小児総合診療医のひとりごと

小児科, 総合診療科(家庭医療), アレルギー についてのブログ

蛋白尿のアプローチ

蛋白尿へのアプローチ

小児の検尿マニュアル 日本小児腎臓学会編集より

 

Point進行性疾患の発見、全身性(免疫/代謝/内分泌)・腫瘍・感染症・排尿異常の発見

病的蛋白尿:3歳以上では尿蛋白/尿Cre比が0.15g/gCr以上

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 ネフローゼ症候群:高度蛋白尿(夜間蓄尿で40㎎/時/㎡以上)または早朝尿で尿蛋白/Cre比:2g/gCr以上、かつ低Alb血症(Alb:2.5g/dl以下)

確認すべきRed flag sign(専門医へ早急に紹介:f:id:drtasu0805:20170626153017p:plain

  •  問診: 体位性蛋白尿や運動、発熱などによる一過性蛋白尿を除外する

+α 血尿を伴う場合の問診鑑別

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  • 検査:生理的蛋白尿や低分子蛋白尿を除外する

最低限行う検査:

早朝第一尿、来院時随時尿 (尿定性は濃縮・希釈尿の影響を受ける。尿蛋白/尿Creは影響を受けない)、身長、体重、血圧、腹部超音波検査、尿沈渣、尿蛋白/尿Cre、総蛋白、Alb、Cre、BUN、補体、T-chol、尿中β2・α1 ミクログロブリン/尿Cre(尿PH6以下で分解され偽陰性化、10000μg/LはDent病疑い)、CRP、血沈

追加検査:

ASO、IgA、IgG、抗核抗体、シスタチンC、HBs抗原、HCV抗体

  • 鑑別診断:

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  • 検尿異常のフォローと腎生検、専門医への紹介のタイミング

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腎生検の推奨:

  • ネフローゼ発症時に、①1歳未満、②持続血尿、③高血圧、④腎機能低下、⑤低補体血症、⑥腎外症状(発疹、紫斑など)
  • ステロイド抵抗性を示すネフローゼ症候群
  • カルシニューリン阻害薬の長期投与(投与開始2-3年後に腎生検で腎毒性を評価)

早朝第一尿の取り方

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学校検尿のフローチャート

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新生児の頭蓋内出血

 周産期医学 Vol.46 増刊号/ 2016 713-717より

病態:

側脳室周囲に存在する脳室上衣下胚層は、在胎25-26週で最大となり、以降は縮小傾向になる。

在胎32週以前の児では、脳室上衣下胚層に出血を起こした場合に脳室内出血となることが多い。

脳室上衣下胚層は、前脈絡叢動脈、内側線条体動脈、外側線状体動脈が支配し各々が内頸、前大脳、中大脳動脈の終枝で虚血やうっ血を含めた血流変化を受けやすい。

早産児の血管壁はコラーゲンや細胞成分に乏しく破綻しやすくIVHが発症しやすい。

在胎23-28週児の検討ではIVHなしは70.8%だった。

症状・診断:

特異的症状はなく、徐脈、無呼吸、大泉門膨隆、自発運動低下、筋緊張低下、痙攣などで気づく。

迅速性から診断は、頭部超音波検査が第一選択で重症はPapile分類(CT診断)、Volpe分類(頭部超音波検査)で行う。早産児のIVHは日齢3までに80%が起こるため定期的な画像検査を行う。

凝固能:ビタミンK欠乏に対するビタミンK2補充。凝固因子補充を目的としたFFP投与(10ml/㎏/回)

治療:

根本的な治療はない。出血後水頭症が進行する場合は腰椎穿刺、リザーバ留置、脳室腹腔内シャントを検討する。

予後:

IVH全体で死亡率は5-10%、出血後水頭症への進行は5-20%

原因不明の好酸球増加症のアプローチ

原因不明の好酸球増加症のアプローチ

参考文献:Up to date 『Approach to the patient with unexplained eosinophilia』

【病態生理】

好酸球は主に組織に分布する(血液の数百倍の分布)。

標的組織は、皮膚・肺・胃腸管が主であるが、深刻な臓器損傷は心臓・神経で起こる。

末梢好酸球数:1500/μlが臓器障害が起こりやすい臓器障害が起こりやすいと考えられているが、極端な場合を除き(2万/μl以上)、好酸球数は臓器障害のリスクを予測しない。

軽度:500-1500/μl、中等度:1000-5000/μl、高度:5000/μl以上 

J Allergy Clin Immunol.  2010 Jul;126(1):39-44.

