小児総合診療医のひとりごと

小児科, 総合診療科(家庭医療), アレルギー についてのブログ

高熱が続くと精子が死ぬのか?

 

最新版は下記

drtasu.hatenadiary.jp

精子は死ぬか

伝染性単核症の母から『高熱が続くと精子が死ぬとネットに書いてある。』と言われ本当にそうなのかPubmedで検索した。

 

【結論】

●死ぬかどうかは不明だが、発熱後に一過性に精子濃度が減少し、正常な形態の割合も低下する。ただし、2-3か月後には回復する。

 

Effect of increased scrotal temperature on sperm production in

normal men 1997 Aug;68(2)

陰嚢温度を上昇させるために、補助具を使用して睾丸を腹部に近づけ、精子産生が減少するかを調べた。デザイン:将来の臨床研究。 21人の健康な男性ボランティアが6週間の装着前期間、52週間の装着期間、正常な精子産生に回復するまでの期間を調べた。(期間中は1日中、補助具を着用する)

結果:

被験者(3グループ:補助具は3種類あり1層・2層・3層構造の補助具を使う)の全てで、補助具を装着している間、陰嚢温度は常に0.8〜1℃上昇したが、平均精子濃度、精子の運動性、形態および生存能力に違いはなかった。 →正常体温から1℃程度の体温上昇であれば、精子形成の著しい抑制または精子機能の変化は引き起こさないと思われる。

 

3グループの陰嚢温度について:装着後0.8~1度程度の体温上昇f:id:drtasu0805:20170406192801p:plain

精液の量(Semen volume)、精子の濃度(Sperm concentration)、精子の運動性(Sperm motility)、精子の形態(Sperm morphology)について:

いづれも装着前後で有意差なしf:id:drtasu0805:20170406192817p:plain

 

 

History of febrile illness and variation in semen quality Human Reproduction

Vol.18, No.10, 2003

2003年に発熱の病歴が精液の質に及ぼす影響を分析。

 

方法:27人の健康な男性(年齢中央値24.4歳)に毎月の精液サンプルと1998年3月から16ヶ月の間に経験した発熱の記録させた。発熱時の精液サンプルを用いて精液量、精子濃度、精子の運動性および形態学的に正常な精子の割合を分析した。

精子の形成時期:精子形成は、分裂増殖期・減数分裂期・精子形成期・精巣上体精子成熟の4段階に分けられる。これらの時期は精子の射精前にそれぞれ約57-80、33-56、9-32、0-8日に発生する。

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結果:精子濃度は減数分裂中の発熱で32.6%減少、減数分裂後の精子形成期間中は35.0%減少した。形態学的に正常な精子の割合は7.4%減少した。精子形成中の発熱により不動性の精子の割合は20.4%増加した。発熱した日数は、精液パラメーターに影響を与える。減数分裂および精子形成の間の発熱は、発熱1日あたりそれぞれ7.1%および8.5%の精子濃度を低下させた。精子形成の間、形態学的に正常な精子の割合は、1.6%減少し、不動の精子の割合は1日当たり4.5%は増加した。 発熱期間の中央値は5日(1-11日)だった。

精子の濃度は、熱性エピソードの約56日後に影響を受けた。精子運動性および精子形態は発熱性エピソードの32日後までしか影響を受けなかった。

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発熱後57-80日の精子濃度、精子の形態・運動性は影響を受けておらず、発熱に伴う精子への影響は一過性と思われ、生涯にわたる影響はない、と考えてよいのではないのではないかと思う。

(伝染性単核症は、まれに精巣炎の報告あり精巣炎が起きれば生涯にわたる影響があると思われるが、高熱により精子が死ぬという記載はなく、『発熱によって一過性に精子濃度や精子の形態・運動性には影響を与える』ことは言える)

片側性の顔面神経麻痺

2008年の日本神経治療学会の標準的神経治療:片側顔面痙攣によると、『顔面神経の不随意な興奮によって支配筋に痙攣を生じる病態で、この一部に脳底動脈または硬化症濃度うまくあるいはその分枝が顔面神経に触れて拍動性の圧迫を及ぼすことで起こる』とされている。

 

 

 

