小児総合診療医のひとりごと

小児科, 総合診療科(家庭医療), アレルギー についてのブログ

経口ステロイドの短期内服における副作用

成人の短期間の経口ステロイド内服に伴う有害事象について

 

Short term use of oral corticosteroids and related harms among adults in the United States: population based cohort study

BMJ 2017;357:j1415  (Published 12 April 2017)

 

目的:

経口ステロイドの短期使用における有害事象の頻度を調べる。

デザイン:

前向きコホート試験、症例対照試験

参加者:

2012-2014年にかけて18-64歳の成人を登録。

 

主要アウトカム:

経口ステロイドの短期投与率(30日未満)とした。コルチコステロイド使用者、非使用者における有害事象率。薬物開始後30日以内の有害事象率と31-90日後のリスク。

 

結果:

3年の観察期間内に、1548945人の成人のうち、327452(21.1%)に短期間の経口ステロイド投与を受けた。

最も頻回に使用されてのは、上気道炎・脊髄疾患・アレルギーであった。

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ステロイド処方は様々な専門医により処方された。薬剤開始30日以内では、敗血症(発生率皮5.30、95%C.I 3.80~7.41), 静脈血栓症 (3.33、95%C.I 2.78~3.99), 骨折 (1.87、95%C.I 1.69~2.07)の増加を認め、31-90日に減少した。これらのリスク増加は、プレドニン20mg/日未満でも認めた (発生率比:敗血症 4.02、静脈血栓症 3.61、骨折 1.83、全てP<0.001)。

 

結論:

保険に加入している欧米人の5人に1人が、3年間の観察期間中に、短期間のコルチコステロイドの投与を受け、短期間のステロイド投与(30日未満)は、有害事象のリスク増加に関連していた。

心不全の血管拡張薬の使い分け:硝酸薬かhANPか?

参考文献

・誰も教えてくれなかった 循環器薬の選び方と使い分け(2017/3/30発行)

 →読みやすい  分かりやすい名著

・レジデントノート増刊 Vol.14 No.14
循環器診療の疑問、これで納得!(2012年11月発行)

・レジデントノート 2016年10月号 Vol.18 No.10
心不全の診かた

 

急性心不全では、クリニカルシナリオ(CS)と呼ばれる収縮期血圧を指標とした分類による治療方針が用いられることが多くなり、CSの普及により従来利尿剤を使っていたところを血管拡張薬で加療することも多くなっている。

 

 

血管拡張薬の使い分け(硝酸薬かhANPか?)

主な血管拡張薬は、

硝酸薬(ニトログリセリン)、人遺伝子組み換えANP:hANP(カルペリチド)の2種類。

いずれも細胞内のcGMPを増加することで血管拡張作用を示す

 

血管拡張薬を用いる上で重要な点は以下3点

①前・後負荷:硝酸薬は前負荷>後負荷、hANPは前負荷=後負荷

②利尿作用:硝酸薬はほとんどなし、hANPは顕著にあり

③臓器保護作用:たぶんhANP>硝酸薬

急性心不全では後負荷(動脈系圧上昇)による心拍出量低下が病態形成に重要な影響を与える。利尿・臓器保護作用もカルペリチド(hANP)が優れているため、カルペリチド販売後は心不全の血管拡張薬治療はカルペリチドを第一選択とすることが多い。(実地臨床では、お金がない・院内採用がない・脱水傾向で顕著な利尿を避けたい場合以外カルペリチドを使用することが多い。)

 

なぜ硝酸薬とhANPで前負荷・後負荷に対する作用が異なるのか?

(血管を拡張させるメカニズム)

①前・後負荷:ニトログリセリンは前負荷>後負荷、hANPは前負荷=後負荷 はなぜ?

