小児総合診療医のひとりごと

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Nuck管水腫

【病歴】若年女性。左鼠径部の膨隆で受診した。左鼠径部にのう胞性病変あり。

Acta Radiol Open. 2019 Dec; 8(12): 2058460119889867.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6902399/

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診断は?

Nuck管水腫

・女性の腹膜鞘状突起は、子宮円索とともに鼠径管を通過し大陰唇にいたるが、生後1年で完全に閉鎖する

・閉鎖せず残存した鼠径管内の鞘状突起は、Nuck管といわれる

・Nuck管内に漿液が貯留し水腫となった状態をNuck管水腫(嚢胞)という

・腹腔内と交通があるものと交通がないものに分類され、交通性は小児例に多く、非交通性は成人例に多い

【疫学】

・小児期の発生頻度は全出生数の0.1%と推定され稀である。成人での頻度は不明である。

【症状】

・無痛性の鼠径部腫瘤として触知される

・疼痛を認めた報告はあるが、Nuck管水腫で疼痛を生じる原因は不明

【鑑別】

鼠径ヘルニア、脂肪腫、粘液腫、平滑筋腫、肉腫などの腫瘍、嚢胞、膿瘍,リンパ管疾患、子宮内膜症、非還納性卵巣ヘルニア

【検査】

超音波検査:子宮円靱帯の走行と一致する内部が無エコーの嚢胞性腫瘤、comma-shaped lesion with its tail directed toward the inguinal canal(鼡径管に尾側を向けるコンマ型の腫瘤)

CT:低吸収の嚢胞状病変

MRI:T2強調画像において内部は均一な高信号を呈し、内部の均一な漿液性成分

【治療】

通常、生後1年以内に閉鎖するため、1歳まで経過観察し、それ以降に治癒しない場合、手術を行うことが一般的である。腹膜鞘状突起の高位結紮術+水腫吸引が行われる。

緊急手術になることはないが、急速に出現し軽い痛みを伴う場合があり、血行障害を伴った非還納性卵巣ヘルニアとの鑑別が重要である

 

Nuck管水腫の本邦報告55例の検討

年齢

1-79歳

左右

右30例, 左21例, 両側1例

部位

鼠径部35例, 外陰部5例

症状

膨隆40例, 疼痛11例

合併症

鼠経ヘルニア4例, 子宮内膜症3例, 子宮腺筋症1例, 膿瘍1例

術前診断

Nuck水腫13例, 鼠経ヘルニア16例, リンパ節炎3例, 嚢胞性腫瘍3例

大きさ

最大4×7㎝, 最小1.3×0.8㎝

治療

切除47例, 高位結紮術1例, 腹腔鏡下の穿刺・吸引1例, 不明1例

澤田ら, IRYO 2008 62(6);347-349

 

Nuck管の図

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