多型紅斑(多型滲出性紅斑)の治療
多型紅斑の治療
up to dateより
Davidら、last update: Jul 20, 2017.
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一般事項:
多型紅斑は、皮膚上に特徴的な標的様病変の出現を特徴とする急性免疫介在性疾患である
病変は、時に口腔・生殖器・眼の粘膜を含むびらん・水疱を伴う
Erythema multiforme major:粘膜病変を伴う多型紅斑を指す
Erythema multiforme minor:粘膜病変のない多型紅斑を指す
一般的には感染によって誘発され、単純ヘルペスウイルス(HSV)が最もCommonである
重大な後遺症なしに数週間で改善する。少例は年経過で再発しうる。粘膜関与を有する多型紅斑とSJSは異なる疾患である
病因別
多型紅斑の重症度または持続時間に対する感染症の急性治療の効果に関するデータはほとんどない
HSV感染の発生後平均して8日目に現れHSV感染治療が必要ない時期に発生する⇒HSV関連多型紅斑の出現後の経口抗ウイルス剤による治療が、発疹の臨床経過に影響を与えないことを示唆している
マイコプラズマ・ニューモニエ:
感染原因の治療が粘膜皮膚病変の持続期間または重症度に及ぼす影響についての研究はない
一般的に、治療は活動感染症の管理のために実施する
薬剤:
新規薬剤に起因すると考えられる場合、中止する。
急性期治療
急性治療は、疾患の重篤度に応じて変わる。
軽度なら、疼痛や掻痒感の軽減を目的とした治療で十分である。
全身性グルココルチコイド療法は、重度の口腔粘膜病変を有する患者に考慮すべきである。
重度の粘膜病変を有する衰弱した多型紅斑患者にのみ経口ステロイドの短期投与を推奨する
通常開始用量は、40~60㎎/日のプレドニゾンを2〜4週間で徐々に漸減する
軽度:
皮膚病変のみ、または口腔粘膜病変が限局する場合
管理は症状の緩和を行い、皮膚灼熱間や掻痒感に局所コルチコステロイド、経口抗ヒスタミン剤を用いる
痛みを伴う口腔内びらんは、リドカイン、ジフェンヒドラミン、制酸薬の混合物を含む高効能の局所コルチコステロイドゲルおよびうがい薬で治療する
重度:広範囲の口腔粘膜病変を有する場合
重度の疼痛で、経口摂取できないことがある。
全身性グルココルチコイドは、症状の重症度を低下させ、疾患の経過を短縮させる試みにおいて、しばしば使用されるが質の高いEvidenceはない。
(再発性経口多型紅斑を有する11人の患者に、経口プレドニゾン(最初は40〜60mg /日、その後は2〜3週間にわたり漸減)が唯一有効な治療であった。
しかしながら、グルココルチコイドが疾患活性を部分的に抑制するだけであり、疾患の慢性化および発作の持続期間のリスクを増加させる可能性があるという懸念を表明している研究者もいる。
眼病変:
長期の後遺症を予防するため、眼科医に直ちに紹介する
SJSでは、ステロイド点眼剤が推奨されている。潤滑点眼剤(非保存ヒアルロン酸やカルメロース点眼剤など)の使用も重要である
予後不良因子:
以下の特徴は、再発する患者の疾患制御予後が好ましくない
- 特定の原因を特定できない
- 継続的な抗ウイルス療法による改善しない
- 重度口腔病変
- グルココルチコイド療法の約1年間の使用
- 2つ以上の免疫抑制剤の使用歴
再発性EMの予防治療:
年6回以上の再発例、衰弱した多型紅斑のエピソードを有する例:全身性の予防療法の候補者である。抗ウイルス薬で改善しない患者には、免疫抑制療法または免疫調節療法が用いられる。
抗ウイルス剤の選択
再発性EMの初期治療は、以下のレジメン1つを6か月間行うことを推奨する
- アシクロビル- 1日2回400 mg
- バラシクロビル- 1日2回500 mg
- ファムシクロビル- 1日2回500mg
抗ウイルス剤によって治療に対する反応が異なる可能性がある。
⇒バラシクロビルが寛解誘導する可能性が高いことを示唆されている
(ただし、アシクロビルおよびファムシクロビルよりもバラシクロビルの優位性示すのに十分なEvidenceはない:アシクロビル療法失敗後のバラシクロビル誘発性多型紅斑が寛解した症例報告や、バラシクロビルを含む多数の治療法に失敗したヘルペス関連多型紅斑がファムシクロビル投与;500mg 1日1〜3回で完全寛解した報告がある。)
多型紅斑/多型滲出性紅斑の病因、鑑別、診断
Erythema Multiforme(多型紅斑)
MICHELE Rら. Am Fam Physician 2006;74:1883-8.