 

血管平滑筋の緊張は大きく2つの細胞内因子:CaとcGMPで規定される。

Ca:血管平滑筋を収縮、cGMP:血管平滑筋を弛緩 という効果がある。

両薬剤ともにcGMPを増やすことで血管拡張作用を発揮する。

<cGMP:GTPからグアニル酸シクラーゼと呼ぶ酵素(以下、GC)により産生>

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硝酸薬は、静脈中でより多くHb-NOから分離し、NOとなり作用を発揮する

上記の機序で

硝酸薬:静脈で血管拡張作用が強い(前負荷減少)

    動脈で血管拡張作用が弱い(後負荷減少が強くない)

hANP:静脈・動脈に同等に作用する(前・後負荷が減少)

 

hANPでなぜ利尿作用を示すか?

ANP(心房ナトリウム利尿ペプチド)の作用による。

ANPは心房筋が進展されると分泌され、子宮体の輸入細動脈を拡張、輸出細動脈は拡張せずに軽度収縮させる。糸球体濾過圧が上昇して原尿を増やす。

 

臓器保護作用:hANP>硝酸薬??

hANPは細胞質内GCに作用、硝酸薬は細胞膜GCに作用する。

細胞質内GCに作用する場合のみ、動物実験で心保護作用が認められた。

実地臨床では、hANPの臓器保護作用を証明する文献はまだない。多分いつか出ると思うが・・・、ちなみに下記の文献で全死亡 再入院は減ると報告。

 

hANPの文献:

PROTECT study

重症心不全患者49例のうち、低用量カルペリチド(0.01-0.05γ、72h)と非投与群を比較。

カルペリチド投与群で、血中ANPとcGMP濃度が有意に上昇し、カルペリチドが内因性ANPの作用を増強したことを示した。

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長期予後(18か月のフォロー期間中の全死亡および再入院)が、カルペリチド群では11.5%、非投与群で34.8%であった。短期予後不明。

急性期血行動態や心筋障害指標のトロポニン値、腎障害指標のCreに有意差なし。

 

 

 

 

 

ミタゾラム経鼻投与について(有効性、投与量、投与器具など)

小児てんかんのけいれん重積に対するmidazolam点鼻投与の有効性と薬物動態に関する検討

脳と発達 2010;42:34-36

 

背景:

小児けいれん重積に対するガイドラインが提案され、血管確保が困難な症例に対するミタゾラム鼻腔/口腔な投与が明記された。

目的:

小児てんかんのけいれん重積に対するミタゾラム点鼻投与の有効性と薬物動態を検討した。

方法:

けいれん重積発作の既往があり、ジアゼペム投与 (静脈もしくは坐薬) が無効であった症例を対象(年齢11か月~10歳、平均3.4歳、計14例)とした。

点鼻投与はドルミカム®を原液のまま必要量を片側鼻腔に半量ずつ鼻腔内に投与し、点鼻投与した10分、20分、60分後のミタゾラム血中濃度を測定した。

(投与量は0.1-0.3㎎/㎏を目安に、血管確保が困難な場合は追加投与を行った。)

 

結果:

MDL点鼻投与は有効性が高く (完全止痙 : 65%)、速効性 (平均5.7分;1~15分) があった。

 

今回の投与量 (平均0.26mg/kg) では呼吸抑制は認めず安全性が確認できた。(ミタゾラムの投与量は、0.11~0.9㎎/㎏で1例のみ血管確保に長時間を要し結果的に総投与量が0.9mg/㎏になった)

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経時的な濃度測定が可能であった症例では、10分以内に急速な血中濃度の上昇が認められた。 投与方法が簡単で安全に使用できるため、小児救急現場において有用な手段と考えられた。

 

鼻腔噴霧器具:

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ミタゾラム:

半減期は約1時間で、CYP3A4が関与する肝代謝、点鼻投与は鼻粘膜から直接体内循環に入り肝臓で初回通過効果がないため、速やかに血中濃度が上昇する。成人ボランティアでの比較では点鼻と静脈注射ではピークに達するまでの時間はほぼ同じである。点鼻による最高ミタゾラム濃度は、経静脈投与の約半分である。

セフェム系抗菌薬の少量持続内服は尿路感染症の再発抑制・予防効果があるのか?

