百日咳の診断と治療、免疫グロブリン製剤
『Up to date, 乳幼児の百日咳の治療と予防』
・幼児は、重症合併症(無呼吸、肺炎、呼吸不全、痙攣、脳症)を発症し得る。
・咳発作のトリガー(運動、寒冷温、鼻汁や喀痰の吸入)は避ける。
・系統的レビューで、気管支拡張薬、コルチコステロイド、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬の対症療法が百日咳患者に有益であることは証明されていない。(臨床医は経験的にβ2刺激薬吸入を行うが、百日咳患者のβ刺激薬投与によるリスク上昇は報告されていない)
*5日未満は推奨されていない。日本では百日咳にAZMは保険適応がない。
AZM:10㎎/㎏ 3日間と比較して効果に差がないとする文献もある(下記)
Eur J Clin Microbiol Infect Dis 1999 Apr; 18(4):296-298
幼児にAZM:3日投与(10㎎/㎏/日 連日)、AZM:5日投与(初日10㎎/㎏/日、2日以降5㎎/㎏/日 4日間)の効果を比較した。
17人のAZM:3日投与群、20人のAZM:5日投与群のうち、35例中33例(94.3%)の患者が治療開始7日後にBordetella pertussis培養は陰性だった。14日後に評価可能な34人の全患者が培養陰性であった。
マクロライド系抗菌剤と肥厚性幽門狭窄症
・アジスロマイシンとエリスロマイシンは、特に2週間未満の乳児で乳児肥厚性幽門狭窄(IHPS)のリスク増加と関連している〔Pediatrics. 2015 Mar;135(3):483-8〕
⇒結果研究期間中の1074236人のうち、合計2466人がIHPSを発症した。生後14日目のアジスロマイシン曝露は、IHPSのリスク増加を示した(調整オッズ比8.26)。15日から42日の暴露も増加(調整オッズ比2.98)した。エリスロマイシンは生後14日以内の暴露で増加(調整オッズ比13.3)、および15〜42日も増加(調整オッズ比4.10)した。生後43〜90日は、いずれのマクロライドとも関連がなかった。IHPSとAZM,EMの関連は生後2週間に最も強いが、2〜6週齢児でも低いが関連は持続する。
・クラリスロマイシンのIHPSのリスクは知られていない〔Drug Saf 2002; 25:929]
・IHPSは、新生児にマクロライド治療を行い1ヶ月以内に嘔吐する場合に注意が必要である。
・抗菌療法
症状発症の7日以内に投与されると、症状の持続時間を短縮し、接触者への感染を減少させる。
補足;
診断基準
診断フローチャート
抗菌療法
周囲への感染性減弱、有症時期を短縮することが目的
CAMとAZMは、EMと比較して吸収、胃酸抵抗性、組織移行性が良好で半減期が長く、下痢などの消化器症状が少ない。
AZMは百日咳の保険適応はない。保険適用外だが、10㎎/㎏/日分1内服 5日間を推奨
免疫グロブリン製剤について
免疫グロブリン製剤(Up to dateに記載なし)
抗百日咳毒素抗体(抗PT抗体)による毒素中和目的に投与されるが、本邦では重症症状の軽減に有効であった報告が散見されるものの海外では否定的な論文が多い。
Novel therapies for the treatment of pertussis disease.〔Pathog Dis 2015 Nov; 73(8): ftv074〕より
1999年にBrussらが、26人の百日咳に感染した乳児において、免疫グロブリン製剤の複数静注を実施。P-IGIVの投与は、血清抗-PT抗体価の上昇、リンパ球増加の低下および発作性咳の減少をもたらした〔Pediatr Infect Dis J. 1999; 18:505-11。〕。ただし、残念なことに、2007年のハルパリンらの多施設試験は発作性咳の改善に何ら利点見つからなかった〔Pediaric infect Dis J 2007 Jan;26(1):79-81.〕。違いが生じたDissucusionとして前者と後者では、対象の年齢平均が前者:9.7週間、後者2.3か月である点に留意が必要である。
百日咳患者に対するガンマ・ベニンの使用経験 小児科臨床 32(1): 175-179, 1979.より
百日咳患児12例にγグロブリン:100mg/kgを2~7 日間隔で2~3回投与した。第2病週以内に使用すると、痙咳発作の回数は半減し、白血球も減少した。有効率は71%であった。
重症乳児百日咳における経静脈的ガンマグロブリン投与の有用性の検討
日本小児呼吸器疾患学会雑誌 19(suppl): 90-90, 2008.より
【緒言】重症乳児百日咳に対する経静脈的ガンマグロブリン投与(IVIG)の効果について検討を行った。
【方法】過去20年間に当院に入院した乳児百日咳症例について後方視的検討を行った。呼吸補助療法と呼吸循環監視を要した症例を重症例と定義し、IVIGの有無により重症例を2群に分け検討を行った。
【結果】乳児百日咳51例中19例が重症例と判断された。IVIGを受けた5症例は全て重症例であり、ガンマグロブリン200-400mg/kg/日3日間投与で行われた。重症例はIVIG施行群5例、非施行群 14例に分かれ、背景因子の比較では2群問に有意差はなかった。また2群間で人工呼吸管理を要した症例の割合に差はなく、IVIG施行群では3例が人工呼吸管理開始後にIVIGを開始された。IVIG後に得られた効果は症例により異なり、無呼吸の減少,気管支攣縮の減少,酸 素化の改善,低換気の改善が認められた。IVIG 施行群は非施行群に比して入院期間が有意に短かった。
【考察】百日咳に対するIVIG投与については、従来痙咳の軽減が主な評価項目とされてきた。しかし乳児では特徴的な症状を呈する頻度が低く、高頻度に呼吸補助を要するため、別の評価基準が求められる。本検討では重症乳児百日咳に対するIVIGが入院治療期間の短縮をもたらす可能性が示された。