好酸球増加症の鑑別は、成人と同様である。

小児と成人の高カリウム血症の診断と治療管理①(総論)

【高カリウム血症の診断と治療管理  総論】

●Point:高K血症の基本事項を確認する 

不足分は、小児の高カリウム血症の

drtasu.hatenadiary.jp

診断と治療管理②(検査と治療の総論)を参考

 

高K血症の定義:原則(検査対象は)、血清カリウムが5.5mmol/lを超える

ただし新生児では基準値が高めとなる

 K基準値:早産児 4-6.5mmol/l、新生児 3.7-5.9mmol/l、乳児 4.1-5.3mmol/l、1歳以上 3.5-5mmol/l

 

原因:

①腎排泄の減少

②過剰な摂取

③細胞内からの漏出

⇒ なので治療は、腎排泄を増加、摂取減少、細胞内へのカリウムシフト増加 する薬剤の投与となる

 

カリウムの排泄

主に腎臓で起こる。腎外排泄のメカニズムは、カリウムの細胞外シフトや胃腸からの漏出(毎日カリウム摂取量の約10%が胃腸管を介して取り除かれる)がある。

糸球体濾過率(GFR)が15ml /分/1.73m 2未満に低下するまで、腎カリウムホメオスタシスを維持可能である。

 

腎臓におけるカリウム調節機構

カリウムは糸球体で濾過され、Henleの近位尿細管およびループ脚でほぼ完全に再吸収される。排泄は主に皮質採集管で起こる。

ろ過されたカリウムの約20%は、Henleの太い上行脚に再吸収される。

 

腎外のカリウム調節機構

細胞内へのカリウムシフトを増加させる:インスリン、アシドーシス、アドレナリン、ノルアドレナリンドーパミン

 カテコラミン機序⇒筋細胞上のβ2レセプターに結合するカテコラミンが細胞へのカリウムシフトを増加させる

インスリン機序⇒肝臓および筋細胞へのカリウム取り込みを増加させる

 

カリウムの摂取目安量

厚生労働省の摂取目安量

 成人の値:男性 2,500 mg/日、女性 2,000 mg/日

 小児は下記:

 0~5 か月:400㎎/日、6~11 か月:700 mg/日、1-5歳は量的な詳細報告がなく目安量の設定が困難

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小児Kの目安量(日本人食事摂取基準2015、厚生労働省より)

カリウムの耐容上限量

 腎機能が正常である限り、過剰摂取になるリスクは低い。したがって、耐容上限量は設定しない。ただし、腎機能が障害されている場合には摂取量に注意する。(厚生労働省食事摂取基準より)

 

一般的なカリウムが豊富な食品

カリウムは、果物、ジャガイモ、豆、および穀物が多い。

 カリウム(K) 1 mEq = 1 mmol ≒ 39 ㎎

食べ物

K含有量mmol

食べ物

K含有量mmol

バナナ(1個85g)

8.6

オレンジジュース(200ml)

7.9

ブルーベリー(100g)

1.9

ミルク(200ml)

7.7

マッシュルーム(75g)

8.1

コカ・コーラ(200ml)

0.1

ブロッコリー(75g)

5.8

ポテトチップス(20g)

5.1

納豆(75g)

3.9

ミルクチョコ(20g)

2.4

タマネギ(75g)

1.5

ホワイトチョコ(20g)

1.8

フライドポテト(150g)

17.7

ワインガム(20g)

1.8

玄米(150g)

2.2

スパゲティ(150g)

2.3

 

カリウム血症の原因

カリウム摂取過剰

①輸血

②K製剤

③ハーブ類など

腎機能や他の調節機構が正常なら、高カリウム血症を生じるために、極めて多量のカリウムが必要となる。腎機能障害(特にGFRが15未満)で起こりやすい

カリウム排泄障害

①薬剤:ACE阻害剤/ARB/スピロノラクトン/エプレレノン/NASIDs/ヘパリン/シクロスポリン/タクトリムス/~ナゾール系の抗真菌薬/ST合剤/ペンタミジン

②急性/慢性腎機能不全(特にGFR<15はカリウム腎排泄の減少をもたらす)

③低アルドステロン症

④偽性低アルドステロン症

⑤先天性副腎過形成(約90%が21-ヒドロキシラーゼ欠損症)

⑥うっ血性心不全

⑦便秘症(カリウムの経腸排泄の減少)

細胞外への漏出:

①薬剤:β遮断薬/ジゴキシン/高浸透圧利尿剤/ST合材/サクシニルコリン/

②アシドーシス

③糖尿病(インスリン低下)

④高浸透圧(高血糖・マンニトール)

⑤組織壊死

⑥周期的四肢麻痺(骨格筋のNaチャネル変異)

