比較的徐脈(相対的徐脈)って何?定義と原因
比較的徐脈の定義と原因を記載した論文を検索し調べた。
The clinical significance of relative bradycardia
Fan, et al. WMJ. 2018 Jun;117(2):73-78.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30048576/
目的と方法
比較的徐脈の原因となる感染症および非感染症の概要を調査する。
PubMedおよびMedlineから比較的徐脈に関連する論文を検索し、原因と発生率について検討した。
方法
PubMedおよびMedlineデータベースを、比較的徐脈の用語(Relative Bradycardia, fever, pulse-temperature dissociation, and pulse temperature deficit)を用いて検索。検索対象、2016年10月2日以前に発表された英語文献に限定。主に、コホート研究、ケースシリーズ、ケースレポートが検索され、基準を満たした174論文を同定。比較的徐脈という言葉を検索しており、比較的徐脈の定義は各文献で異なる。
結果
比較的徐脈は、種々の感染症や非感染症で起こる。炎症性サイトカインの放出、迷走神経緊張の亢進、心筋への直接的な影響、電解質異常などのメカニズムが考えらえれているが、病態はまだよく分かってない。
比較的徐脈の発生率は各報告で大きく異なるが、母集団の大きさ、脈拍と体温を測定する時間経過、定義が一律でない など複数の要因が原因と考えられる。
結論
比較的徐脈は感度が高いが非特異的な臨床症状であり、感染性および非感染性の病因の鑑別診断を絞り込む重要なツールとなりうる。特に鑑別が絞れない状況で、病因の臨床推論に至る手がかりとなりうる。
論文の重要点を抜粋
・1800年代後半にLiermeisterの法則が報告された。
Liermeisterの法則:体温38.3度よりも高い発熱があると、心拍数は1度上がるにつれて8~10回/分増える。
・体温上昇に対して予想される脈拍増加が得られない、体温と脈拍の乖離のことを、Fagetの兆候=比較的徐脈という。
・相対的徐脈は、38.9℃以上で最も感度が高くなるため、体温が38.9℃を超える場合にのみ使用することが提案されている。この臨床的徴候は、特に詳細な病歴、身体検査、臨床検査所見と組み合わせることで、臨床診断上 有用となる。
比較的徐脈で予想されるバイタルサインは下記(比較的徐脈は、38.9℃以上で通常用いる)
体温 (℃) |
脈拍 |
脈拍 |
8/分ずつ上昇 |
10/分ずつ上昇 |
|
38.3 |
108 |
110 |
38.9 |
116 |
120 |
39.4 |
124 |
130 |
40 |
132 |
140 |
40.6 |
138 |
150 |
41.4 |
146 |
160 |
比較的徐脈の原因となりうる感染症
*細胞内寄生性病原体による感染症や薬剤熱(Ex βブロッカー),非感染性炎症性疾患を基本考える。細菌感染:マイコプラズマ肺炎、レジオネラ、サルモネラ、日本紅斑熱、スピロヘータによるワイル病なども報告あり。腫瘍熱、副腎皮質機能低下症なども報告あり。
→下記も参考:救急総合診療のピットフォール. 日本内科学会雑誌 2015年105巻3号 515-518、あなたも名医!名医たちの感染症の診かた・考えかた 岡秀昭編jmed mook 41日本医事新報社, 2015
比較的徐脈は、臨床現場で評価されにくいが、感染症および非感染症の病因を診断するための重要なベッドサイドツールである。さらなる調査・検討は必要だが、特に臨床診断に至ることができない症例において、診断のために有用な所見となりうる。
ただし、比較的徐脈の出現頻度は0-100%と大きく差があり。
論文では、『疾患によって相対的徐脈の発生率が大きく異なるため、比較的徐脈の定義を明確に定め今後、症例蓄積し検討が必要』 と結論している。