多施設における小児初発尿路感染症の検討

(cefaclor の持続少量抗菌薬予防投与による再発抑制効果について)

日本小児腎臓病学会雑誌 Vol. 30(2017) No. 1 

 

背景:

有熱性尿路感染症(UTI)の再発は、腎瘢痕形成に寄与する可能性があるだけでなく、患児とその家族に大き な負担となる。そのため、従来、再発のリスクの高いと 思われる児に対しては、持続的少量抗菌薬予防投与 (continuous antibiotic prophylaxis: CAP)がすすめられてきた。多くは sulfamethoxazole-trimethoprim(ST 合剤) を用いており、本邦で頻用される cefaclor(CCL)についての検討は少ない。

 

目的:

3 施設の初発有熱性UTI症例における、CCL(ケフラール) のCAPによるUTI再発抑制効果を同定する。

方法:

2004年4月から2013年3月に昭和大学横浜市北部病院・同藤が丘病院・聖マリアンナ医科大学病院の各小児科に入院した初発有熱性UTI症例のうち、6 か月以上経過観察できた126例を対象とした。

CCLのCAPを行った群(CAP群)と行わなかった群(非CAP群) の2群にわけ、患者背景・再発の有無について検討した。 また排尿時膀胱尿道造影(VCUG)を施行した症例は、膀胱尿管逆流(VUR)の有無も合わせて検討した。

結果:

126例(CAP群52例、非CAP群74例)で、両群の患者背景に有意差はなく、CAP群で有意に再発が少なかった。

またVCUG を施行した114例(CAP群50例、非CAP群64例)のうち、VURがある症例では、CAP群で有意に再発が少なかった(12%vs67%,p<0.01)。 CCL の CAP により,UTI の再発を抑制できる可能性 がある。><0.01%)。

結論:

CCLのCAPにより、UTIを抑制できる可能性がある。

HERDOO2ルール、静脈血栓症の抗凝固療法の中止基準

非誘発性静脈血栓症の女性におけるHERDOO2ルールを用いた治療期間の検証

BMJ. 2017 Mar 17;356:j1065. doi: 10.1136/bmj.j1065.

 

【目的】

HERDOO2ルールを前向きに検証する。危険因子が0-1項目のみの女性であれば、短期間の治療後に抗凝固剤を安全に中止することができる。

危険因子:

  • いづれかの下肢に色素沈着、浮腫、発赤
  • Dダイマー≧250μg/ml
  • 肥満:BMI≧30
  • 年齢≧65歳

 

【方法】

前向きコホート研究、7カ国の二次/三次医療センター44施設で実施。

5~12ヶ月間の間、初回の非誘発性静脈血栓症(膝窩静脈より近位の静脈に新たに発生した血栓と、1区域よりも近位の動脈に新たに発生した肺塞栓を対象)に対して抗凝固療法を実施した2785人が対象とした。

HERDOO2ルール:0-1点の女性は、再発性VTEの低リスク群として抗凝固中止(介入群)、男性および高リスク群(2点以上)女性は、中止するかを患者と主治医の判断に任せる(観察群)とした。1年のフォローアップ期間中に再発した症候性VTEを主要評価項目とした。

【結果】

低リスク群631人(51.3%)のうち、

591人が経口抗凝固薬を中止した。追跡期間中に、経口凝固薬17人がVTEを再発、1年当たりの再発率は3.0%(95%信頼区間1.8-4.8%)だった。

高リスク群(2点以上の女性)と男性のうち、

抗凝固薬の使用を中止していた323人では、追跡期間中に25人がVTEの再発していた。再発率は1年当たり8.1%(5.2-11.9%)だった。抗凝固薬の使用を継続していた男女1802人では、追跡期間中のVTE再発は28人で、1年当たりの再発率は1.6%(1.1-2.3%)だった。