概要
多形紅斑は、感染または薬物に対する過敏反応であると考えられる皮膚状態である
遠位優位の左右対称な多型な紅斑、丘疹、特徴的な「標的病変」からなる
軽度例は後遺症なく改善し、治療を必要としない
再発症例は、アシクロビル投与で加療される。アシクロビルに対する反応がない患者は、より高い経口バイオアベイラビリティの投薬を必要とし、バラシクロビルまたはファムシクロビルに対して応答する可能性がある
抗ウイルス療法にもかかわらず多形紅斑が再発する場合は、さらなる治療のために皮膚科医に紹介するべきである
スティーブンス・ジョンソン症候群[SJS]、中毒性表皮壊死症(TEN)を含め疾患の臨床スペクトルの一部と考えられる
1993年から頻繁に引用される研究からは、
個々の皮膚病変のパターン、②表皮の剥離を伴う体表面積の推定(水疱またはびらん)
に基づく多形性紅斑、SJS、TENの臨床分類が提案されている
多型紅斑の原因
多型紅斑の鑑別診断
多型紅斑、SJS、TENの鑑別特徴
病因と病態生理
多形性紅斑は、20歳から40歳の成人で発生するが、全年齢の患者で発症しうる
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、最も一般的な病因で、症例の50%以上を占める
多形性紅斑に関連した薬は、ほとんどがバルビツール酸塩、ヒダントイン、非ステロイド性抗炎症薬、ペニシリン、フェノチアジン、スルホンアミドである
ワクチン(ジフテリア、破傷風に関連した多形性紅斑が報告、B型肝炎、天然痘)、他のウイルス(水痘帯状疱疹、C型肝炎、サイトメガロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス) 、および新しい薬(カンデサルタンシレキセチル、ロフェコキシブ、メトホルミン、アダリムマブ、ブプロピオン、シプロフロキサシン
再発性多発性紅斑は、しばしば、HSV-1/2の再活性化に続発する。HSVは臨床的症状がないことがある。臨床的に明らかなHSV感染を伴わずに、多形性紅斑または多形性紅斑のエピソードを伴わずに、臨床的に明らかなHSV再活性化を有しうる
ヘルペス関連多形紅斑の病因は十分に研究されており、遅延型過敏症反応と一致している。CD4 +細胞が、ウイルス抗原に反応してIFN-の産生を引き起こし、炎症カスケードを開始する。
薬物関連の多形性紅斑病変は、ヘルペス関連多形性紅斑のように腫瘍壊死因子αが陽性であり、インターフェロンは陽性でないことから、様々な機序が示唆されている。
臨床経過
多型紅斑は、通常は軽度または症状を示さないSelf limittingな発疹である。患者は、紅斑に掻痒感や灼熱感を感じることがある。
病変は境界が定められた赤色/ピンク色の斑として始まり、その後丘疹になる。丘疹は徐々に拡大しうる。丘疹/斑の中央部分は徐々に暗赤色/茶色/紫色になる。病変部の中央は、痂皮や水疱が生じうる。
特徴的な「標的病変」は、規則的な丸い形と3つの同心円のゾーンからなる(中央が暗赤色、淡ピンク色/浮腫性域、周辺の赤色リング)。
標的病変はその名紅斑「多」、種々の臨床形態の病変は、通常、存在する場合、数日発症後まで明らかではないかもしれない
多紅斑の皮膚病変は、通常、遠位末端に対称的に現れ、近位に進行する(手の背側、四肢伸側が最も特徴的)
粘膜病変が生じることがあるが、通常は口腔に限定される
多形性紅斑は、後遺症なしに3〜5週間で自発的に消失するが再発することがある。再発する患者は、1年に複数のエピソードを起こす可能性がある(再発性多発性紅斑を有する65人の患者を対象とした研究において、1年当たりの平均発作数は6であり2〜24の範囲であった。Br J Dermatol 1993;128:542-5 より)
Diagnosis
多形紅斑は臨床的に診断される。
生検所見は多形性紅斑に固有のものではないため、臨床像が明確である場合は皮膚生検が必要ない。
非定型例や再発性多形性紅斑(HSV感染がない)は、生検は他の診断を除外するために役立つ。
検査(例:HSV-1/2のIgM/IgG)は、HSV感染を確認できるが、必須でない。
皮膚生検の結果は、臨床形態および病変の存続期間ならびに検体が得られる病変の領域(すなわち、中央部分または外側領域)によって変化する。
赤色斑および丘疹の初期段階は、血管周囲の単核細胞浸潤を示す。
標的病変の浮腫性領域の生検では、組織学的に顕著な皮膚浮腫を示すことがある。壊死ケラチノサイトまたは表皮の変化は、通常、標的病変の中央部分で起こる。
多型紅斑の鑑別診断は、薬疹、多型光発疹、蕁麻疹、蕁麻疹様血管炎、ウイルスexanthems、および他の過敏性反応を含ちま。
多形紅斑は、多くが発症時に蕁麻疹に似ているので、臨床的特徴を区別することが重要。
典型的な症例における多形性紅斑の個々の病変は、少なくとも1週間存在し、固定/標的病変に進行するものもある。
対照的に、蕁麻疹病変は、24時間以内に同じ部位に存在する/病変の中心は、正常または境界のように赤く見える。
標的病変がバラ色粃糖疹、エリテマトーデス、血管炎、figurate Erythemas(回状紅斑)に類似し得る。水疱性病変が存在する場合、多形性紅斑は自己免疫性水疱性疾患と区別されなければならない。
Treatment
多紅紅斑の管理は、可能であれば病因を決定することを含む。
疑わしい感染症を治療する、または 被疑薬を中止することである。
軽度の多形紅斑は治療を必要としない。
経口抗ヒスタミン薬および局所ステロイドを使用して、症状を緩和することができる。
最近または既存のHSV感染を有する患者において、経口アシクロビルによる早期治療は、皮膚病変の数および持続時間を減少させることができる。(局所アシクロビルは、ヘルペス関連多形性紅斑には効果がない)
プレドニゾン:40-80㎎/日を1〜2週間投与しで早急に漸減する。
(使用には議論がある。ヘルペス関連多形紅斑を有する患者では、PSLがHSV耐性を低下させHSV感染が再発し多発性紅斑を再発させる可能性がある)
再発性多発性紅斑は、HSV因子がないとしても、経口アシクロビル(1日2回400mg)で治療する。経口アシクロビルは、多発性紅斑の再発抑制に有効であることが示されている。
バラシクロビル(1日500~1000mg)およびファムシクロビル(1日125~250mg)は、アシクロビルより経口バイオアベイラビリティが高く、アシクロビルに対する反応がない患者で試みる。患者は4か月の間再発がない場合に、最終的に薬剤を中止することができる。
抗ウイルス療法の使用にもかかわらず、再発性多形紅斑を有する患者は、さらなる治療のために皮膚科医に紹介すべきである。
その場合は、抗マラリア薬、アザチオプリン(イムラン; 1日あたり100〜150mg)、シクロスポリン(サンディミュン)、サリドマイド(サロミド)などの効果が報告されている。これらの薬物療法は一部患者に有益だが、支持する根拠は限定的である。
心不全のβ遮断薬の使い方
循環薬の選び方と使い分けより抜粋
結論から言う
まとめると
高血圧心不全はカルベジロール、低血圧性心不全はビソプロロール
喘息や閉塞性動脈硬化症はビソプロロール
肝障害はビソプロロール、腎障害はカルベジロール
これらの縛りがなければ④による不整脈・突然死予防効果を期待してカルベジロールを選ぶ
βブロッカーの重要性
Lancetで1993年にWaagsteinらが拡張型心筋症患者でプラセボよりメトプロロールが突然死・心不全再入院が34%少なく、左室駆出率の改善率もメトプロロールが優れるありと報告。
MUCHA試験では少量でも十分な効果が得られ高容量では副作用が増えたと報告、HF-ACTIONのサブ解析では全死亡と入院はカルベジロールの用量と有意な逆相関を示した⇒両試験を考えると『βブロッカーは少量でも有効だが、副作用が出ない限りできるだけ増量することが望ましい』と考えられる
HF-ACTIONは欧米人対象で容量がカルベジロール50㎎/日まで増量が推奨されている。日本人では現実的に
βブロッカー推奨維持量は
カルベジロール:20㎎/日、ビソプロロール:5㎎/日 である
心不全患者に対するβブロッカー増量目安は、
安静時心拍50bpmを目標 または 非忍容性を満たすまで
なぜカルベジロールが血圧降下作用が強いか?
