Case5. 子どもに生じた頸部の腫れ (Am Fam Physician. 2021;103(7):437-438.)
【症例】5歳。2週間から徐々に頸部正中に腫れ(無痛性、境界明瞭、弾性軟、可動性あり)が出現した。嚥下や発話の異常なし。頸部に外傷なし。舌の突出で隆起する。
質問: 最も可能性の高い診断は、なんですか?
A. 感染したbranchial cleft cyst(鰓裂嚢胞、側頚嚢胞)
B. 感染したepidermal inclusion cyst(類皮嚢胞)
C. 感染した甲状舌管嚢胞(正中頚嚢胞)
D. 化膿性リンパ節炎
E. 甲状腺結節
診断
A. 感染した甲状舌管嚢胞
頚部腫瘤のアプローチ
- 先天性、炎症性、腫瘍性の3カテゴリーに分類される
- 腫瘤の位置によって鑑別が異なる
甲状腺舌管嚢胞について
- 甲状舌管嚢胞は、甲状舌管遺残で正中頚嚢胞とも呼ばれ、1~2%で癌が発生する(発生する癌は約90%が、予後良好な甲状腺乳頭がん)。
- 甲状舌管嚢胞は舌骨の上に位置し、舌の突出または嚥下によって上昇する。類皮嚢胞は皮膚とともに移動する。
- 多くは小児だが、最大3分の1が20歳以上
- 原則、無症状。上気道感染に併発して感染性の嚢胞化が多い。
- 通常、正中線から2cm以内に存在する。
- 頭頸部がんの放射線療法により、無症候性の甲状舌管嚢胞が急激に拡大することを放射線治療医は知っておく必要がある
- 穿刺吸引:診断と他疾患除外のために頻用される。細胞形態に、コロイド・マクロファージ・リンパ球・好中球・繊毛円柱細胞を含むが、甲状舌管嚢胞に固有の所見ではない。
- 画像検査:CT、MRI、超音波検査が有用(超音波は、後方音響増強を伴う無~低エコー腫瘤。舌骨を含む周囲の構造との関係性の描出は難しい)。
- 血液検査:異所性甲状腺のよる甲状腺機能低下症の合併もありうるので、甲状腺機能を全症例で評価する。
感染した甲状舌管嚢胞
- 感染を繰り返す可能性があるため、抗生剤で感染が改善したら、根治手術を行う。
- 切開排膿は、抗生物質に反応しない膿瘍の場合にのみ考慮する。(理由①:切開排膿で、嚢胞外に細胞組織を播種させ、再発の可能性を高める可能性が指摘されている。理由②:瘢痕化や皮膚瘻がない場合のほうが根治手術が簡単)
- 抗生剤の選択
感染した嚢胞は、中咽頭常在菌が感染源として多い。連鎖球菌種、口腔嫌気性菌を含む口腔生物を想定した広域抗生物質を選択する。
第1世代セフェム系(セファレキシン500mgを6時間毎)、アモキシシリンクラブラン酸(500mg/125mgを8時間毎)、クリンダマイシン(600mg内服を8時間毎)を行う。MRSAを想定した経験的治療の推奨なし。
【症例】
Am Fam Physician. 2021;103(7):437-438.
【参考文献】
・A child with neck swelling. BMJ (Clinical research ed.). 344. e3171. 10.1136/bmj.e3171.
Am Fam Physician. 2014;89(5):353-358.
・Thyroglossal duct cysts and ectopic thyroid. In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA.(Accessed on January 04, 2018.)