B型肝炎について

B型肝炎のワクチン接種が2016年10月から1歳になるまでの小児に定期予防接種化された

小児B型肝炎診療指針と日常診療 日本小児感染症学会シンポジウム2009

B型肝炎では、C型肝炎と異なり小児でも肝硬変や肝細胞癌が発生する例があり注意深いフォローが必要。B型肝炎のを治療する際の治療目標は、肝臓の炎症を鎮静化し炎症の持続に伴う肝繊維化の進行、肝硬変および肝細胞癌の発生を防ぐことにある。治療に際しては肝炎の活動性と繊維化の評価のために肝生検が必須である。HBe抗原陽性のキャリアであれば、現実的な治療目標はHBe抗原の陰性化やHBe抗原・HBe抗体系のセロコンバージョン(HBe抗原消失およびHBe抗体出現)である。HBV感染が疑われる場合は、HBs抗原を検査する。HBs抗原陽性であれば、ALT含む生化学に加えHBV DNA量、HBe抗原、HBe抗体を検討する。急性肝炎を診断する際はIgMHBc抗体を測定する。近年では、父子感染が問題となっており、HBVキャリアの場合にも髭剃りや歯ブラシの共有など少量の血液感染を介して家族内発症することがある。

乳児期に全員ワクチンを接種する(Universal vaccinatin)ことは、わが国でも母子感染が激減していること、水平感染であってもキャリア化する、Genotype AのHBV感染が増加していることから水平感染防止が重要になっており、Unversal vaccinationは重要である。

 

HBVワクチンについて

10%前後に副作用が認められ、主な副作用は倦怠感、頭痛、局所の発赤、発赤、疼痛。B型肝炎ワクチンには2種類(化成研製、MSD社製)あり、MSD社のワクチンバイヤルにはラッテクスが用いられているためラテックス過敏症の患者者には注意が必要である。

一般的な予防接種:

対象は本年4月以降に生まれる0歳児で、標準接種スケジュールは生後2ヶ月と3ヶ月、7~8ヶ月の3回接種。

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通常、0.5ml(10歳未満は1回0.25ml)ずつを4週間隔で2回、1回目の接種から20-24週後に1回の計3回を皮下または筋肉内に接種します。

小児の酸素化目標値はSPO2何%なのか?

Oxygen saturation targets in infants with bronchiolitis (BIDS): a double-blind, randomised, equivalence trial

Lancet 2015; 386: 1041–48

 

【背景】

細気管支炎では2006年にUK Sign GuidelineではSPO2≧94%

American Academy of Pediatricsでは(WHOも推奨)SPO2≧90%

を許容できる酸素管理値をして推奨しているが、エビデンスに基づく値ではなかった。

SPO2の目標90%以上が、急性ウイルス性細気管支炎においてSPO2:94%以上に相当する効果があるのか評価した。

 

【方法】

ウイルス性細気管支炎で入院した生後6週~12ヶ月までの乳児を、標準群(SPO2<94%で酸素投与する標準酸素濃度計群)と修正群(SPO2:90%の測定値を94%と表示し、SpO2<90%まで酸素を与えない)に割り付ける多施設RCTを行った(n=615)。ベースラインの特徴は、2群間で類似していた。 評価項目は、咳の持続期間・食事摂取が正常の75%以上に回復する期間・両親が健常だと判断するまでの期間、退院可能な状態と判断するまでの期間、実際の退院までの期間、酸素投与が不要となるまでの期間 を評価した。

【結論】f:id:drtasu0805:20170414101139p:plain

咳の持続期間は両群とも中央値15.0日で同等であった。

修正群で2.7h 標準群より早く適切な摂食に戻った。

修正群では、両親が健常な状態であると判断する期間は1日短かった。

実際の入院期間も修正群では優位に短かった(入院期間 標準:50.9h、修正群:40.9h)。

酸素投与期間は修正群で優位に短かかった(標準:27.6h、修正群:5.7h)

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両親が退院できる状態はない と思う割合

⇒修正群では、標準と比較してより早く、両親が退院できないと思う割合の低下を認めた。

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退院後の再入院率は、28日後まで両群で同等であった。

 

【評価】

乳児細気管支炎でのSpO2目標値を検討しSPO2:90%は安全かつ臨床的に有効(小児の急性ウイルス性細気管支炎で、SPO2:90%また94%に管理されているかどうかにかかわらず、症状:咳の持続期間が改善するまでに要した時間は同等だった。)であり、入院期間を短縮する傾向が見られた。酸素療法に用いられる医療費用を抑えられる側面もある。

SPO2:90%以上を目標とした管理は、酸素を必要とする幼児の数が少なく、食事摂取の回復が早い、より早く帰宅できるかもしれない。

しかし、肺炎の小児や慢性肺疾患の早産児はSPO2:90%未満である場合に死亡する危険も高くなる報告もある。

 

この文献から得た上記内容を加味すると、

SPO2:90%以上を目標とすることは有益な点が多いと思われるが、(特に、SPO2モニタリングを常にCheckできるような環境が整っていない病院)SPO2:90%未満で酸素投与を開始する管理を行うことは、各医療機関でよく考えなければならない

