心不全の血管拡張薬の使い分け:硝酸薬かhANPか?
参考文献
・誰も教えてくれなかった 循環器薬の選び方と使い分け(2017/3/30発行)
→読みやすい 分かりやすい名著
・レジデントノート増刊 Vol.14 No.14
循環器診療の疑問、これで納得!(2012年11月発行)
・レジデントノート 2016年10月号 Vol.18 No.10
心不全の診かた
急性心不全では、クリニカルシナリオ(CS)と呼ばれる収縮期血圧を指標とした分類による治療方針が用いられることが多くなり、CSの普及により従来利尿剤を使っていたところを血管拡張薬で加療することも多くなっている。
血管拡張薬の使い分け(硝酸薬かhANPか?)
主な血管拡張薬は、
硝酸薬(ニトログリセリン)、人遺伝子組み換えANP:hANP(カルペリチド)の2種類。
いずれも細胞内のcGMPを増加することで血管拡張作用を示す
血管拡張薬を用いる上で重要な点は以下3点
①前・後負荷:硝酸薬は前負荷>後負荷、hANPは前負荷=後負荷
②利尿作用:硝酸薬はほとんどなし、hANPは顕著にあり
③臓器保護作用:たぶんhANP>硝酸薬
急性心不全では後負荷(動脈系圧上昇)による心拍出量低下が病態形成に重要な影響を与える。利尿・臓器保護作用もカルペリチド(hANP)が優れているため、カルペリチド販売後は心不全の血管拡張薬治療はカルペリチドを第一選択とすることが多い。(実地臨床では、お金がない・院内採用がない・脱水傾向で顕著な利尿を避けたい場合以外カルペリチドを使用することが多い。)
なぜ硝酸薬とhANPで前負荷・後負荷に対する作用が異なるのか?
(血管を拡張させるメカニズム)
①前・後負荷:ニトログリセリンは前負荷>後負荷、hANPは前負荷=後負荷 はなぜ?
血管平滑筋の緊張は大きく2つの細胞内因子:CaとcGMPで規定される。
Ca:血管平滑筋を収縮、cGMP:血管平滑筋を弛緩 という効果がある。
両薬剤ともにcGMPを増やすことで血管拡張作用を発揮する。
<cGMP:GTPからグアニル酸シクラーゼと呼ぶ酵素(以下、GC)により産生>
硝酸薬は、静脈中でより多くHb-NOから分離し、NOとなり作用を発揮する
上記の機序で
硝酸薬:静脈で血管拡張作用が強い(前負荷減少)
動脈で血管拡張作用が弱い(後負荷減少が強くない)
hANP:静脈・動脈に同等に作用する(前・後負荷が減少)
hANPでなぜ利尿作用を示すか?
ANP(心房ナトリウム利尿ペプチド)の作用による。
ANPは心房筋が進展されると分泌され、子宮体の輸入細動脈を拡張、輸出細動脈は拡張せずに軽度収縮させる。糸球体濾過圧が上昇して原尿を増やす。
臓器保護作用:hANP>硝酸薬??
hANPは細胞質内GCに作用、硝酸薬は細胞膜GCに作用する。
細胞質内GCに作用する場合のみ、動物実験で心保護作用が認められた。
実地臨床では、hANPの臓器保護作用を証明する文献はまだない。多分いつか出ると思うが・・・、ちなみに下記の文献で全死亡 再入院は減ると報告。
hANPの文献:
重症心不全患者49例のうち、低用量カルペリチド(0.01-0.05γ、72h)と非投与群を比較。
カルペリチド投与群で、血中ANPとcGMP濃度が有意に上昇し、カルペリチドが内因性ANPの作用を増強したことを示した。
長期予後(18か月のフォロー期間中の全死亡および再入院)が、カルペリチド群では11.5%、非投与群で34.8%であった。短期予後不明。
急性期血行動態や心筋障害指標のトロポニン値、腎障害指標のCreに有意差なし。