β2受容体の活性化は血管弛緩、不活性は血管収縮を引き起こす。
α1受容体の活性化は血管収縮、不活性は血管拡張を引き起こす。
カルベジロールは、αブロッキング効果があるため血管拡張し血圧が下がる
伝染性膿痂疹(疫学、原因、診断、治療)小児から高齢者まで
Impetigo
Up to dateより抜粋、last updated:Sep11, 2016.
<膿痂疹(Impetigo)の一般事項>
・膿痂疹は、小児で最もCommonな表在性細菌感染症、全年齢でおこる
・感染は暖かい、湿った状態で起こりやすく、密接な接触で広がる
・危険因子に、貧困、不衛生、疥癬があげられる
・原発性膿痂疹(正常な皮膚への直接細菌浸潤)または二次性膿痂疹(擦過傷、外傷、虫刺さされ、湿疹)に分類され二次性膿痂疹の発生は、「Impetiginization」と呼ばれる
・膿痂疹は、2歳から5歳の子供で最も多い
微生物:
・主病原体は黄色ブドウ球菌、β溶血性連鎖球菌(主にA群、時にはC・Gなど)
・溶連菌は皮膚から上気道に細菌が移動しうる
・1940年代と1950年代に黄色ブドウ球菌が多く、その後A群連鎖球菌が一般的になったが、1990年代より再び黄色ブドウ球菌が一般的になった。MRSAも稀に報告され、中国で小児膿痂疹の黄色ブドウ球菌例のうち1%、本邦では2011年の文献で膿痂疹を患う小児黄色ブドウ球菌分離株のうち10%でMRSAが検出された
・A群連鎖球菌(GAS)、黄色ブドウ球菌のキャリアは、膿痂疹の素因となりうる
臨床兆候:
非水疱性膿痂疹(Non-bullous impetigo)、水疱性膿痂疹、膿瘡(Ecthyma)、膿痂疹後の連鎖球菌性糸球体腎炎およびリウマチ熱の報告がある
*水疱性膿痂疹は、表皮層に裂け目を引き起こす毒素を産生する黄色ブドウ球菌(S.aureus)の菌株によって引き起こされる。膿瘡はA群β溶連菌で引き起こされる。
<膿痂疹の臨床病型>
・非水疱性膿痂疹:
最も一般的な形態、紅斑に囲まれた小疱疹に進行する丘疹として始まり、拡大して自壊し特徴的な金色の痂皮を伴う膿疱となる。通常、約1週間の経過で起こる、局所リンパ管炎が起こることがあるが、全身症状は通常ない
・水疱性膿痂疹:
主に幼児に見られる膿痂疹の一種、小疱が黄色透明の液体を伴う痂皮を形成するために拡大し、後で濃くなり濁っていく。破裂した水疱は薄い茶色の殻を残す。通常、非水疱性膿痂疹より病変が少なく、体幹の多い
成人の水疱性膿痂疹はヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の臨床症状である場合がある。水疱性膿痂疹は、デスモグレイン1を標的とすることによって表面表皮における細胞接着の喪失を引き起こす毒素である剥離性毒素Aを産生する黄色ブドウ球菌の菌株が原因である(天疱瘡の病態生理と類似)
・膿瘡:
潰瘍を伴う膿痂疹形態、病変は表皮を通り抜け真皮まで広がっている。
膿痂疹合併症↓
・溶連菌後糸球体腎炎:
感染後1〜2週間以内に発生することが多い、溶連菌膿痂疹の合併症である、膿痂疹に対する抗菌薬治療が溶連菌性糸球体腎炎のリスクを低下させるかどうかは不明である
・リウマチ熱:
膿皮症と急性リウマチ熱との関連が提唱されているが、まだ実証されていない。(アボリジニ;オーストラリアでは、連鎖球菌咽頭炎は稀にしか報告されておらず膿皮症は非常に一般的かつ急性リウマチ熱が心臓病の主原因である。報告では膿痂疹などの連鎖球菌性皮膚感染が咽頭炎に対して免疫を誘導し防御的に働くと仮定しているが、急性リウマチ熱のような合併症が続く可能性があると指摘している。)
<診断>
膿痂疹の診断は、多くの場合臨床症状に基づいて行う
非水疱性膿痂疹、水疱性膿痂疹、膿瘡の主要な臨床所見は以下のとおり:
・非水疱性膿痂疹:丘疹、小胞、および膿疱が急速に崩壊して金色の付着した痂皮を形成する。顔または四肢に位置することが多い。
・水疱性膿痂疹:破裂して薄い茶色の外皮を残す揮発性の液体で満たされた水疱。体幹に位置することが多い。
・膿瘡:痂皮が重なり、青紫の境界がせりあがった打ち抜き(Punched-out)潰瘍病変
黄色ブドウ球菌/連鎖球菌が原因であるか特定するためグラム染色で膿または滲出物の培養が推奨される。しかし、典型的な臨床所見を有する患者では培養なしで治療を開始してもよい
<検査>
溶連菌の血清学的抗体検査は、膿痂疹の診断には有用ではない(抗ストレプトリジンO(ASO)の反応が弱いため:皮膚脂質がストレプトリジンO反応を抑制する)。抗デオキシリボヌクレアーゼB(抗DNase B)および抗ヒアルロニダーゼ(AHT)反応が溶連菌皮膚感染後のASO反応よりも信頼性が高い
<鑑別診断>
臨床所見に基づいて膿痂疹以外の鑑別診断を立てる。グラム染色および培養が診断を確認するために有用
・ 非水疱性膿痂疹:接触皮膚炎、白癬、ヘルペス感染など(特徴的な黄金の痂皮は、膿痂疹を疑う)
・ 水疱性膿痂疹:膿痂疹に水疱を伴う、他の水疱性皮膚疾患と区別する必要があるります。例としては、自己免疫性皮膚疾患、急性接触皮膚炎、薬剤、火傷、昆虫咬傷反応、角層下膿疱症(Sneddon-Wilkinson 病 )
・膿瘡:マイコバクテリア、深部真菌感染、膿皮症などの限局性潰瘍を引き起こす可能性のある他疾患
<治療>
一般的には意見が一致した標準療法はない(Kon
ingら, Chocrane Datebase syst rev 2012 Jan 18, Interventions for impetigo.)
