小児総合診療医のひとりごと

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伝染性膿痂疹(疫学、原因、診断、治療)小児から高齢者まで

Impetigo

Up to dateより抜粋、last updated:Sep11, 2016.

 

<膿痂疹(Impetigo)の一般事項>

・膿痂疹は、小児で最もCommonな表在性細菌感染症、全年齢でおこる

・感染は暖かい、湿った状態で起こりやすく、密接な接触で広がる

・危険因子に、貧困、不衛生、疥癬があげられる

原発性膿痂疹(正常な皮膚への直接細菌浸潤)または二次性膿痂疹(擦過傷、外傷、虫刺さされ、湿疹)に分類され二次性膿痂疹の発生は、「Impetiginization」と呼ばれる

・膿痂疹は、2歳から5歳の子供で最も多い

 

微生物:

・主病原体は黄色ブドウ球菌、β溶血性連鎖球菌(主にA群、時にはC・Gなど)

・溶連菌は皮膚から上気道に細菌が移動しうる

・1940年代と1950年代に黄色ブドウ球菌が多く、その後A群連鎖球菌が一般的になったが、1990年代より再び黄色ブドウ球菌が一般的になった。MRSAも稀に報告され、中国で小児膿痂疹の黄色ブドウ球菌例のうち1%、本邦では2011年の文献で膿痂疹を患う小児黄色ブドウ球菌分離株のうち10%でMRSAが検出された

・A群連鎖球菌(GAS)、黄色ブドウ球菌のキャリアは、膿痂疹の素因となりうる

 

臨床兆候:

非水疱性膿痂疹(Non-bullous impetigo)、水疱性膿痂疹、膿瘡(Ecthyma)、膿痂疹後の連鎖球菌性糸球体腎炎およびリウマチ熱の報告がある

*水疱性膿痂疹は、表皮層に裂け目を引き起こす毒素を産生する黄色ブドウ球菌(S.aureus)の菌株によって引き起こされる。膿瘡はA群β溶連菌で引き起こされる。

 

<膿痂疹の臨床病型>

・非水疱性膿痂疹:

最も一般的な形態、紅斑に囲まれた小疱疹に進行する丘疹として始まり、拡大して自壊し特徴的な金色の痂皮を伴う膿疱となる。通常、約1週間の経過で起こる、局所リンパ管炎が起こることがあるが、全身症状は通常ない

・水疱性膿痂疹:

主に幼児に見られる膿痂疹の一種、小疱が黄色透明の液体を伴う痂皮を形成するために拡大し、後で濃くなり濁っていく。破裂した水疱は薄い茶色の殻を残す。通常、非水疱性膿痂疹より病変が少なく、体幹の多い

成人の水疱性膿痂疹はヒト免疫不全ウイルス(HIV感染症の臨床症状である場合がある。水疱性膿痂疹は、デスモグレイン1を標的とすることによって表面表皮における細胞接着の喪失を引き起こす毒素である剥離性毒素Aを産生する黄色ブドウ球菌の菌株が原因である(天疱瘡の病態生理と類似)

・膿瘡:

潰瘍を伴う膿痂疹形態、病変は表皮を通り抜け真皮まで広がっている。

膿痂疹合併症↓

・溶連菌後糸球体腎炎:

感染後1〜2週間以内に発生することが多い、溶連菌膿痂疹の合併症である、膿痂疹に対する抗菌薬治療が溶連菌性糸球体腎炎のリスクを低下させるかどうかは不明である

・リウマチ熱:

膿皮症と急性リウマチ熱との関連が提唱されているが、まだ実証されていない。(アボリジニ;オーストラリアでは、連鎖球菌咽頭炎は稀にしか報告されておらず膿皮症は非常に一般的かつ急性リウマチ熱が心臓病の主原因である。報告では膿痂疹などの連鎖球菌性皮膚感染が咽頭炎に対して免疫を誘導し防御的に働くと仮定しているが、急性リウマチ熱のような合併症が続く可能性があると指摘している。)

 

<診断>

 膿痂疹の診断は、多くの場合臨床症状に基づいて行う

非水疱性膿痂疹、水疱性膿痂疹、膿瘡の主要な臨床所見は以下のとおり:

・非水疱性膿痂疹:丘疹、小胞、および膿疱が急速に崩壊して金色の付着した痂皮を形成する。顔または四肢に位置することが多い。

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・水疱性膿痂疹:破裂して薄い茶色の外皮を残す揮発性の液体で満たされた水疱。体幹に位置することが多い。

・膿瘡:痂皮が重なり、青紫の境界がせりあがった打ち抜き(Punched-out)潰瘍病変

黄色ブドウ球菌/連鎖球菌が原因であるか特定するためグラム染色で膿または滲出物の培養が推奨される。しかし、典型的な臨床所見を有する患者では培養なしで治療を開始してもよい

 

