小児総合診療医のひとりごと

小児科, 総合診療科(家庭医療), アレルギー についてのブログ

ネブライザー(吸入療法)は、エアロゾル感染のリスクを増加させるか?

ネブライザー(吸入療法)は、エアロゾル感染のリスクを増加させるか?

 

結論:十分なEvidenceがまだ不足しているが、ネブライザーは、エアロゾルによる感染リスクを増加させる可能性が高い

 

 

エアロゾル感染と処置についての現状】

呼吸器病原体の発生源としてエアロゾルおよび液滴を生成すると考えられている手順には、陽圧換気(BiPAPおよびCPAP)、気管内挿管、気道吸引、高周波振動換気(HFOV)、気管切開、胸部理学療法ネブライザー治療、痰誘導、および気管支鏡検査などがある。これらの手順は咳を刺激し、エアロゾルの生成を促進することが知られているが、感染の伝播のリスクのEvidenceの詳細はわかってない部分が多い。各国のCOVID19ガイドラインでも、Evidenceが不透明な処置に関しては、感染予防策への言及があいまいな表現も見受けられる。

 

エアロゾルと感染】

エアロゾルの定義は「気体とその気体中に浮遊する固 体もしくは液体の粒子」。よって、飛沫も飛沫核も空中に浮いている限りエアロゾルであり、エアロゾルを吸っての感染「エアロゾル感染」という表現は、空気を介した感染(空気感染)の実態をより的確に示した用語である。

 

エアロゾルを発生させる処置】

https://www.atsjournals.org/doi/abs/10.1164/rccm.2024P13

f:id:drtasu0805:20210316174644j:plain

ネブライザーエアロゾル感染リスクについて】

Aerosol generating procedures and risk of transmission of acute respiratory infections to healthcare workers: a systematic review

f:id:drtasu0805:20210316173816j:plain

処置とエアロゾルのリスク

ネブライザー処置は、OR 0.9(95%CI 0.1,13.6)で、統計的にリスクが低いように、考えられるが、この解釈には注意が必要である。

この論文では、ネブライザーのリスクを、3つのコホート研究から判定したが、

2つのコホート研究(Loebら, Raboudら)が、ネブライザー治療はリスクになると報告している。

しかし、別の1つのコホート研究(Wong ら)はリスクにならないと報告している。このWongらの報告では、SARS感染のリスクが高い(ベッドサイドで臨床評価を行った)医学生も用いて分析されており、医学生ネブライザー療法が使用される前からSARS感染のリスクが高い点や、医学生の感染管理対策のトレーニングを評価がなされていない点から、医学生がバイアスとなりネブライザー処置のリスクを低く見積もる原因になった可能性がある。Wongらのデータを除外して、LoebらとRaboudetらによるコホート研究のみ用いて統計すると、OR 3.7(95%CI 0.7,19.5)であった。

感染予防の観点からは、統計的な有意差が確認されていないものの、リスクは高いと想定しておいたほうが望ましい。

 

そのほかの危険が高い処置のエアロゾル感染リスクをまとめると下記となる。

・リスクが高く、統計的にも有意差がある:気管挿管OR 6.6(95%CI 4.1, 10.6)、非侵襲的換気(OR 3.1; 95%CI 1.4, 6.8)、気管切開(OR 4.2;95%CI 1.5, 11.5)、挿管前の手動換気(OR 2.8; 95%CI 1.3, 6.4)

 

 

ネブライザーエアロゾルリスクについての文献

  • Loebら:SARS among critical care nurses, Toronto. Emerg Infect Dis. 2004;10:251–255.
  • Raboudら, Risk factors for SARS transmission from patients requiring intubation: a multicentre investigation in Toronto, Canada. PLoS ONE 5:e10717.
  • Wongら:Cluster of SARS among medical students exposed to single patient, Hong Kong. Emerg Infect Dis. 2004;10:269–276