小児総合診療医のひとりごと

小児科, 総合診療科(家庭医療), アレルギー についてのブログ

小児の酸素化目標値はSPO2何%なのか?

Oxygen saturation targets in infants with bronchiolitis (BIDS): a double-blind, randomised, equivalence trial

Lancet 2015; 386: 1041–48

 

【背景】

細気管支炎では2006年にUK Sign GuidelineではSPO2≧94%

American Academy of Pediatricsでは(WHOも推奨)SPO2≧90%

を許容できる酸素管理値をして推奨しているが、エビデンスに基づく値ではなかった。

SPO2の目標90%以上が、急性ウイルス性細気管支炎においてSPO2:94%以上に相当する効果があるのか評価した。

 

【方法】

ウイルス性細気管支炎で入院した生後6週~12ヶ月までの乳児を、標準群(SPO2<94%で酸素投与する標準酸素濃度計群)と修正群(SPO2:90%の測定値を94%と表示し、SpO2<90%まで酸素を与えない)に割り付ける多施設RCTを行った(n=615)。ベースラインの特徴は、2群間で類似していた。 評価項目は、咳の持続期間・食事摂取が正常の75%以上に回復する期間・両親が健常だと判断するまでの期間、退院可能な状態と判断するまでの期間、実際の退院までの期間、酸素投与が不要となるまでの期間 を評価した。

【結論】f:id:drtasu0805:20170414101139p:plain

咳の持続期間は両群とも中央値15.0日で同等であった。

修正群で2.7h 標準群より早く適切な摂食に戻った。

修正群では、両親が健常な状態であると判断する期間は1日短かった。

実際の入院期間も修正群では優位に短かった(入院期間 標準:50.9h、修正群:40.9h)。

酸素投与期間は修正群で優位に短かかった(標準:27.6h、修正群:5.7h)

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両親が退院できる状態はない と思う割合

⇒修正群では、標準と比較してより早く、両親が退院できないと思う割合の低下を認めた。

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退院後の再入院率は、28日後まで両群で同等であった。

 

【評価】

乳児細気管支炎でのSpO2目標値を検討しSPO2:90%は安全かつ臨床的に有効(小児の急性ウイルス性細気管支炎で、SPO2:90%また94%に管理されているかどうかにかかわらず、症状:咳の持続期間が改善するまでに要した時間は同等だった。)であり、入院期間を短縮する傾向が見られた。酸素療法に用いられる医療費用を抑えられる側面もある。

SPO2:90%以上を目標とした管理は、酸素を必要とする幼児の数が少なく、食事摂取の回復が早い、より早く帰宅できるかもしれない。

しかし、肺炎の小児や慢性肺疾患の早産児はSPO2:90%未満である場合に死亡する危険も高くなる報告もある。

 

この文献から得た上記内容を加味すると、

SPO2:90%以上を目標とすることは有益な点が多いと思われるが、(特に、SPO2モニタリングを常にCheckできるような環境が整っていない病院)SPO2:90%未満で酸素投与を開始する管理を行うことは、各医療機関でよく考えなければならない