 

 

 

 

 

昇圧剤:(ショック時の昇圧剤は)ドーパミンとノルアドレナリンどちらが有益か

ドーパミン使用は、不整脈の出現率がノルエピネフリンより高く、かつ心原性ショックにおいては死亡率の上昇に関与している

Comparison of Dopamine and Norepinephrine in the Treatment of Shock

N Engl J Med 2010; 362:779-789

背景:

ドーパミンノルエピネフリンは、ショック時にFirst lineの昇圧薬として推奨されている。どちらが優れているかどうかについての継続的に論争されている。

方法:

今回の多施設無作為化試験では、割り当てた患者に初期昇圧剤としてドーパミンノルエピネフリンを血圧を上げ維持するために用いた。ドーパミン20μg/㎏/minの用量で維持することができなかった場合や、ノルエピネフリン0.19μg/㎏/minで血圧を維持できない場合は、ノルエピネフリンエピネフリン、またはバソプレシンを追加可とした。主要転帰は、無作為化後28日目の死亡率とした。二次エンドポイントは、有害事象の発生と、臓器サポートが必要ない日数とした。

結果:

1679人の患者で、858人にドーパミン、821人にノルエピネフリンに割り付けられた。集団のベースライン特性は同様であった。28日後の死亡率に大きな差はなかった(ド--パミン使用群:52.5%、ノルエピネフリン群で48.5%ノルエピネフリン;ドーパミンOdds比 1.17; 95%信頼区間0.97-1.42; P= 0.10 )。しかし、ドーパミンで治療を受けた患者の間でより不整脈の有害事象があった。(ドーパミン207事象(24.1%)対ノルエピネフリン102事象(12.4%)、P <0.001)。サブグループ解析でノルエピネフリンにと比較してドーパミンでは、280人の心原性ショックで28日後の死亡率が増加した。1044人の敗血症性ショックのや263人の循環血漿量減少性ショックでは増加はなかった。(P=0.03 心原性ショック、P=0.19 敗血症性ショック、P=0.84 循環結晶量減少性ショック、カプランマイヤー分析)。

結論:

全ショック患者間の死亡率に有意差はなかったが、ショック患者においてドーパミン使用群ではノルエピネフリンの使用群より有害事象数が多かった。

 

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28日、6カ月、12か月後の死亡率は両群で著変なし。

ICU入室期間は有意差ないがノルエピネフリン群でやや短いような?

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両群で生存期間に有意な差はなし。(有意差はないが常にドパミン群で生存率が低くみえる?)

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有害事象について:

両群あわせて309人(18.4%)に不整脈が出現。内訳は心房細動 266人(86.1%)が最多。不整脈以外の有意差のある有害事象はなかった。ドパミン群で不整脈が有意差をもって多い。

ちなみに、エピネフリンの投与量・血圧・初日の総輸液量に関して両群間で有意差なし。初期24時間の尿量はドパミンで多かったが、In-Outバランスを加味すると有意差なし。

 

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サブ解析すると、28日後の死亡率は心原性ショックに関してドパミン使用群で高かった(P=0.03)。

⇒ドパミン使用群では不整脈の出現率がノルエピネフリンより高く、かつ心原性ショックにおいては死亡率の上昇に関与している(*Cadiac outputはドパミン群で有意に良いことが多数の文献で報告されている、死亡率が高くなる原因はドパミン群でHRが上昇することで虚血が起こりやすいからなのでは?と本文献ではDisucussionされている。)

 

Up to date『Post-cardiac arrest management in adults』This topic last updated: 10.5,2016. 

心肺蘇生後の昇圧剤使用に関してUp to dateに以下記載

Inotropic and vasopressor support can mitigate the myocardial dysfunction that is common during the first 24 to 48 hours after cardiac arrest. There is no evidence demonstrating the superiority of any one vasopressor in the post-cardiac arrest patient. Commonly employed vasopressors include dopamine (5 to 20 mcg/kg per minute), norepinephrine (0.01 to 1 mcg/kg per minute; 0.5 to 70 mcg/minute), and epinephrine (0.01 to 1 mcg/kg per minute; 0.5 to 70 mcg/minute).A large cohort study evaluating vasopressor support during the first 24 hours after cardiac arrest, measured by the cumulative vasopressor index, reported that 47 percent of patients receive some vasopressor support .

Studies in septic patients report no difference in mortality between patients treated with dopamine or norepinephrine, but the risk of cardiac arrhythmia may be higher in patients treated with dopamine. Given these data, we use norepinephrine as the first line vasopressor in the undifferentiated post-arrest patient.