*Up to dateでは治療方針は米国感染症協会;IDSAのSSTI 治療2014年版ガイドラインより引用, Clin Infect Dis 2014; 59(2):147を引用/参照]。
・膿痂疹の治療は、感染の拡大防止、不快感の軽減、美容的外観の改善に重要
・水疱性および非水疱性膿痂疹は、局所療法または経口療法のいずれかで治療する
・限局性病変には局所療法、多数病変は経口療法が推奨される
・膿瘡は常に経口療法で治療すべきである
・医療現場では、抗生物質治療開始後24時間まで感染蔓延を避けるための接触予防策を行う
限局性(少数)膿痂疹:
局所療法を施行すべき(グレード1A)
― 副作用が少なく、経口療法に比べて細菌耐性に寄与するリスクが低い、局所治療は5日間が推奨
・ムピロシン(バクトロバン軟膏)、レタパムリン(アルタゴ軟膏):同等に有効な局所療法でありムピロシンを毎日3回、レタパムリンを1日2回塗布する。・フシジン酸: 有効でありうるが、フシジン酸の使用が頻回である地域では黄色ブドウ球菌のフシジン酸抵抗性が増加することがある。(フシジン酸は米国では入手不可)
・バシトラシン軟膏:バシトラシン/ネオマイシン/ポリミキシンBからなる三重抗生物質軟膏)は治療に有効でない可能性があり接触性皮膚炎を引き起こし得るため推奨されない
広範囲の膿痂疹、膿瘡:
内服治療(グレード1B)、経口抗生物質治療は7日間が推奨
全身性抗生物質:黄色ブドウ球菌および連鎖球菌感染症がTargetである(選択する抗生物質は、黄色ブドウ球菌および連鎖球菌感染の両方に有効であるものを選択すべきである)
黄色ブドウ球菌は通常メチシリン感受性なので、ジクロキサシリンとケファレキシン(第一世代セフェム)は適切な治療法である。
<特殊な治療が必要なケース>
/・連鎖球菌膿痂疹:広範囲の膿痂疹または膿瘡で連鎖球菌のみが検出された場合、経口ペニシリンが好ましい治療法である
・MRSA膿痂疹:MRSA感染の疑いがある Or MRSA確定患者は、感受性があればドキシサイクリン、クリンダマイシン、ST合剤のいずれかで治療する(8歳以下の子供は薬物誘発性歯牙着色が懸念されるためドキシサイクリンで治療すべきでない)
・MRSA耐性が広範囲に広がり、抵抗性の獲得が治療で発症する可能性があるため、膿痂疹の治療にはフルオロキノロンを使用すべきではない
(私見⇒日本ではフルオロキノロン製剤は、内服;オゼックス、塗布;アクアチムクリーム Up to date本文でも一般的に塗布抗菌剤は薬剤耐性を誘導しにくいと記述されてはいる)
・膿痂疹のアウトブレイク:局所療法ではなく内服療法を推奨する
・疥癬との重複:膿痂疹患者の疥癬治療は、疥癬の抗菌薬治療への反応を最適化し、疥癬の発生率が高い地域で膿痂疹の有病率を減らすために重要である
<フォローアップ>
・病変はやさしく洗浄可である、手洗いは蔓延を減らすために重要である
・膿痂疹の改善を、適切な抗生物質治療期間内に留意して確認すべきである。抗生物質に応答しない場合、耐性病原体または誤診断の可能性を考慮する
<学校>
効果的な抗菌剤治療を開始してから24時間後
小児における尿路感染症(Urinary Tract Infection:UTI)の基本
小児内科49:536-541,2017より
【尿路感染症の疫学】
定義:通常無菌である尿路から有意な細菌がされること
膀胱尿管逆流症(Vesicourethral Reflux:VUR)や先天性腎尿路異常(Congenital anomalies of the kidney and urinary tract:CAKUT, 低形成異形性腎など)が発見されることが多く、感染反復は腎機能障害(逆流性腎症)の原因となるため重要
上部UTIは、低年齢、1歳未満の男児、1歳以降の女児、白人とヒスパニック、包茎がリスク因子
【起炎菌】複数細菌の検出は合併尿路奇形の存在を疑う
70-80%が大腸菌、次に腸球菌が多い。その他にクレブシエラ、プロテウス、エンテロバクター、緑膿菌などのGNR、B群溶連菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌などのGPCが報告
【診断】
2011年にアメリカ小児学会(AAP)より、『白血球尿(WBC>5/HPF)と有意な細菌が存在する』と定義
実臨床では、白血球尿が存在しないUTIも存在するため注意深い観察が必要
【臨床症状】
上部UTI:高熱以外に、活気不良や体重増加不良/側腹部痛や背部痛/消化器症状などの全身症状を伴うが多い
下部UTI:膀胱刺激症状のみ
【検査所見】
尿検査:パック尿は尿培養で擬陽性率が80-90%と非常に効率であるため診断に適さない
白血球沈査>5/HPF、好中球エラスターゼ(特異度低い)、亜硝酸(感度低い、特異度高い)
カテーテル採尿:104-5/ml 以上
クリーンキャッチ尿(採取前は外陰部消毒):105/ml 以上
尿培養が最も重要だが、結果判明まで18-24h以上要するため、尿グラム染色と尿検査を手掛かりに暫定診断することとなる
【血液検査】下部との鑑別のため特異的検査はない
上部UTIでは菌血症を合併(新生児:31%、1-3か月:21%、3か月以上:5%)であるため採血時は血液培養も採取する
【画像検査】
画像検査の目的は、①VURをはじめとするCAKUTの発見、②急性期難治例に対する膿瘍や閉塞性障害の診断、③腎瘢痕の評価
超音波検査
CAKUTの発見/膿瘍や閉塞性障害の評価(VURの発見や腎瘢痕の評価には適さない)
VCUG(Voiding cysto-urethrography)
VURだけでなく、膀胱容量や形態/後部尿道弁など下部尿路形態も評価するため排尿時膀胱“尿道”造影になるように行う
AAPの2011年ガイドラインでは、適応を制限する方向となった(上部UTI再発、臨床経過が非典型例、超音波異常に行う)
ヨーロッパの2015年ガイドラインでは、女児および1歳未満男児には全例に行う