<検査>

溶連菌の血清学的抗体検査は、膿痂疹の診断には有用ではない(抗ストレプトリジンO(ASO)の反応が弱いため:皮膚脂質がストレプトリジンO反応を抑制する)。抗デオキシリボヌクレアーゼB(抗DNase B)および抗ヒアルロニダーゼ(AHT)反応が溶連菌皮膚感染後のASO反応よりも信頼性が高い

 

<鑑別診断>

臨床所見に基づいて膿痂疹以外の鑑別診断を立てる。グラム染色および培養が診断を確認するために有用

・ 非水疱性膿痂疹:接触皮膚炎、白癬、ヘルペス感染など(特徴的な黄金の痂皮は、膿痂疹を疑う)

・ 水疱性膿痂疹:膿痂疹に水疱を伴う、他の水疱性皮膚疾患と区別する必要があるります。例としては、自己免疫性皮膚疾患、急性接触皮膚炎、薬剤、火傷、昆虫咬傷反応、角層下膿疱症(Sneddon-Wilkinson 病 )

・膿瘡:マイコバクテリア、深部真菌感染、膿皮症などの限局性潰瘍を引き起こす可能性のある他疾患

 

<治療>

一般的には意見が一致した標準療法はない(Kon

 

ingら, Chocrane Datebase syst rev 2012 Jan 18, Interventions for impetigo.)

 

*Up to dateでは治療方針は米国感染症協会;IDSAのSSTI 治療2014年版ガイドラインより引用, Clin Infect Dis 2014; 59(2):147を引用/参照]。

 

・膿痂疹の治療は、感染の拡大防止、不快感の軽減、美容的外観の改善に重要

・水疱性および非水疱性膿痂疹は、局所療法または経口療法のいずれかで治療する

・限局性病変には局所療法、多数病変は経口療法が推奨される

膿瘡は常に経口療法で治療すべきである

・医療現場では、抗生物質治療開始後24時間まで感染蔓延を避けるための接触予防策を行う

 

限局性(少数)膿痂疹

局所療法を施行すべき(グレード1A)

― 副作用が少なく、経口療法に比べて細菌耐性に寄与するリスクが低い、局所治療は5日間が推奨

・ムピロシン(バクトロバン軟膏)、レタパムリン(アルタゴ軟膏):同等に有効な局所療法でありムピロシンを毎日3回、レタパムリンを1日2回塗布する。・フシジン酸: 有効でありうるが、フシジン酸の使用が頻回である地域では黄色ブドウ球菌のフシジン酸抵抗性が増加することがある。(フシジン酸は米国では入手不可)

・バシトラシン軟膏:バシトラシン/ネオマイシン/ポリミキシンBからなる三重抗生物質軟膏)は治療に有効でない可能性があり接触性皮膚炎を引き起こし得るため推奨されない

 

広範囲の膿痂疹、膿瘡

内服治療(グレード1B)、経口抗生物質治療は7日間が推奨

全身性抗生物質黄色ブドウ球菌および連鎖球菌感染症がTargetである(選択する抗生物質は、黄色ブドウ球菌および連鎖球菌感染の両方に有効であるものを選択すべきである)

黄色ブドウ球菌は通常メチシリン感受性なので、ジクロキサシリンとケファレキシン(第一世代セフェム)は適切な治療法である。

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<特殊な治療が必要なケース>

/・連鎖球菌膿痂疹:広範囲の膿痂疹または膿瘡で連鎖球菌のみが検出された場合、経口ペニシリンが好ましい治療法である

MRSA膿痂疹:MRSA感染の疑いがある Or MRSA確定患者は、感受性があればドキシサイクリン、クリンダマイシン、ST合剤のいずれかで治療する(8歳以下の子供は薬物誘発性歯牙着色が懸念されるためドキシサイクリンで治療すべきでない)

MRSA耐性が広範囲に広がり、抵抗性の獲得が治療で発症する可能性があるため、膿痂疹の治療にはフルオロキノロンを使用すべきではない

私見⇒日本ではフルオロキノロン製剤は、内服;オゼックス、塗布;アクアチムクリーム Up to date本文でも一般的に塗布抗菌剤は薬剤耐性を誘導しにくいと記述されてはいる)

・膿痂疹のアウトブレイク:局所療法ではなく内服療法を推奨する

疥癬との重複:膿痂疹患者の疥癬治療は、疥癬の抗菌薬治療への反応を最適化し、疥癬の発生率が高い地域で膿痂疹の有病率を減らすために重要である

 

<フォローアップ>

・病変はやさしく洗浄可である、手洗いは蔓延を減らすために重要である

・膿痂疹の改善を、適切な抗生物質治療期間内に留意して確認すべきである。抗生物質に応答しない場合、耐性病原体または誤診断の可能性を考慮する

 

<学校>

効果的な抗菌剤治療を開始してから24時間後