男女別では、、

抗凝固薬を中止していた高リスク女性の再発率は7.4%(3.0-15.3%)、男性の再発率は8.4%(5.0-13.2%)だった。

【結論】

非誘発性VTEを起こしたHERDOO2のスコアが1以下の女性は再発リスクが低く、一定期間の治療後に抗凝固薬を安全に中止できる。

NEJM :大理石骨病 (Osteopetrosis)

(NEJM IMAGES IN CLINICAL MEDICINE)

N Engl J Med 2017; 376:e34

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6歳の女の子。歯が1本しか生えず歯科医を受診。聴力障害、2歳で視力障害、前頭部隆起、高眼圧、低身長を有していた。

採血:Ca 5.7mg /dl(正常範囲:8.7~10.3mg/dl)、PとALPは正常。

診断は?

大理石骨病

 

CT:頭蓋骨のび漫性肥厚あり(パネルA、矢印)。

手首Xp:硬化帯と半透明帯が交互にあり(パネルB、矢印)。

 (大理石骨病の画所見:画像診断まとめ, 三角フラスコ変形:エルレンマイヤー・フラスコ変形)

 

骨密度の増加を特徴とする稀な遺伝子疾患。典型的には、遺伝子の突然変異が、破骨細胞機能の障害および骨吸収の障害をもたらす。

合併症:頭蓋神経圧迫、脆弱骨、骨髄不全

治療:カルシトリオールが開始、患者はインターフェロンγ-1b療法も投与を薦めている。

 

【大理石病の日本語概説】

大理石病の概要:難病情報センター

小児慢性特定疾患センター

 

【骨病理の比較】
          Ca   P   AlP  PTH  コメント
骨粗鬆症     正常  正常  正常  多様  骨量の減少
大理石骨病    正常  正常   上昇   正常  分厚い濃い骨
骨軟化症(くる病) 減少  減少  多様  上昇  柔らかい骨
嚢胞線維性骨炎 上昇  減少  上昇   上昇  褐色腫瘍
Paget 骨病   正常  正常  多様   正常  異常な骨構造

【鑑別診断】
 高ビタミンD症, 副甲状腺機能低下症, Paget 病, 乳癌または前立腺癌のびまん性骨転移, フッ素, 鉛, ベリリウム中毒, 骨髄線維症, 鎌状赤血球症, 白血病

 

再生不良性貧血とPNH血球(CD59-、CD55-)

Minor population of CD55-CD59- blood cells predicts response to immunosuppressive therapy and prognosis in patients with aplastic anemia

【目的】

後天性再生不良性貧血患者におけるPNH血球の臨床的意義を研究

【方法】

再生不良性貧血と診断された122人の末梢血CD59-,CD55-の顆粒球・赤血球数(PNH型血球)を定量し、免疫抑制療法の反応性とPNH血球数の関係を調べた。

【結果】

フローサイトメトリーで、0.005~23.1%にGPI膜タンパク欠損を認めた再生不良性貧血の患者は68%であった。そのうち、顆粒球と赤血球療法にPNH型血球を認めたのは83%、顆粒球のみ15%、赤血球のみ2%であった。

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抗胸腺細胞グロブリン(ATG)+ シクロスポリン(CsA)療法に反応して、PNH血球陽性患者では91%でPNH型血球が増加した。PNH血球陰性患者では48%であった。

 

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PNH 血球陽性患者では5年間でPNH患者(12%)よりも有意に高い無治療失敗生存率(64%)が得られ、全生存率は群間で同等であった。

PNH型および正常型血球の数は、免疫抑制療法に応答し、PNH血球陽性患者で平行して増加し、これらの血球は免疫治療に対して同等に感受性であると思われた。

これらの結果は、PNH型血球が再生不良性貧血患者で、免疫抑制療法に対する反応性および良好な予後を予測するマーカーであることを示している。さらに、PNHクローン増殖を可能にする造血幹細胞に対する免疫攻撃は、再生不良性貧血の発症時にのみ起こり得る。

(PNH型赤血球は健常人でも0.1%で検出される。)

超音波検査(体表エコー)は壊死性筋膜炎の鑑別に有用か?