 

カリウム血症の診断

カリウム血症の分類:

 軽度(5.5-6.5mmol / l)、中等度(6.5-7.5mmol / l)重度(> 7.5mmol / l)

カリウム血症は症状に関連することはまれ。

時に動悸、吐き気、筋肉痛、または感覚異常を訴える。

血清カリウム> 6.5mmol / lの患者では、心電図検査(ECG)の監視が必須。

検査は体系的で、常に心機能、腎臓および尿路の評価ならびに水分状態および神経学的評価を含むべきである。

 

 

 

参考文献:

・Up to date「Causes, Clinical manifestions, and evaluation of Hyperkalemia in Children」

・Pathogenesis, diagnosis and management of hyperkalemia. Pediatr Nephrol  2011 Mar; 26(3): 377–384.

・内科救急診療指針2016

 

潜在性甲状腺機能低下症に補充療法をすべきか?

潜在性甲状腺機能低下症の治療について

Thyroid Hormone Therapy for Older Adults with Subclinical Hypothyroidism

NEJM.  Apr 3. doi: 10.1056/NEJMoa1603825.

背景:

潜在性甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモン補充を行うかは議論されるところである。

 

方法:

二重盲検ランダム化対照試験。 65歳以上の高齢者において、無症候性甲状腺機能低下症に対して甲状腺ホルモン治療を行い有益であるかを検証した。

TSH(サイロトロピン)が4.6~19.99mIU/Lと上昇しfT4(遊離サイロキシン)が基準範囲の65歳以上の患者は737人が対象。368人はレボチロキシン(チラーヂン)内服群とした(50μg/日Or 50㎏未満または冠動脈患既往なら25μg/日 で開始しTSHが0.40~4.59mIU/Lの範囲になるよう調整した)。369人はプラセボ群とした。

1次評価項目は、1年間でのhyroid-Related Quality-of-Life Patient-Reported Outcome

甲状腺機能低下症の症状スコア・倦怠感スコアの変化とした。(これらの指標のスコアはいづれも0~100点で、高スコアほど症状は深刻で、臨床的に意義のある最低差は9ポイントであった。)

 

結果:

平均年齢は74.4歳。53.7%(396人)は女性であった。

ベースラインのTSHの平均値は6.40±2.01mIU/L、1年後、プラセボ群は5.48に減少、レボチロキシン補充群は3.63mIU/Lであった(P<0.001)、またレボチロキシン投与群の中央値は50μg/日であった。

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両群を比較すると、1年後の甲状腺機能低下症の症状スコアと倦怠感スコアに差はなかった。

1年後の甲状腺症状スコアの変化:

投与群 0.2±14.4、プラセボ群 0.2±15.3。群間差は0.0;95%信頼区間-2.0から2.1

1年後の疲労スコアの変化:

投与群3.8±18.4、プラセボ群3.2±17.7。群間差は0.4;95%信頼区間-2.1から2.8

2次評価項目であるQOL(EQ-5Dスコア)、握力、血圧、BMI、腹囲、日常生活動作にも投与群で有意差は認めず有用性は認めなかった。

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重篤な有害事象(心房細動、心不全、骨折、新規発症の骨粗鬆症)の発生率にも差は無かった。
結論:
高齢の無症候性甲状腺機能低下症患者に対するレボチロキシン投与は、明らかな有用性がない。

経口ステロイドの短期内服における副作用

成人の短期間の経口ステロイド内服に伴う有害事象について

 

Short term use of oral corticosteroids and related harms among adults in the United States: population based cohort study

BMJ 2017;357:j1415  (Published 12 April 2017)

 

目的:

経口ステロイドの短期使用における有害事象の頻度を調べる。

デザイン:

前向きコホート試験、症例対照試験

参加者:

2012-2014年にかけて18-64歳の成人を登録。

 

主要アウトカム:

経口ステロイドの短期投与率(30日未満)とした。コルチコステロイド使用者、非使用者における有害事象率。薬物開始後30日以内の有害事象率と31-90日後のリスク。

 

結果:

3年の観察期間内に、1548945人の成人のうち、327452(21.1%)に短期間の経口ステロイド投与を受けた。

最も頻回に使用されてのは、上気道炎・脊髄疾患・アレルギーであった。

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ステロイド処方は様々な専門医により処方された。薬剤開始30日以内では、敗血症(発生率皮5.30、95%C.I 3.80~7.41), 静脈血栓症 (3.33、95%C.I 2.78~3.99), 骨折 (1.87、95%C.I 1.69~2.07)の増加を認め、31-90日に減少した。これらのリスク増加は、プレドニン20mg/日未満でも認めた (発生率比:敗血症 4.02、静脈血栓症 3.61、骨折 1.83、全てP<0.001)。

 

結論:

保険に加入している欧米人の5人に1人が、3年間の観察期間中に、短期間のコルチコステロイドの投与を受け、短期間のステロイド投与(30日未満)は、有害事象のリスク増加に関連していた。

心不全の血管拡張薬の使い分け:硝酸薬かhANPか?

