小児総合診療医のひとりごと

小児科, 総合診療科(家庭医療), アレルギー についてのブログ

新型コロナウイルスとクループ症候群

☑ 新型コロナウイルスによるクループ症候群の小児例が報告されはじめた。新型コロナウイルスによるクループ症候群が重症化しやすいかの結論はまだ出ておらず、今後の症例蓄積が望まれる。

 

新型コロナウイルスSARS-CoV-2によるクループ症候群について】

ヒトコロナウイルスは上気道炎の原因の10~15%を占めるとされている。ヒトコロナウイルス NL63(human coronavirus NL63: HCoV‒NL63)は 2004 年に初めて報告され、乳幼児の下気道感染症クループ症候群と強く関連 する。

 ヒトに感染するコロナウイルスは HCoV‒ 229E,HCoV‒NL63,HCoV‒OC43,HCoV‒ HKU1,SARSCoV,MERS‒CoVSARS-CoV-2の7種類が知られている。

HCoV‒229E,HCoV‒OC43,CoV‒ HKU1 は一般的な感冒の 15~30%を占める。HCoV‒NL63 は、比較的新しく発見されたコロナウイルスで、2004年にオランダで初めて分離された。わが国では2005年に、鈴木らによって HCoV‒NL63 遺伝子が検出され、2004年に HCoV‒NL63が発見されて以降、クループ症候群で入院した児の原因病原体のうち14.7~17.4%をHCoV‒NL63が占めており、今まで多くを占めると考えられていたパラインフルエンザの1型や3型より多くの割合を占めていた報告も存在する。

気管挿管を要した,ヒトコロナウイルスNL63による重症クループ症候群の一例. 鶴岡 洋子ら、小児感染免疫2017 29(1):61-66. http://www.jspid.jp/journal/2017/029010061j.html

 

上記の文献で分かるように、コロナウイルスクループ症候群の原因として、多くを占める可能性があり、新型コロナウイルス感染症に関しても、SARS-CoV-2によるクループ症候群の症例が海外より計5例が報告されている。

 

症例

年齢

肺炎

治療

喘鳴消失に要した時間

PICU管理

NRE

DEX

その他

Vennら

9歳

あり

4回

以上

4回

以上

Heliox吸入

NPPV

レムデシビル

19時間

あり

2歳

なし

3回

4回

以上

-

13時間

なし

11か月

なし

3回

2回

-

21時間

なし

Pitstick

1歳2か月

なし

1回

1回

-

NA

なし

Carolineら

1歳6か月

なし

なし

1回

酸素吸入

NA

なし

NRE:Neblized racemic epinephrine, DEX:Dexamethason,

NPPV:Noninvasive positive pressure ventilation,

PICU:Pediatric intensive care unit, NA:Not avairable

 

Venらは、入院を要する症例は喘鳴の消失までに典型的なクループ症候群で期待されるほど、急速な改善がみられなかったことを報告しているが、Carolineらは、Vennらによる報告と異なり、入院12時間後には退院可能な急速な改善が見られたことを報告している。Carolineらは、加えて、エンテロウイルスの混合感染が見られたことと、クループは多くで重感染が発見され、単一の感染が稀であるため、原因となるウイルス性病原体ではない可能性が高く、クループを発症した場合は、重感染のチェックが必要と考え、SARS-CoV-2は小児の重度クループのCommonな原因ではない可能性を説いている。SARS-CoV-2のクループに重感染が多いかは、まだ結論は出てない。

 

1) Venn AMR,et al. Am J Emerg Med 2020;S0735-6757(20)30829-9.

2) Pitstick CE, et al. Pediatrics 2021;147(1):e2020012179.

3) Caroline LHB, et al. Am J Emerg Med. 2021;18;S0735-6757(21)00130-3.