DMSAシンチグラフィー
急性期(上部UTI発症後1か月以内):上部UTI診断/将来的な腎瘢痕リスク者の同定、慢性期(発症4-6か月後):腎瘢痕評価 の2つの目的で実施される。
- 急性期
低年例で感度が低い/鎮静が必要/全施設で実施できない などの問題点がありガイドラインでの推奨まで至っていない
- 慢性期
腎瘢痕の評価のため有用、逆流性腎症フォーラムからStage分類が提案されている
【治療】
上部UTI:各施設のUTI起炎菌の感受性を考慮して抗菌剤を選択する
治療の遅れによる状態悪化/腎瘢痕の形成を防ぐために速やかに治療を開始する
計7~14日間の投与が推奨、急性巣状細菌性腎炎は3週間、腎膿瘍は膿瘍消失まで投与
(日本の医療環境では、入院で経静脈的抗菌剤を開始し解熱24時間を確認後に内服に変更し計10-14日間の抗菌剤投与が実際的である)
下部UTI:
2-4日間の投与が推奨
日本では5日ほどの内服が行われることが多い(日本ではST合剤耐性細菌が多い)
【慢性期管理】CAP(Continuous antibiotic prophylaxis:抗菌薬予防内服)に関して
1999年のAAPガイドラインでは、全例にCAPが推奨されていた。2000後半にCAPの効果に否定的なRCTが報告されて以後は適応に関して議論中である
セフェム系抗菌薬の耐性誘発を考慮すると可能な限りST合剤の内服が望ましいと思われる
各RCTの比較
東京都立小児総合医療センター腎臓内科では下記を適応としている
- 生後1か月未満のVUR症例
- 生後1か月以上のVUR 3度以上
- 排尿機能異常症例に関しては、VUR 1-2度でも考慮
生後1か月未満:セファレキシン 5-10㎎/㎏/日分1 寝る前
生後1か月以上:ST合剤 0.0125-0.025g/㎏/分1 寝る前
鉄欠乏性貧血:軽症でも(どのくらいで)鉄を補充すべきか?
日本には鉄欠乏性貧血の乳児におけるガイドラインはない.
【臨床症状・検査所見】
症状:軽度~中等度貧血までは無症状が多い、細胞分裂が早い皮膚・粘膜症状が多い
心臓肥大、Restless leg症候群、舌乳頭萎縮、舌・口角炎、青色強膜、匙状爪、Pica、Pagophagia、難聴、精神運動発達障害
【診断と検査所見】
・貧血の定義:下図
ヘモグロビン濃度(g/dl)に基づいた貧血(Lancet 2006 387 10021 907-916より)
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軽度 |
中等度 |
高度 |
6ヶ月〜4歳 |
11未満 |
10未満 |
7未満 |
5歳〜11歳 |
11.5未満 |
11未満 |
8未満 |
12歳〜14歳 |
12未満 |
11未満 |
8未満 |
・鉄欠乏症の定義:5歳未満 フェリチン<12μg/dl、5歳以上 フェリチン<15μg/dl
・鉄欠乏性貧血の定義:貧血+鉄欠乏症 (+他に原因がない)
CQ 軽症の鉄欠乏性貧血に鉄補充を行うべきか?
・学童期、青年期
貧血の有無に関わらず鉄欠乏症は認知機能障害を起こしうる。
Pediatrics. 2001;107(6):1381 より
・新生児/乳児/幼児
貧血の有無に関わらず鉄欠乏症は、精神発達障害を起こしうる。
そのため米国小児科学会では、発達への影響を予防するため生後4カ月からの鉄補充を推奨している。
生後6カ月を越えると母乳中の鉄のみでは必要量を満たさず鉄欠乏症になりやすい。しかし、日本では離乳期初期から十分な鉄を摂れる市販の離乳食がない。
日本では、乳児における鉄欠乏性貧血のまとまった報告が少なく、乳児期の鉄欠乏性貧血が無症状で一過性と考えられているため小児科医に関心をもたれていないことが問題である。鉄欠乏症では、鉄補充を推奨する。
小児科臨床. 2014;67(12):121-6 より
Take home message 貧血の有無に関わらず、鉄欠乏症は鉄補充を行う |
銅欠乏症、好中球減少
銅欠乏症による血球減少
2017年6月1日血液内科勉強会 A3用紙1枚で簡潔にまとめ
参考文献:Up to date 2017時点、血液内科第72巻第6号 820-824
Causes of neutropenia(Blood 2014;124:1251)
銅欠乏症は、二次性好中球減少症の原因である
【体内の銅代謝】
体内の全銅含有量は50-120㎎(新生児期~乳児は約12㎎)存在する
代謝経路:胃、十二指腸、空腸から銅トランスポーター(ATP7A)より吸収される
肝臓から体の各臓器には、セルロプラスミン(銅輸送蛋白)により運ばれる
*母乳は比較的少量の銅を含む。初期母乳は0.7mg/lの銅が含まれる。これは0.2mg/lに急速に低下し、WHO推奨銅摂取量よりも少なくなる。この時期の銅摂取量不足は、肝臓の貯蔵銅で補う。
【臨床的特徴・検査所見】
診断は、臨床的特徴と検査所見を総合的に判断する
症状:血球減少(図1)、神経障害(亜急性連合性脊髄変性症(VitB12欠乏)に類似)、認知障害、発達障害、骨粗鬆症、頭髪異常(少ない毛、縮れ毛)、筋力低下、難治性痙攣、発達障害
検査所見:血清銅の低下(30μg/dl以下)、血清セルロプラスミン低下(15㎎/dl以下)
*骨髄検査 骨髄異形成症候群と類似(小空胞を持つ赤芽球系細胞や赤芽球系の過形成、環状赤芽球、小空胞を持つ骨髄系細胞)
【銅欠乏症の原因】図2
先天性:Menkes病(メンケスP型ATPアーゼ:ATP7A異常、)
後天性:吸収不良症候群(炎症性腸疾患、Celiac病など)、胃十二指腸切除後/胃バイパス手術、慢性腹膜透析・血液透析患者、鉄・亜鉛過剰、Wilson病の治療過剰、不適切なミルク栄養未熟児、長期経管栄養、長期経静脈栄養
図1 Eur J Haematol 2008;80:523
図2 J Neurol 2010;257:869
厚生労働省が推奨する銅の1日推奨量
年齢 |
0-2歳 |
3-5歳 |
6-7歳 |
8-9歳 |
10-11歳 |
