小児における尿路感染症(Urinary Tract Infection:UTI)の基本
小児内科49:536-541,2017より
【尿路感染症の疫学】
定義:通常無菌である尿路から有意な細菌がされること
膀胱尿管逆流症(Vesicourethral Reflux:VUR)や先天性腎尿路異常(Congenital anomalies of the kidney and urinary tract:CAKUT, 低形成異形性腎など)が発見されることが多く、感染反復は腎機能障害(逆流性腎症)の原因となるため重要
上部UTIは、低年齢、1歳未満の男児、1歳以降の女児、白人とヒスパニック、包茎がリスク因子
【起炎菌】複数細菌の検出は合併尿路奇形の存在を疑う
70-80%が大腸菌、次に腸球菌が多い。その他にクレブシエラ、プロテウス、エンテロバクター、緑膿菌などのGNR、B群溶連菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌などのGPCが報告
【診断】
2011年にアメリカ小児学会(AAP)より、『白血球尿(WBC>5/HPF)と有意な細菌が存在する』と定義
実臨床では、白血球尿が存在しないUTIも存在するため注意深い観察が必要
【臨床症状】
上部UTI:高熱以外に、活気不良や体重増加不良/側腹部痛や背部痛/消化器症状などの全身症状を伴うが多い
下部UTI:膀胱刺激症状のみ
【検査所見】
尿検査:パック尿は尿培養で擬陽性率が80-90%と非常に効率であるため診断に適さない
白血球沈査>5/HPF、好中球エラスターゼ(特異度低い)、亜硝酸(感度低い、特異度高い)
カテーテル採尿:104-5/ml 以上
クリーンキャッチ尿(採取前は外陰部消毒):105/ml 以上
尿培養が最も重要だが、結果判明まで18-24h以上要するため、尿グラム染色と尿検査を手掛かりに暫定診断することとなる
【血液検査】下部との鑑別のため特異的検査はない
上部UTIでは菌血症を合併(新生児:31%、1-3か月:21%、3か月以上:5%)であるため採血時は血液培養も採取する
【画像検査】
画像検査の目的は、①VURをはじめとするCAKUTの発見、②急性期難治例に対する膿瘍や閉塞性障害の診断、③腎瘢痕の評価
超音波検査
CAKUTの発見/膿瘍や閉塞性障害の評価(VURの発見や腎瘢痕の評価には適さない)
VCUG(Voiding cysto-urethrography)
VURだけでなく、膀胱容量や形態/後部尿道弁など下部尿路形態も評価するため排尿時膀胱“尿道”造影になるように行う
AAPの2011年ガイドラインでは、適応を制限する方向となった(上部UTI再発、臨床経過が非典型例、超音波異常に行う)
ヨーロッパの2015年ガイドラインでは、女児および1歳未満男児には全例に行う
DMSAシンチグラフィー
急性期(上部UTI発症後1か月以内):上部UTI診断/将来的な腎瘢痕リスク者の同定、慢性期(発症4-6か月後):腎瘢痕評価 の2つの目的で実施される。
- 急性期
低年例で感度が低い/鎮静が必要/全施設で実施できない などの問題点がありガイドラインでの推奨まで至っていない
- 慢性期
腎瘢痕の評価のため有用、逆流性腎症フォーラムからStage分類が提案されている
【治療】
上部UTI:各施設のUTI起炎菌の感受性を考慮して抗菌剤を選択する
治療の遅れによる状態悪化/腎瘢痕の形成を防ぐために速やかに治療を開始する
計7~14日間の投与が推奨、急性巣状細菌性腎炎は3週間、腎膿瘍は膿瘍消失まで投与
(日本の医療環境では、入院で経静脈的抗菌剤を開始し解熱24時間を確認後に内服に変更し計10-14日間の抗菌剤投与が実際的である)
下部UTI:
2-4日間の投与が推奨
日本では5日ほどの内服が行われることが多い(日本ではST合剤耐性細菌が多い)
【慢性期管理】CAP(Continuous antibiotic prophylaxis:抗菌薬予防内服)に関して
1999年のAAPガイドラインでは、全例にCAPが推奨されていた。2000後半にCAPの効果に否定的なRCTが報告されて以後は適応に関して議論中である
セフェム系抗菌薬の耐性誘発を考慮すると可能な限りST合剤の内服が望ましいと思われる
各RCTの比較
東京都立小児総合医療センター腎臓内科では下記を適応としている
- 生後1か月未満のVUR症例
- 生後1か月以上のVUR 3度以上
- 排尿機能異常症例に関しては、VUR 1-2度でも考慮
生後1か月未満:セファレキシン 5-10㎎/㎏/日分1 寝る前
生後1か月以上:ST合剤 0.0125-0.025g/㎏/分1 寝る前