時間がない急性心筋梗塞の対処(初期評価、検査、診断、治療)
短くまとめた急性心筋梗塞の対処まとめ(診断、治療)
院内勉強会の内容を整理
ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)より一部引用
1 発症から病院まで
急性冠症候群が疑われる患者にニトロ投与を指示
(ニトロペン0.3㎎1錠舌下、ミオコールスプレー 1Puff)
5分後も症状が持続するなら救急要請を考慮
2 初期評価
・Vital sign測定、ショック症状・低酸素・不整脈の覚知
・発症時間、随伴症状、冠機関因子、身体所見(Killip分類)
クラス I |
ポンプ失調なし |
肺野にラ音なく, III音を聴取 しない |
クラス II |
軽度~中等度の心不全 |
全肺野の50%未満の範囲でラ音を聴取あるいはIII音を 聴取する |
クラス III |
重症心不全,肺水腫 |
全肺野の50%以上の範囲でラ音を聴取する |
クラス IV |
心原性ショック |
血圧90mmHg未満,尿量減少,チアノーゼ,冷たく湿った皮膚,意識障害を伴う |
・すぐに心臓血管カテーテルを行う場合:造影剤使用歴、アレルギー歴、心カテ歴
上記と同時に12誘導心電図(心筋梗塞疑いなら右側胸部誘導も)
・次に血液検査、心臓超音波検査へ進むが、ある時点で急性心筋梗塞と診断できればそれ以上の追加検査は必須ではない(高次医療機関への搬送を優先する)
・ポータブルレントゲン(臥位)は必須。大動脈解離のスクリーニング(縦隔拡大の有無)のため。血圧左右差・移動する痛みなど大動脈解離が疑われる場合はCTへ。
・トロポニンは心不全・腎障害で擬陽性もありうる。
・CK-MB>CKの10% は心筋虚血がほとんどだが、CK-MB割合の高度上昇は悪性腫瘍等に起因する擬陽性もありうる。
・超急性期はWBC上昇のみのことも多い。トロポニン上昇や心電図変化がはっきりしなくても、疑わしい胸部症状+複数の冠危険因子+心臓超音波検査での軽度壁運動障害 等で心臓血管カテーテル検査となるケースもある。
・発症からの経過時間別に見た各心筋バイオマーカー
・症状が改善し有意な所見もなく、観察する場合は3-4時間後にトロポニン/CK/CK-MBを再検査する。陽性となる場合は急性冠症候群 ⇒高次医療機関へ搬送。
3 初期治療
・絶対安静(基本は臥床。うっ血が強ければギャッジアップ可能)
・左上肢にルートキープ(右橈骨動脈は心臓血管カテーテル検査で用いる)
・可能なら膀胱カテーテル留置
レントゲン上、うっ血が疑われれば、SPO2:95%以上でも少量投与しておく。(血中酸素分圧が保たれていても虚血心筋は酸素欠乏のため。PaO2が上がりすぎないように酸素化が良ければ少量にとどめる。)
心電図施行時に、投与を考慮(前後の評価が可能なため)。重症冠攣縮による心筋梗塞の可能性もあるため可能なら使用する。右室梗塞では前負荷低下により循環動態が悪化するため、カ壁誘導ST上昇や徐脈・ブロックがあるときは控えてもよい。
(右室梗塞時は、大量輸液+ドブタミン)
疼痛による心筋酸素消費量の増大予防。前負荷・後負荷の減少により肺水腫にも効果あり。
モルヒネ10㎎(1A)/生食10mlを1-2mlずつフラッシュする。
アスピリン定期内服がなければ投与。バイアスピリン100㎎ 2錠を噛んで内服。
(PPIもあれば一緒に内服させる)
プラビックスはCABGとなった場合に出血の問題があるため指示がない限りは投与しない。
時間
に余裕があれば投与。(冷所保存ですぐに出てこない)
シグマート48㎎/生食48mlとし、血圧をみながら2-6ml/hで開始。
4 搬送 準備薬剤
■心原性ショック
うっ血が強くなければ、まず細胞外液負荷。
ショックが持続するなら、第一選択にノルアドレナリンを考慮
(不整脈が少ない、生存率が低下しない)
ノルアドレナリン1A+生食19mlで1-2mlずつフラッシュ Or
3A+生食97ml 5ml/h(50㎏で0.05γ、20ml/hまで)で投与開始。
徐脈や右室梗塞ではドブタミン考慮。
ドブタミン原液200ml 3ml/h(50㎏で3γ、10ml/hまで)で開始。
NA/DOBを使い慣れてなければ、ドパミンを考慮。
■洞性徐脈
洞性徐脈による意識状態の悪化・失神・持続する 胸痛・呼吸困難やショックを認めた場合は、アトロピン0.5 mg急速静注を5分ごとに全3 mgまで投与し、効果がなければア ドレナリン(2~10μg/分)もしくはドパミン(2~10μ g/kg/分)を投与するが、まず経皮ペーシングを考慮してもよい。
経皮ペーシング:
使い捨てパッドをつける⇒デマンド⇒40~60bpm⇒ペーシング強度を0mAに設定しスタート⇒ペーシング強度を適切な値まで上げていく(大腿動脈が触れるまで)。
鎮痛・鎮静が必要。
■房室ブロック
症候性房室ブロックの治療として、経皮ペーシングあるいはアトロピン投与が推奨される。
第3度(完全)房室ブロックでQRS幅の広い補充調律を伴う場合には、アトロピンの効果は期待できないため、経皮ペーシングもしくはアド レナリン(2~10μg/分)もしくはドパミン(2~10μg/ kg/分)の投与を考慮する。
3度(完全)房室ブロックでは、症状の有無にかかわらず可及的速やかに治療が必要である。アトロピンの効果は期待できないため、経皮ペーシングもしくはアドレナリン(2~10μg/分)もしくはドパミン(2~10μg/ kg/分、3-5γで開始)の投与を考慮する。
電気ショック、心肺蘇生、そして血管収縮薬に反応しないVF・無脈性 VT に対しては、
アミオダロン300mgまたは5 mg/kg投与を考慮し、その後再度電気ショックを行う。
アミオダロン塩酸塩:300㎎(6ml)または5㎎/㎏を5%ブドウ糖液20mlに加え、静脈内へボーラス投与する。
心室性不整脈が続く場合は、150㎎(3ml)または2.5㎎/㎏を5%ブドウ糖液10mlに加え、追加投与することができる。
・多形性持続性VTに対して
非同期下電気ショックを 行う。
(初回二相性なら推奨エネルギー〈120~200 J〉、単相性なら360 Jに設定する。)
・単形性持続性VTに対して
狭心症、肺水腫、あるいは低血圧(血圧<90 mmHg)を伴う場合、可能であれば鎮静下にて同期下電気ショックを行う。
(単相性、二相性いずれも100 J から。頻拍が停止しない場合は出力を上げる)
wide-QRS tachycardiaで最も多いのはVTであるが、変行伝導あるいは脚ブロックを伴った上室頻拍もwide-QRS tachycardiaを呈し、心筋梗塞後の心電図変化によってさらに上室頻拍とVTとの鑑別は困難である。そのため心室 頻拍と明らかに否定できない場合には、心室頻拍として治療にあたる。