12-14歳 |
15歳以上 |
推奨量(㎎/日) |
0.3 |
0.4 |
0.5 |
0.6 |
0.7 |
0.8 |
0.8-1 |
【治療】先天性代謝異常症の課題と進歩 脳と発達2012;44:107-112 より
(成人)銅2mg/日の投与、ココアによる治療も報告あり
*Up to dateでは銅欠乏症の脊髄神経症ギアを有する場合毎日8㎎を1週間投与し、2週間目に6㎎、3週目に4㎎、その後は2㎎を投与する
(小児:Menkes病)脳内移行性がよいヒスチジン銅を使用。治療目標は、血清銅・セルロプラスミン値を正常に保つこと(投与2か月以内に血球異常は改善する)
ヒスチジン銅750μg/mlを0.5-1ml/回を2-4回/週の間隔で皮下注射する。治療開始が生後2か月以前だと神経障害が予防できる
アナフィラキシーショックにおけるアドレナリンの作用機序
結論から先にいう
肥満細胞/好塩基球からのメディエーター放出の抑制 が主
⇒血管透過性亢進を防ぐ根本的な治療
その他に
①血管収縮作用 ⇒血圧↑
②強心作用
③気管支拡張作用
急性細気管支炎での吸入は生理食塩水と高調性食塩水どちらが有益か?
JAMA Pediatrics 2017June 5
【背景】
急性細気管支炎における高張食塩水吸入の有効性について、エビデンスは一致していない。初発の急性ウイルス性細気管支炎乳児(6週から12ヶ月)に、3%高張食塩水または0.9%生理食塩水による20分×2回の吸入療法を割り付ける二重盲検RCTを行った(n=777)。
【結論】
24時間以内の入院は、高張食塩水群48.1%・生食群52.2%で有意差はなかった(調整リスク差 -3.2%)。Respiratory Distress Assessment Instrumentスコアの改善は、高張食塩水群で大きく(平均 -3.1 vs. -2.4)、Respiratory Assessment Change Scoreについても同様であった。中等度の有害事象(咳の悪化など)は、高張食塩水群で多く(8.9% vs. 3.9%)、重篤有害事象はなかった。
【評価】
最大規模のRCTで高張食塩水の利益は否定された。急性細気管支炎で吸入療法を行う場合には生理食塩水を用いるべきである。
百日咳の診断と治療、免疫グロブリン製剤
『Up to date, 乳幼児の百日咳の治療と予防』
・幼児は、重症合併症(無呼吸、肺炎、呼吸不全、痙攣、脳症)を発症し得る。
・咳発作のトリガー(運動、寒冷温、鼻汁や喀痰の吸入)は避ける。
・系統的レビューで、気管支拡張薬、コルチコステロイド、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬の対症療法が百日咳患者に有益であることは証明されていない。(臨床医は経験的にβ2刺激薬吸入を行うが、百日咳患者のβ刺激薬投与によるリスク上昇は報告されていない)
*5日未満は推奨されていない。日本では百日咳にAZMは保険適応がない。
AZM:10㎎/㎏ 3日間と比較して効果に差がないとする文献もある(下記)
Eur J Clin Microbiol Infect Dis 1999 Apr; 18(4):296-298
幼児にAZM:3日投与(10㎎/㎏/日 連日)、AZM:5日投与(初日10㎎/㎏/日、2日以降5㎎/㎏/日 4日間)の効果を比較した。
17人のAZM:3日投与群、20人のAZM:5日投与群のうち、35例中33例(94.3%)の患者が治療開始7日後にBordetella pertussis培養は陰性だった。14日後に評価可能な34人の全患者が培養陰性であった。
マクロライド系抗菌剤と肥厚性幽門狭窄症
・アジスロマイシンとエリスロマイシンは、特に2週間未満の乳児で乳児肥厚性幽門狭窄(IHPS)のリスク増加と関連している〔Pediatrics. 2015 Mar;135(3):483-8〕
⇒結果研究期間中の1074236人のうち、合計2466人がIHPSを発症した。生後14日目のアジスロマイシン曝露は、IHPSのリスク増加を示した(調整オッズ比8.26)。15日から42日の暴露も増加(調整オッズ比2.98)した。エリスロマイシンは生後14日以内の暴露で増加(調整オッズ比13.3)、および15〜42日も増加(調整オッズ比4.10)した。生後43〜90日は、いずれのマクロライドとも関連がなかった。IHPSとAZM,EMの関連は生後2週間に最も強いが、2〜6週齢児でも低いが関連は持続する。
・クラリスロマイシンのIHPSのリスクは知られていない〔Drug Saf 2002; 25:929]
・IHPSは、新生児にマクロライド治療を行い1ヶ月以内に嘔吐する場合に注意が必要である。
・抗菌療法
症状発症の7日以内に投与されると、症状の持続時間を短縮し、接触者への感染を減少させる。
補足;
診断基準
診断フローチャート
抗菌療法
周囲への感染性減弱、有症時期を短縮することが目的
CAMとAZMは、EMと比較して吸収、胃酸抵抗性、組織移行性が良好で半減期が長く、下痢などの消化器症状が少ない。
AZMは百日咳の保険適応はない。保険適用外だが、10㎎/㎏/日分1内服 5日間を推奨
免疫グロブリン製剤について
免疫グロブリン製剤(Up to dateに記載なし)
抗百日咳毒素抗体(抗PT抗体)による毒素中和目的に投与されるが、本邦では重症症状の軽減に有効であった報告が散見されるものの海外では否定的な論文が多い。
Novel therapies for the treatment of pertussis disease.〔Pathog Dis 2015 Nov; 73(8): ftv074〕より