 

Ultrasonographic screening of clinically-suspected necrotizing fasciitis

Acad Emerg Med 2002 Dec;9(12):1448-51.

 壊死性筋膜炎の超音波検査の有用性について

【目的】

壊死性筋膜炎における超音波検査の精度を決定する。

【方法】

前向き観察研究、対象は1996年から1998年に救急外来を受診した四肢の壊死性筋膜炎疑い患者。全患者に超音波検査を実施。

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壊死性筋膜炎の超音波診断基準:対側と比較して「deep fascial layer:深部筋膜層に、深さ4㎜以上の液体貯留があり皮下組織にびまん性の肥厚を認める」場合とした。最終的な診断は、壊死性筋膜炎の病理学的検査によって決定した。

 

【結果】

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62名の患者についてデータを収集。そのうち17名(27.4%)は壊死性筋膜炎であった(他は、39人が蜂窩織炎・4人が深部静脈血栓症、2人が筋炎)。

超音波検査の感度:88.2%、特異度:93.3%、陽性的中率:83.3%、陰性的中率:95.4%だった。壊死性筋膜炎の診断精度は91.9%であった。

【結論】

超音波検査は筋膜炎診断に有用である。→研究限界:台湾の1施設研究、対象は四肢の壊死性筋膜炎のみ。

 

Diagnosis of Necrotizing Faciitis with Bedside Ultrasound: the STAFF Exam

West J Emerg Med. 2014;15(1):111–113.

壊死性筋膜炎における超音波検査のポイント:STAFF

壊死性筋膜炎の初期段階は、蜂巣炎および丹毒などの軟部組織感染と臨床的に区別がつかず、早期診断が困難になる。CTやMRIは時間がかかる(場合によってはすぐ利用できない)。皮下の肥厚(subcutaneous thickening)、空気(air)、および筋内の液体貯留(fascial fluid)、略してSTAFFをベッドサイドで評価し、迅速に診断された壊死性筋膜炎の1例を経験した。ただし、十分な感度がないため診断の除外はできない。

 

Cellulitis, A Review

JAMA July 19, 2016 Volume 316, Number 3

蜂窩織炎の画像検査に関して:抜粋

壊死性筋膜炎の初期段階は、蜂巣炎および丹毒などの軟部組織感染と臨床的に区別がつかず、早期診断が困難になる。CTやMRIは時間がかかる(場合によってはすぐ利用できない)。

超音波検査は、蜂窩織炎の診断のためではなく膿瘍などドレナージが必要な液体貯留などの重症感染の区別に役立つ。

骨髄炎も蜂窩織炎に合併するので必要があればMRI/CTを行う。

MRIやCTは壊死性筋膜炎と化膿性筋炎の鑑別にも役立つ。

壊死性筋膜炎におけるCTの陰性的中率は100%、陽性的中率は76%で壊死性筋膜炎のうちCTでガス像を認めたのは36%であった。

蜂窩織炎深部静脈血栓症の低リスク(発生率:3.1%)、圧迫超音波検査は蜂窩織炎において深部静脈血栓症のRule outするためのCommonな検査である。ただし臨床的に強く疑われなければRoutineで行う必要はない。

Up to date:クループ症候群のマネージメント

クループ症候群のマネージメント

Up to date

『Croup: Approach to management』

Literature review: Mar 2017.

 

大切なところだけ抜粋

 

【はじめに】

クループは、吸気性喘鳴、犬吠様咳嗽、嗄声を特徴とした呼吸器疾患である。

典型的には6か月から3歳までに起こり、主にパラインフルエンザウイルスに起因する。

クループを起こすウイルスに特別な治療法はない。

薬物治療は、気道浮腫を軽減するするために行われる。

コルチコステロイドやエピネフリン吸入が治療の基本である。

 

【電話による取り分け】

医師の診察が必要かを評価する。

医師評価が必要な状態は下記。下記がなければ自宅管理可。

・安静時の吸気性喘鳴

・急速な進行(Ex:12h以内に上気道閉塞症状がある)

