する。

・複数の血栓症深部静脈血栓症・肺塞栓・脳卒中)に関連 

・APTTが延長あり、そのほかの凝固障害はない。

治療

本邦では電撃性紫斑病の治療として『注射用アナクトC®』が保険適応である。

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(治療のスライドは、NEJM2021;384:953-963と、小児内科 2014;46(2):173-177を改変して作成)

 

【その他の参考文献】

血栓止血誌 2001;12(2):154-160、小児内科 2014;46(2):173-177、日集中医誌 2009;16:13-15