1999年にBrussらが、26人の百日咳に感染した乳児において、免疫グロブリン製剤の複数静注を実施。P-IGIVの投与は、血清抗-PT抗体価の上昇、リンパ球増加の低下および発作性咳の減少をもたらした〔Pediatr Infect Dis J. 1999; 18:505-11。〕。ただし、残念なことに、2007年のハルパリンらの多施設試験は発作性咳の改善に何ら利点見つからなかった〔Pediaric infect Dis J 2007 Jan;26(1):79-81.〕。違いが生じたDissucusionとして前者と後者では、対象の年齢平均が前者:9.7週間、後者2.3か月である点に留意が必要である。
百日咳患者に対するガンマ・ベニンの使用経験 小児科臨床 32(1): 175-179, 1979.より
百日咳患児12例にγグロブリン:100mg/kgを2~7 日間隔で2~3回投与した。第2病週以内に使用すると、痙咳発作の回数は半減し、白血球も減少した。有効率は71%であった。
重症乳児百日咳における経静脈的ガンマグロブリン投与の有用性の検討
日本小児呼吸器疾患学会雑誌 19(suppl): 90-90, 2008.より
【緒言】重症乳児百日咳に対する経静脈的ガンマグロブリン投与(IVIG)の効果について検討を行った。
【方法】過去20年間に当院に入院した乳児百日咳症例について後方視的検討を行った。呼吸補助療法と呼吸循環監視を要した症例を重症例と定義し、IVIGの有無により重症例を2群に分け検討を行った。
【結果】乳児百日咳51例中19例が重症例と判断された。IVIGを受けた5症例は全て重症例であり、ガンマグロブリン200-400mg/kg/日3日間投与で行われた。重症例はIVIG施行群5例、非施行群 14例に分かれ、背景因子の比較では2群問に有意差はなかった。また2群間で人工呼吸管理を要した症例の割合に差はなく、IVIG施行群では3例が人工呼吸管理開始後にIVIGを開始された。IVIG後に得られた効果は症例により異なり、無呼吸の減少,気管支攣縮の減少,酸 素化の改善,低換気の改善が認められた。IVIG 施行群は非施行群に比して入院期間が有意に短かった。
【考察】百日咳に対するIVIG投与については、従来痙咳の軽減が主な評価項目とされてきた。しかし乳児では特徴的な症状を呈する頻度が低く、高頻度に呼吸補助を要するため、別の評価基準が求められる。本検討では重症乳児百日咳に対するIVIGが入院治療期間の短縮をもたらす可能性が示された。
出血性膀胱炎(定義、原因、症状、治療、予後)
小児科診療 2000年 第63巻 4号 570-574より大部分抜粋
【概念、病因】
肉眼的血尿と膀胱刺激症状を主徴とする膀胱炎を出血性膀胱炎と称し、時に発熱を伴う。
毒素、薬物、放射線、ウイルス/細菌による膀胱移行上皮および血管への損傷が出血性膀胱炎につながる1)。
ウイルス性出血性膀胱炎は、健常小児の頻度は少なく、移植後の免疫不全状態の小児に多い。また、大腸菌による出血性膀胱炎もあり、細菌感染にも注意をする必要がある。
膀胱内凝血塊による膀胱タンポナーデ・尿閉・腎後性腎不全に注意が必要である。膀胱タンポナーデの状態は、強い腹痛や下腹部の膨隆を認める2)。
尿沈渣では非細菌性の膿尿をしばしば認める。血小板数、凝固因子、腎機能測定、尿微生物培養、膀胱傷害の評価のため腹部超音波検査は、病態把握や鑑別有用である。
出血性膀胱炎の原因3)
出血性膀胱炎の原因薬剤2)
ウイルス性:
6-15歳に好発し季節的には3-10月に多く、1週間前後で軽快する予後良好な疾患で、確定診断は尿中からのウイルス分離・同定やペア血清での抗体上昇によってなされる。PCR法やPCR-RFLP法による同定検査が高感度で迅速診断が可能である。
多くはアデノウイルスが原因で、アデノウイルス出血性膀胱炎の起因血清は7型、11型、21型、34型、35型、37型が報告されている。このうち11型の頻度が最も高く、ついで21型が多い。その他、サイトメガロウイルス、ポリオーマウイルス、EBウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、BKウイルスなどが病因となりうる。
報告された症例では、末梢白血球の上昇はなくCRP陰性、赤沈の正常~中等度亢進、尿蛋白2+まで認めた。いづれも膿尿を認めた。
薬剤性:
アルキル化剤(シクロホスファミド、イホスファミド、ブスルファン)、ペニシリン系抗菌剤、抗アレルギー剤(トラニラスト)、漢方薬(柴苓湯、小柴胡湯)の頻度が多い。
骨髄移植・放射線関連:
頻度は2-16%と言われ、移植から2-100日ほど発症する症例が大部分である。移植片宿主反応や免疫不全状態が遷延することによる潜在ウイルスの再活性化が原因と考えられている。
骨髄移植時の全身放射線による直接的な膀胱損傷も起こるが、続発する免疫不全が発症により関与する。特に骨髄移植患者の出血性膀胱炎ではBKウイルスの関与が報告されている1)
BKウイルスは、初感染は小児期で無症状が多く、初感染後は腎臓に潜伏する。成人の90%がBKウイルス血清陽性である。出血性膀胱炎を起こした同種骨髄移植患者の尿からBKウイルスDNAが80.8%で検出され、うち20.8%はBKウイルス血症であった1)。
【重症度】Drollerの重症度分類1)
【鑑別診断】
悪性腫瘍との鑑別が困難な場合は、細胞診や膀胱鏡検査、病理組織検査を行う。
特発性腎出血・尿道炎(→三分杯尿でどの分画に血尿が認められるかで診断可能)、腎炎、Wilms腫瘍、膀胱粘膜癌、腎癌
【治療・予後】
健康小児に発症した出血性膀胱炎と、移植度免疫不全状態にある児の出血性膀胱炎の病態には大きな相違があり、必然的にその治療と予後は隔たりが生じる。
感染性(ウイルス、細菌性):
ウイルス性は予後良好、報告例では症状改善まで6~12日を要した。大腸菌によるものは、肉眼的血尿の消失に1~9日(平均2.2日)を要した。
薬剤性:
薬剤中止によって治癒するとされている。しかし、アルキル化剤の中止後に10年たっても出血性膀胱炎を繰り返した報告がある2)
骨髄移植を受けている小児患者:
移植関連死亡率は出血性膀胱炎なし患者:21%、出血性膀胱炎(重症度Ⅲ~Ⅳ)あり患者:71%と報告されている1)
