Case3. ST合剤投与中に指摘された尿中の結晶
N Engl J Med 2021;384(11):1053
HIVの既往がある42歳男性。肺炎の治療のため入院した。ST合剤の静脈内投与1週間から尿量が減少した。BUN:46㎎/dl(15㎎/dl)、Cre 3.7mg/dl(0.8㎎/dl)。尿検査で、図の結晶あり。
Q. 尿検査で確認された結晶は何か
診断:ST合剤(スルファメトキサゾール-トリメトプリル)による“shock of wheat”スルホンアミド結晶。
経過:スルホンアミド結晶誘発性急性腎障害と診断された。輸液負荷と、ST合剤を他の抗生剤に変更して腎障害は改善した。
結晶誘発性急性腎障害
・複数の薬剤もしくは薬剤の代謝物が、尿中に結晶を形成し、尿細管の管腔内沈殿することで急性腎不全を起こす。一般的に『結晶誘発性急性腎障害(腎症)』と呼ばれる。
・特に、メトトレキセート、アシクロビル、メトトレキサート、トリアムテレン、サルファ剤(スルホンアミド系薬剤とも呼ばれる。ST合剤に含まれるスルファメトキゾールや、炎症性腸疾患に以前用いられたサラゾスルファピリジン)に多い。
・結晶誘発の予防
脱水の補正、水分摂取量:3L日以上に維持、尿アルカリ化する ことで予防が可能といわれている。
スルホンアミド結晶と腎障害
・細胞断片やたんぱく質、赤血球円柱と混合したスルホンアミド結晶が、遠位尿細管腔の閉塞を引き起こす。(ただし、スルホンアミド結晶の存在は、薬物の投与を示し、必ずしも病的状態ではない)。
・ST合剤により生来健康な患者にも腎障害を引き起こすが、その病態は一般的に薬剤への過敏性反応としてアレルギー性の急性間質性腎炎である。
・ST合剤による形成されるスルホンアミド結晶の誘発頻度は、Perazellaらは0.4%–49%と報告している。しかしFraserらの報告では1例も認めず、報告により大きく差がある。1970年代から概ね報告が少ないことから、まれな副作用と考えられている。
ST合剤によるアスルホンアミド結晶の特徴
・ST合剤に含まれるスルファメトキゾールは、サルファ剤(スルホンアミド構造を有する薬剤)である。特に高容量で使用すると尿中に結晶を誘発し、結晶誘発性急性腎障害を起こしうる。
・通常量よりも投与量が多いトキソプラズマ患者とニューモシスチスカリニのHIV患者の報告が多い。
・結晶は『尿PH:5.5以下』の酸性尿で不溶性となり、析出しやすい
・結晶の形成リスクは、①体液量の減少 ②腎臓の基礎疾患 ③酸性尿 など
・結晶誘発性急性腎障害を起こしても、薬物が中止や、大量輸液・尿アルカリ化により7日以内に可逆的に改善する。
・誘発される結晶は、尿の顕微鏡による確認で簡便に診断できる。
スルホンアミド結晶は、『針状』や『麦の穂束=Shock of Wheat』に見える。
【参考文献】NEJMの文献だけでは不十分なので下記を参照した。日本語の文献は、検索してもほとんどない。