参考文献

・誰も教えてくれなかった 循環器薬の選び方と使い分け(2017/3/30発行)

 →読みやすい  分かりやすい名著

・レジデントノート増刊 Vol.14 No.14
循環器診療の疑問、これで納得!(2012年11月発行)

・レジデントノート 2016年10月号 Vol.18 No.10
心不全の診かた

 

急性心不全では、クリニカルシナリオ(CS)と呼ばれる収縮期血圧を指標とした分類による治療方針が用いられることが多くなり、CSの普及により従来利尿剤を使っていたところを血管拡張薬で加療することも多くなっている。

 

 

血管拡張薬の使い分け(硝酸薬かhANPか?)

主な血管拡張薬は、

硝酸薬(ニトログリセリン)、人遺伝子組み換えANP:hANP(カルペリチド)の2種類。

いずれも細胞内のcGMPを増加することで血管拡張作用を示す

 

血管拡張薬を用いる上で重要な点は以下3点

①前・後負荷:硝酸薬は前負荷>後負荷、hANPは前負荷=後負荷

②利尿作用:硝酸薬はほとんどなし、hANPは顕著にあり

③臓器保護作用:たぶんhANP>硝酸薬

急性心不全では後負荷(動脈系圧上昇)による心拍出量低下が病態形成に重要な影響を与える。利尿・臓器保護作用もカルペリチド(hANP)が優れているため、カルペリチド販売後は心不全の血管拡張薬治療はカルペリチドを第一選択とすることが多い。(実地臨床では、お金がない・院内採用がない・脱水傾向で顕著な利尿を避けたい場合以外カルペリチドを使用することが多い。)

 

なぜ硝酸薬とhANPで前負荷・後負荷に対する作用が異なるのか?

(血管を拡張させるメカニズム)

①前・後負荷:ニトログリセリンは前負荷>後負荷、hANPは前負荷=後負荷 はなぜ?

 

血管平滑筋の緊張は大きく2つの細胞内因子:CaとcGMPで規定される。

Ca:血管平滑筋を収縮、cGMP:血管平滑筋を弛緩 という効果がある。

両薬剤ともにcGMPを増やすことで血管拡張作用を発揮する。

<cGMP:GTPからグアニル酸シクラーゼと呼ぶ酵素(以下、GC)により産生>

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硝酸薬は、静脈中でより多くHb-NOから分離し、NOとなり作用を発揮する

上記の機序で

硝酸薬:静脈で血管拡張作用が強い(前負荷減少)

    動脈で血管拡張作用が弱い(後負荷減少が強くない)

hANP:静脈・動脈に同等に作用する(前・後負荷が減少)

 

hANPでなぜ利尿作用を示すか?

ANP(心房ナトリウム利尿ペプチド)の作用による。

ANPは心房筋が進展されると分泌され、子宮体の輸入細動脈を拡張、輸出細動脈は拡張せずに軽度収縮させる。糸球体濾過圧が上昇して原尿を増やす。

 

臓器保護作用:hANP>硝酸薬??

hANPは細胞質内GCに作用、硝酸薬は細胞膜GCに作用する。

細胞質内GCに作用する場合のみ、動物実験で心保護作用が認められた。

実地臨床では、hANPの臓器保護作用を証明する文献はまだない。多分いつか出ると思うが・・・、ちなみに下記の文献で全死亡 再入院は減ると報告。

 

hANPの文献:

PROTECT study

重症心不全患者49例のうち、低用量カルペリチド(0.01-0.05γ、72h)と非投与群を比較。

カルペリチド投与群で、血中ANPとcGMP濃度が有意に上昇し、カルペリチドが内因性ANPの作用を増強したことを示した。

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長期予後(18か月のフォロー期間中の全死亡および再入院)が、カルペリチド群では11.5%、非投与群で34.8%であった。短期予後不明。

急性期血行動態や心筋障害指標のトロポニン値、腎障害指標のCreに有意差なし。

 

 

 

 

 

ミタゾラム経鼻投与について(有効性、投与量、投与器具など)

小児てんかんのけいれん重積に対するmidazolam点鼻投与の有効性と薬物動態に関する検討

脳と発達 2010;42:34-36

 

背景:

小児けいれん重積に対するガイドラインが提案され、血管確保が困難な症例に対するミタゾラム鼻腔/口腔な投与が明記された。

目的:

小児てんかんのけいれん重積に対するミタゾラム点鼻投与の有効性と薬物動態を検討した。

方法:

けいれん重積発作の既往があり、ジアゼペム投与 (静脈もしくは坐薬) が無効であった症例を対象(年齢11か月~10歳、平均3.4歳、計14例)とした。

点鼻投与はドルミカム®を原液のまま必要量を片側鼻腔に半量ずつ鼻腔内に投与し、点鼻投与した10分、20分、60分後のミタゾラム血中濃度を測定した。

(投与量は0.1-0.3㎎/㎏を目安に、血管確保が困難な場合は追加投与を行った。)

 

結果:

MDL点鼻投与は有効性が高く (完全止痙 : 65%)、速効性 (平均5.7分;1~15分) があった。

 

今回の投与量 (平均0.26mg/kg) では呼吸抑制は認めず安全性が確認できた。(ミタゾラムの投与量は、0.11~0.9㎎/㎏で1例のみ血管確保に長時間を要し結果的に総投与量が0.9mg/㎏になった)

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経時的な濃度測定が可能であった症例では、10分以内に急速な血中濃度の上昇が認められた。 投与方法が簡単で安全に使用できるため、小児救急現場において有用な手段と考えられた。

 

鼻腔噴霧器具:

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ミタゾラム:

半減期は約1時間で、CYP3A4が関与する肝代謝、点鼻投与は鼻粘膜から直接体内循環に入り肝臓で初回通過効果がないため、速やかに血中濃度が上昇する。成人ボランティアでの比較では点鼻と静脈注射ではピークに達するまでの時間はほぼ同じである。点鼻による最高ミタゾラム濃度は、経静脈投与の約半分である。

セフェム系抗菌薬の少量持続内服は尿路感染症の再発抑制・予防効果があるのか?

多施設における小児初発尿路感染症の検討

(cefaclor の持続少量抗菌薬予防投与による再発抑制効果について)

日本小児腎臓病学会雑誌 Vol. 30(2017) No. 1 

 

背景:

有熱性尿路感染症(UTI)の再発は、腎瘢痕形成に寄与する可能性があるだけでなく、患児とその家族に大き な負担となる。そのため、従来、再発のリスクの高いと 思われる児に対しては、持続的少量抗菌薬予防投与 (continuous antibiotic prophylaxis: CAP)がすすめられてきた。多くは sulfamethoxazole-trimethoprim(ST 合剤) を用いており、本邦で頻用される cefaclor(CCL)についての検討は少ない。

 

目的:

3 施設の初発有熱性UTI症例における、CCL(ケフラール) のCAPによるUTI再発抑制効果を同定する。

方法:

2004年4月から2013年3月に昭和大学横浜市北部病院・同藤が丘病院・聖マリアンナ医科大学病院の各小児科に入院した初発有熱性UTI症例のうち、6 か月以上経過観察できた126例を対象とした。

CCLのCAPを行った群(CAP群)と行わなかった群(非CAP群) の2群にわけ、患者背景・再発の有無について検討した。 また排尿時膀胱尿道造影(VCUG)を施行した症例は、膀胱尿管逆流(VUR)の有無も合わせて検討した。

結果:

126例(CAP群52例、非CAP群74例)で、両群の患者背景に有意差はなく、CAP群で有意に再発が少なかった。

またVCUG を施行した114例(CAP群50例、非CAP群64例)のうち、VURがある症例では、CAP群で有意に再発が少なかった(12%vs67%,p<0.01)。 CCL の CAP により,UTI の再発を抑制できる可能性 がある。><0.01%)。

結論:

CCLのCAPにより、UTIを抑制できる可能性がある。

HERDOO2ルール、静脈血栓症の抗凝固療法の中止基準

非誘発性静脈血栓症の女性におけるHERDOO2ルールを用いた治療期間の検証

BMJ. 2017 Mar 17;356:j1065. doi: 10.1136/bmj.j1065.

