小児総合診療医のひとりごと

小児科, 総合診療科(家庭医療), アレルギー についてのブログ

犬や猫咬傷の原因細菌と、抗生剤選択について

動物咬傷について

・動物咬傷は、猫と犬によるものが多く、感染した創部には複数の細菌が関与するため、好気性菌と嫌気性菌の混合感染を考慮する必要がある(1)。

・生物の口腔内に多く存在する嫌気性菌は、Prevotella 属、Porphyromonas 属、Fusobacterium 属など、β-ラクタマーゼを産生する菌株が多い。したがって、口腔内の嫌気性菌の関与が疑われる抗菌薬選択にあたっては、通性嫌気性菌と偏性嫌気性菌に抗菌活性を示し、かつ、β-ラクタマーゼに安定であるものを選択する必要がある(2)。

 ・犬と猫に多い原因細菌を下記に示す。特に頻度が高いPasteurella と、重症化しやすいCapnocytophaga canimorsusが重要である(1,2)。

 

 

<犬咬傷による原因細菌の内訳>

・複数細菌による混合感染が多い(48%)

(N=50、創部感染58%、リンパ節炎や蜂窩織炎30%、膿瘍12%)

・好気性菌:Pasteurella 50%, Streptococcus 46%, Staphylococcus 46%, Neisseria 32%, Corynebacterium 12%, Moraxella 10%, Enterococcus 10%, Bacillus 8%

嫌気性菌:Fusobacterium 32%, Porphyromonas 28%, Prevotella 28%, Propionibacterium 20%, Bacteroides 18%, Peptostreptococcus 16%

 

<猫咬傷による原因細菌の内訳>

・複数細菌による混合感染が多い(63%)

(N=57、創部感染39%、リンパ節炎や蜂窩織炎42%、膿瘍19%)

・好気性菌:Pasteurella 75%, Streptococcus 46%, Staphylococcus 35%, Neisseria 35%, Corynebacterium 28%, Moraxella 35%, Enterococcus 12%, Bacillus 11%

嫌気性菌:Fusobacterium 33%, Porphyromonas 30%, Bacteroides 28%, Prevotella 19, Propionibacterium 18%,

 (詳細は下記)

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犬猫咬傷の原因細菌

抗生剤の選択に関して

βラクタマーゼを産生する嫌気性菌を考慮する必要がある。

加えて、原因頻度が高いPasteurella Multocidaの研究で、第一世代セフェム系マクロライド系、クリンダマイシンのIn vitro活性が低かったため、これらは選択が避けられる(4)。

 

以上より、現在では、βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系薬である、アモキシシリン/クラブラン酸が、動物咬傷の第一選択となっているようだ。また、予防的に抗菌剤投与を行う場合は3-5日間が推奨されている。表在感染症であれば創部の状態を評価しながら5-14日間となる。

 

【参考文献】

Up to date. Animal bites (dogs, cats, and other animals): Evaluation and management. UpToDate, Post TW (Ed), Waltham, MA.(Accessed on June 11, 2021.)

(1)Clinical Microbiology Revi 2011.24(2)231-46

(2)口腔感染症に対する抗菌薬療法. 金子明寛. 2008 年度口腔四学会合同研修会

(3)N Engl J Med 1999; 340:85-92

(4)Antimicrob Agents Chemother. 1988 Feb;32(2):213-5