【治療】
ウイルス性膀胱炎:
通常は十分な水分補給と利尿を促すのみで経過観察する。
出血が多い時:
トラネキサム酸2~3mg/kg/日またはカルバゾクロムスルホン酸10mg/kg/日の使用、膀胱刺激症状に対する鎮静目的で、塩酸クロミプラミン1~2mg/kg/日などを対症療法的に投与する場合もある。その他の保存的止血法として、プロスタグランジン(PG)製剤によ る膀胱内注入療法,フェノール,ホルマリン,ミョウバン,局所用トロンビンによる膀胱内注入療法がある。(ミョウバン,局所用トロンビンが麻酔の必要がなく安全に施行可能な方法である)。その他、外科的方法として、動脈塞栓術や手術療法がある。
抗癌化学療法時:
シクロホスファミド,イホスファミド大量点滴時の副作用予防には①膀胱持続灌流、②水分補給、③メスナ投与 がある2)。
【経過】
ほとんどの例は、出血性膀胱炎の軽快とともに腎機能も改善されてくる。しかし、一部には高度の腎機能低下を きたし、改善の傾向を示さない症例には腎生検による組織診断を行うとともに、ウイルス原因によっては抗ウイルス薬を投与しながら経過観察する。
メスナについて2)
メスナはシクロホスファミド,イホスファミドを投与される患者には有用な薬である。メスナは静脈から投与後、酸化され血清中で安定したジスルフィドになる。これは尿中でアクロレインと結合し不活性なチオエーテルになり排泄される。シクロボスファミドやイホスファミドの血中半減期は6-7時間であるがメスナの血中半減期は90分であるため、メスナが化学療法中に膀胱に存在するよう投与する必要がある。
高用量のシクロホスファミドやイホスファミドを投与された患者は少なくとも1日 2Lの飲水が励行され、寝る前まで飲水をし、夜間も一度は膀胱を空虚にするために排尿するべきである。ただし、膀胱刺激症状だけでシクロホスファミドの治療を中止する必要はない。
1) Pediatric hemorrhagic cystitis. J Pediatr Urol. 2009 Aug;5(4):254-64
2) 日本臨床 2012年 70巻 増刊号6 432-437
IgA血管炎の小児と成人の違い
IgA血管炎は、IgAを含む免疫複合体の沈着を伴う全身性の小血管炎で、血小板減少および血液凝固異常を伴わない紫斑性皮疹が出現する。IgAにはIgA1とIgA2の2つあり、その内IgA1のみが関与する。
皮膚症状はPalpable purpura、丘疹、紅斑、膨疹、血管浮腫であり、成人では血疱や潰瘍形成も多くみられる。〔日本皮膚科学会雑誌:127(3). 299-415.2017〕
小児では年間8~20.4人/10万人、成人では1.3人/10万人である。小児IgA血管炎(20歳未満)は、男女比:1.2-1.6であるが、成人の男女比は同等だった。腎疾患のは小児30-40%、成人45-85%で成人に多い。年齢は、2.5歳~88歳まで報告があり、平均年齢は小児:6.89±3.69歳、成人43.5歳±18.6歳だった〔J Korean Med Sci. 2014 Feb;29(2):198-203〕。
<15歳未満の年齢分布>〔Asia Pac Allergy. 2014 Jan;4(1):42–47〕
【原因】〔J Korean Med Sci. 2014 Feb;29(2):198-203〕
発症は、春と冬に多い。成人は、悪性腫瘍や薬剤によるIgA血管炎の頻度が小児より高い。
過去に報告された原因〔Pharma Medica.Vol.26 No.5 2008〕
【小児と成人例の比較】
<小児と成人の症状>〔Pediatr Neonatol. 2009 Aug;50(4):162-8〕
腹痛と発疹の間隔は1-21日までの範囲(中央値:8.3±5.52日)であった。
血尿の出現は小児で第1週間目33%、2週目67%、成人で2週以内34%、5週以内67%であった。
小児では腹痛が発疹に先行することが多い(腹痛が先:小児 24.6% 成人 4.55%, P<0.05)。
<IgA血管炎のの初発症状>〔Asia Pac Allergy. 2014 Jan;4(1):42–47〕
<小児と成人の検査結果>〔Pediatr Neonatol. 2009 Aug;50(4):162-8〕
白血球数は小児例で優位に高い。
補体低下、IgA上昇、抗核抗体陽性率は成人例で高いようにみえるが、有意差なし。
IgA血管炎の診断にIgA組織沈着を証明する必要があるか?
日本皮膚科学会雑誌:127(3)。299-415.2017より
IgA血管炎は、IgA抗体が関与する小型血管炎である。
血小板減少および血液凝固異常を伴わない紫斑性皮疹(100%)が出現する。
皮膚症状は下肢を中心に出現するが、時に体幹や上肢にも出現する。
Palpable purpura、丘疹、紅斑、膨疹、血管浮腫であり、成人では血疱や潰瘍形成も多くみられる。
IgA血管炎の診断にIgAの組織沈着を証明する必要があるか?
EULAR/Presによる小児血管炎分類基準によると、蛍光抗体直接法(direct immunofluorescence;DIF)でIgA沈着の証明を行わなくてもIgA血管炎の診断が可能である。これは、小児血管炎の多くがIgA血管炎であるため、他の小型血管炎の可能性がほとんどないからである。
一方、初発年齢が21歳以上の成人発症のIgA血管炎の診断には、皮膚あるいは腎のIgA沈着を証明することを推奨する(推奨度:B)
腎生検が全例に施行困難であることを考慮すると皮膚小血管壁のIgA沈着の証明の意義は高い。しかし皮膚DIFは擬陽性と偽陰性が多いことから、その結果判定は慎重になさなければならない。
<小児における全身血管炎の頻度>Proceedings of Singapore Healthcare 2012. Vo21.(4). 265-271
IgA血管炎、次いで川崎病が多い。MPA、Wegener’s granulomatosis、結節性多発動脈炎は少ない。