 

【目的】

HERDOO2ルールを前向きに検証する。危険因子が0-1項目のみの女性であれば、短期間の治療後に抗凝固剤を安全に中止することができる。

危険因子:

  • いづれかの下肢に色素沈着、浮腫、発赤
  • Dダイマー≧250μg/ml
  • 肥満:BMI≧30
  • 年齢≧65歳

 

【方法】

前向きコホート研究、7カ国の二次/三次医療センター44施設で実施。

5~12ヶ月間の間、初回の非誘発性静脈血栓症(膝窩静脈より近位の静脈に新たに発生した血栓と、1区域よりも近位の動脈に新たに発生した肺塞栓を対象)に対して抗凝固療法を実施した2785人が対象とした。

HERDOO2ルール:0-1点の女性は、再発性VTEの低リスク群として抗凝固中止(介入群)、男性および高リスク群(2点以上)女性は、中止するかを患者と主治医の判断に任せる(観察群)とした。1年のフォローアップ期間中に再発した症候性VTEを主要評価項目とした。

【結果】

低リスク群631人(51.3%)のうち、

591人が経口抗凝固薬を中止した。追跡期間中に、経口凝固薬17人がVTEを再発、1年当たりの再発率は3.0%(95%信頼区間1.8-4.8%)だった。

高リスク群(2点以上の女性)と男性のうち、

抗凝固薬の使用を中止していた323人では、追跡期間中に25人がVTEの再発していた。再発率は1年当たり8.1%(5.2-11.9%)だった。抗凝固薬の使用を継続していた男女1802人では、追跡期間中のVTE再発は28人で、1年当たりの再発率は1.6%(1.1-2.3%)だった。

男女別では、、

抗凝固薬を中止していた高リスク女性の再発率は7.4%(3.0-15.3%)、男性の再発率は8.4%(5.0-13.2%)だった。

【結論】

非誘発性VTEを起こしたHERDOO2のスコアが1以下の女性は再発リスクが低く、一定期間の治療後に抗凝固薬を安全に中止できる。

NEJM :大理石骨病 (Osteopetrosis)

(NEJM IMAGES IN CLINICAL MEDICINE)

N Engl J Med 2017; 376:e34

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6歳の女の子。歯が1本しか生えず歯科医を受診。聴力障害、2歳で視力障害、前頭部隆起、高眼圧、低身長を有していた。

採血:Ca 5.7mg /dl(正常範囲:8.7~10.3mg/dl)、PとALPは正常。

診断は?

大理石骨病

 

CT:頭蓋骨のび漫性肥厚あり(パネルA、矢印)。

手首Xp:硬化帯と半透明帯が交互にあり(パネルB、矢印)。

 (大理石骨病の画所見:画像診断まとめ, 三角フラスコ変形:エルレンマイヤー・フラスコ変形)

 

骨密度の増加を特徴とする稀な遺伝子疾患。典型的には、遺伝子の突然変異が、破骨細胞機能の障害および骨吸収の障害をもたらす。

合併症:頭蓋神経圧迫、脆弱骨、骨髄不全

治療:カルシトリオールが開始、患者はインターフェロンγ-1b療法も投与を薦めている。

 

【大理石病の日本語概説】

大理石病の概要:難病情報センター

小児慢性特定疾患センター

 

【骨病理の比較】
          Ca   P   AlP  PTH  コメント
骨粗鬆症     正常  正常  正常  多様  骨量の減少
大理石骨病    正常  正常   上昇   正常  分厚い濃い骨
骨軟化症(くる病) 減少  減少  多様  上昇  柔らかい骨
嚢胞線維性骨炎 上昇  減少  上昇   上昇  褐色腫瘍
Paget 骨病   正常  正常  多様   正常  異常な骨構造

【鑑別診断】
 高ビタミンD症, 副甲状腺機能低下症, Paget 病, 乳癌または前立腺癌のびまん性骨転移, フッ素, 鉛, ベリリウム中毒, 骨髄線維症, 鎌状赤血球症, 白血病

 

再生不良性貧血とPNH血球(CD59-、CD55-)

Minor population of CD55-CD59- blood cells predicts response to immunosuppressive therapy and prognosis in patients with aplastic anemia

【目的】

後天性再生不良性貧血患者におけるPNH血球の臨床的意義を研究

【方法】

再生不良性貧血と診断された122人の末梢血CD59-,CD55-の顆粒球・赤血球数(PNH型血球)を定量し、免疫抑制療法の反応性とPNH血球数の関係を調べた。

【結果】

フローサイトメトリーで、0.005~23.1%にGPI膜タンパク欠損を認めた再生不良性貧血の患者は68%であった。そのうち、顆粒球と赤血球療法にPNH型血球を認めたのは83%、顆粒球のみ15%、赤血球のみ2%であった。

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抗胸腺細胞グロブリン(ATG)+ シクロスポリン(CsA)療法に反応して、PNH血球陽性患者では91%でPNH型血球が増加した。PNH血球陰性患者では48%であった。

 

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PNH 血球陽性患者では5年間でPNH患者(12%)よりも有意に高い無治療失敗生存率(64%)が得られ、全生存率は群間で同等であった。

PNH型および正常型血球の数は、免疫抑制療法に応答し、PNH血球陽性患者で平行して増加し、これらの血球は免疫治療に対して同等に感受性であると思われた。

これらの結果は、PNH型血球が再生不良性貧血患者で、免疫抑制療法に対する反応性および良好な予後を予測するマーカーであることを示している。さらに、PNHクローン増殖を可能にする造血幹細胞に対する免疫攻撃は、再生不良性貧血の発症時にのみ起こり得る。

(PNH型赤血球は健常人でも0.1%で検出される。)

超音波検査(体表エコー)は壊死性筋膜炎の鑑別に有用か?

