小児総合診療医のひとりごと

小児科, 総合診療科(家庭医療), アレルギー についてのブログ

2143人の小児コロナウイルス感染:中国における疫学的特徴

American Academy of Pediatrics 2020

中国における新型コロナウイルス感染(COVID-19)に罹患した小児例の疫学的特徴

https://pediatrics.aappublications.org/content/pediatrics/early/2020/03/16/peds.2020-0702.full.pdf

 

・2020年2月8日時点で、COVID-19に罹患した小児2143人の疫学的特徴を後方視的に調査した。分析は、中国CDC(疾病予防管理センター)の疫学データを用いた

・小児例は、年齢18歳未満と定義

・確診例は、コロナウイルスPCR検査など咽頭ぬぐい液・血液で証明されたもの

・疑い例は、下記の条件2つ以上満たすもの とした

  • 症状:発熱or 呼吸器症状or消化器症状(下痢、嘔吐、嘔気)or倦怠感
  • 検査:WBCやリンパ球が 正常or減少、CRP上昇
  • 胸部レントゲン異常

 

重症度

無症候性:症状や検査・胸部レントゲン所見がなく、ウイルスが感染のみ証明

Mild(軽症):上気道症状のみ(稀に消化器症状のみ、発熱なし)、聴診異常なし

Moderate(中等症):肺炎と下気道症状あり(稀に無症候性の肺炎あり)、低酸素血症なし

Severe:(重症)無呼吸、低酸素血症(SPO2 92%未満)あり

Critical(致死的):臓器障害により生命が脅かされる場合

(ARDS、呼吸不全、ショック状態、脳炎、心筋障害、心不全、凝固異常、急性腎不全など)

 

 

〇COVID-19の疫学的特徴

f:id:drtasu0805:20200401193439p:plain

・疑い例が1412人(65.9%)、確診例は731人(34.1%)

・平均年齢は7歳、1213人(56.6%)が男児で43.4%が女児 性別に有意差なし

・重症度

94人(4.4%)が無症状、1091人(50.9%)が軽症、831人(38.8%)が中等度、重症または致死的例は125人(5.8%)

・症状出現から診断まで、平均2日

 

〇年齢による重症度の違い

f:id:drtasu0805:20200401193557p:plain

・重症例は、1歳未満の割合が高い(Critical症例のうち1歳未満が53.8%、Severe症例のうち1歳未満が29.5%)

・2143人中、死亡したのは14歳の男児1例(死亡率:約0.05%)

・多くの症例は軽症、重症と致死的例を合わせると小児は5.9%と成人より低い(成人は既報で18.5%)、小児は重症化しにくいと推察されるが死亡例は存在する

 

〇Disccusion

・感染した小児の多くは、COVID-19に罹患した家族や友人と濃厚接触を持っていた

・1歳未満は、1歳以上と比較して、重症と致死的例の頻度が高い(10.6%)

・小児が成人よりも重症化しない理由は不明であるが、下記の機序が考えられた

  • 接触の違い:病原体や体調不良者と接触する機会が少ない
  • ACE2の違い:SARSコロナウイルスはアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合して細胞内に侵入するが、COVID-19はSARSアミノ酸類似性があり、同様の侵入経路が疑われる。小児はACE2の成熟度と機能(結合力など)が低いため、COVID-19に感染しにくい可能性がある
  • 免疫系の違い:冬期にウイルス感染に成人より罹患しやすく、抗体価が高く推移することでウイルス感染に有利に働いている。免疫系が発達途中のため病原体への反応が成人と異なる。