 

Ultrasonographic screening of clinically-suspected necrotizing fasciitis

Acad Emerg Med 2002 Dec;9(12):1448-51.

 壊死性筋膜炎の超音波検査の有用性について

【目的】

壊死性筋膜炎における超音波検査の精度を決定する。

【方法】

前向き観察研究、対象は1996年から1998年に救急外来を受診した四肢の壊死性筋膜炎疑い患者。全患者に超音波検査を実施。

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壊死性筋膜炎の超音波診断基準:対側と比較して「deep fascial layer:深部筋膜層に、深さ4㎜以上の液体貯留があり皮下組織にびまん性の肥厚を認める」場合とした。最終的な診断は、壊死性筋膜炎の病理学的検査によって決定した。

 

【結果】

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62名の患者についてデータを収集。そのうち17名(27.4%)は壊死性筋膜炎であった(他は、39人が蜂窩織炎・4人が深部静脈血栓症、2人が筋炎)。

超音波検査の感度:88.2%、特異度:93.3%、陽性的中率:83.3%、陰性的中率:95.4%だった。壊死性筋膜炎の診断精度は91.9%であった。

【結論】

超音波検査は筋膜炎診断に有用である。→研究限界:台湾の1施設研究、対象は四肢の壊死性筋膜炎のみ。

 

Diagnosis of Necrotizing Faciitis with Bedside Ultrasound: the STAFF Exam

West J Emerg Med. 2014;15(1):111–113.

壊死性筋膜炎における超音波検査のポイント:STAFF

壊死性筋膜炎の初期段階は、蜂巣炎および丹毒などの軟部組織感染と臨床的に区別がつかず、早期診断が困難になる。CTやMRIは時間がかかる(場合によってはすぐ利用できない)。皮下の肥厚(subcutaneous thickening)、空気(air)、および筋内の液体貯留(fascial fluid)、略してSTAFFをベッドサイドで評価し、迅速に診断された壊死性筋膜炎の1例を経験した。ただし、十分な感度がないため診断の除外はできない。

 

Cellulitis, A Review

JAMA July 19, 2016 Volume 316, Number 3

蜂窩織炎の画像検査に関して:抜粋

壊死性筋膜炎の初期段階は、蜂巣炎および丹毒などの軟部組織感染と臨床的に区別がつかず、早期診断が困難になる。CTやMRIは時間がかかる(場合によってはすぐ利用できない)。

超音波検査は、蜂窩織炎の診断のためではなく膿瘍などドレナージが必要な液体貯留などの重症感染の区別に役立つ。

骨髄炎も蜂窩織炎に合併するので必要があればMRI/CTを行う。

MRIやCTは壊死性筋膜炎と化膿性筋炎の鑑別にも役立つ。

壊死性筋膜炎におけるCTの陰性的中率は100%、陽性的中率は76%で壊死性筋膜炎のうちCTでガス像を認めたのは36%であった。

蜂窩織炎深部静脈血栓症の低リスク(発生率:3.1%)、圧迫超音波検査は蜂窩織炎において深部静脈血栓症のRule outするためのCommonな検査である。ただし臨床的に強く疑われなければRoutineで行う必要はない。

Up to date:クループ症候群のマネージメント

クループ症候群のマネージメント

Up to date

『Croup: Approach to management』

Literature review: Mar 2017.

 

大切なところだけ抜粋

 

【はじめに】

クループは、吸気性喘鳴、犬吠様咳嗽、嗄声を特徴とした呼吸器疾患である。

典型的には6か月から3歳までに起こり、主にパラインフルエンザウイルスに起因する。

クループを起こすウイルスに特別な治療法はない。

薬物治療は、気道浮腫を軽減するするために行われる。

コルチコステロイドやエピネフリン吸入が治療の基本である。

 

【電話による取り分け】

医師の診察が必要かを評価する。

医師評価が必要な状態は下記。下記がなければ自宅管理可。

・安静時の吸気性喘鳴

・急速な進行(Ex:12h以内に上気道閉塞症状がある)

・口腔内唾液を流す

・気道異常の既往(Ex:声門下狭窄、声門下血管腫、挿管既往など)

・中~重症のクループ既往

・呼吸不全になりやすい(Ex:神経筋障害、気管支肺形性異常)

・親が安心できない

・長期症状(3-7日以上)、クループと思えない非典型的な症状を有する

 

クループ重症度スコア】

Westlyクループスコア:

喘鳴 なし:0点,聴診すると聞こえる:1点,聴診器なしでも聞こえる:2点
陥没呼吸 なし:0点,軽度:1点,中等度:2点,高度:3点
空気の入り 正常:0点,低下:1点,極度の低下:2点
チアノーゼ なし:0点,興奮するとあり:1点,:安静時もあり:2点
意識状態 正常:0点,異常(混乱、興奮):5点

2点以下:軽症 3-6点:中等症 7点以上:重症

軽症のクループ:Westlyスコア2点以下、安静時の吸気性喘鳴がない(泣いている時はある)、犬咳様咳嗽、嗄声、陥没呼吸がない。

 

【家庭での治療】

ミスト療法、解熱療法、経口水分摂取

ミスト療法:シャワーから温水を流して発生させた上記を吸わせる。

 →クループスコアをわずかに改善、子供と親に安心感を与える可能性あり(1)

軽症クループは、夜寒い空気を吸わせると改善することもある。

 

【外来治療】

不安の増加は、クループを悪化させうるので注意。

軽症

経口デキサメタゾン(0.15-0.6㎎/㎏、最大10㎎)単回投与。

*ただし、日本ではデカドロンエリキシル1.5ml/㎏を分1、Evidenceは?ですが分2で内服させる先生も多い・・です。

軽症クループに対するRCTで経口デキサメタゾン単回投与が、再受診の低下・症状持続期間の短縮。睡眠の改善。親のストレス軽減することが示された(2) (3)

通常、エピネフリン吸入は必要ない。

 

中等症~重症

・加湿、解熱剤投与、水分摂取、酸素投与なども必要である。

デキサメタゾン経口内服(0.6㎎/㎏単回、最大10㎎)の投与を推奨する。

*ただし、日本ではデカドロンエリキシル1.5ml/㎏を分1-2で内服させる事が多い・・・です。経口摂取が不可なら、経静脈的投与を行う。

中等症から重症に投与した場合、治療後6時間のクループスコアの改善、再受診・再入院の減少、病院滞在期間の短縮が示されている(4)

ステロイド反復投与は、日常的に必要ではなく副作用を増やす可能性がある。

クループに対する24時間以上のステロイド投与を支持するStudyはない。漫然と反復投与するのではなく、中等症以上が持続する場合は、気道閉塞の他の原因を考える。

プレドニゾロンデキサメタゾン代替療法として、経口プレドニゾロン(2mg/kg/日 3日間)の代替効果を示唆する文献あり

*デカドロンエリキシル0.01% 1ml中にデカドロン0.1㎎含有

 

エピネフリン吸入

L-エピネフリンを1:1000希釈の容量→(商品名:ボスミン外用液0.1%→ 1mlに1mg含有)を0.5ml/㎏(MAX:5ml)として投与する(15分間投与)

*ただし、施設間で差はあるが、日本ではボスミン外溶液0.1%を1回0.2〜0.3ml+生食2mlで吸入させる事が多い・・・です。(添付文書が最大1回0.3mgまで なんですよね・・・それ以上使うときは責任者の意見次第。自分が責任者になったら、0.3ml以上投与しますが)

吸入後30分のクループスコアの改善、入院期間の短縮が示されている。

通常は30分以内に症状が改善し2時間続く。なので、吸入を開始して呼吸状態を3-4時間観察するべき。投与は15-20分ごとに繰り返すことができ、2-3時間で3回以上投与する場合は心臓モニタリングしながら行う。

 

【家庭への帰宅】

下記基準を満たせば帰宅可能

・安静時の吸気性喘鳴がない、SPO2異常なし、チアノーゼなし、意識清明など

必ず24時間以内にフォローアップを行うこと。

【非典型的経過】

通常は36時間以内に退院可能である。通常は3日以内に症状が改善するが1週間まで続くこともある。期待する改善がない場合は、合併症の可能性を疑う。気管支肺炎の精査や頸部の軟部組織評価、耳鼻咽喉科へのコンサルトも考慮する。

【その他 合併症】気胸、肺水腫、肺気腫、気管支肺炎などの細菌二次感染

  

時間がない時の参考:日本語のクループ治療についてのブログ