・口腔内唾液を流す

・気道異常の既往(Ex:声門下狭窄、声門下血管腫、挿管既往など)

・中~重症のクループ既往

・呼吸不全になりやすい(Ex:神経筋障害、気管支肺形性異常)

・親が安心できない

・長期症状(3-7日以上)、クループと思えない非典型的な症状を有する

 

クループ重症度スコア】

Westlyクループスコア:

喘鳴 なし:0点,聴診すると聞こえる:1点,聴診器なしでも聞こえる:2点
陥没呼吸 なし:0点,軽度:1点,中等度:2点,高度:3点
空気の入り 正常:0点,低下:1点,極度の低下:2点
チアノーゼ なし:0点,興奮するとあり:1点,:安静時もあり:2点
意識状態 正常:0点,異常(混乱、興奮):5点

2点以下:軽症 3-6点:中等症 7点以上:重症

軽症のクループ:Westlyスコア2点以下、安静時の吸気性喘鳴がない(泣いている時はある)、犬咳様咳嗽、嗄声、陥没呼吸がない。

 

【家庭での治療】

ミスト療法、解熱療法、経口水分摂取

ミスト療法:シャワーから温水を流して発生させた上記を吸わせる。

 →クループスコアをわずかに改善、子供と親に安心感を与える可能性あり(1)

軽症クループは、夜寒い空気を吸わせると改善することもある。

 

【外来治療】

不安の増加は、クループを悪化させうるので注意。

軽症

経口デキサメタゾン(0.15-0.6㎎/㎏、最大10㎎)単回投与。

*ただし、日本ではデカドロンエリキシル1.5ml/㎏を分1、Evidenceは?ですが分2で内服させる先生も多い・・です。

軽症クループに対するRCTで経口デキサメタゾン単回投与が、再受診の低下・症状持続期間の短縮。睡眠の改善。親のストレス軽減することが示された(2) (3)

通常、エピネフリン吸入は必要ない。

 

中等症~重症

・加湿、解熱剤投与、水分摂取、酸素投与なども必要である。

デキサメタゾン経口内服(0.6㎎/㎏単回、最大10㎎)の投与を推奨する。

*ただし、日本ではデカドロンエリキシル1.5ml/㎏を分1-2で内服させる事が多い・・・です。経口摂取が不可なら、経静脈的投与を行う。

中等症から重症に投与した場合、治療後6時間のクループスコアの改善、再受診・再入院の減少、病院滞在期間の短縮が示されている(4)

ステロイド反復投与は、日常的に必要ではなく副作用を増やす可能性がある。

クループに対する24時間以上のステロイド投与を支持するStudyはない。漫然と反復投与するのではなく、中等症以上が持続する場合は、気道閉塞の他の原因を考える。

プレドニゾロンデキサメタゾン代替療法として、経口プレドニゾロン(2mg/kg/日 3日間)の代替効果を示唆する文献あり

*デカドロンエリキシル0.01% 1ml中にデカドロン0.1㎎含有

 

エピネフリン吸入

L-エピネフリンを1:1000希釈の容量→(商品名:ボスミン外用液0.1%→ 1mlに1mg含有)を0.5ml/㎏(MAX:5ml)として投与する(15分間投与)

*ただし、施設間で差はあるが、日本ではボスミン外溶液0.1%を1回0.2〜0.3ml+生食2mlで吸入させる事が多い・・・です。(添付文書が最大1回0.3mgまで なんですよね・・・それ以上使うときは責任者の意見次第。自分が責任者になったら、0.3ml以上投与しますが)

吸入後30分のクループスコアの改善、入院期間の短縮が示されている。

通常は30分以内に症状が改善し2時間続く。なので、吸入を開始して呼吸状態を3-4時間観察するべき。投与は15-20分ごとに繰り返すことができ、2-3時間で3回以上投与する場合は心臓モニタリングしながら行う。

 

【家庭への帰宅】

下記基準を満たせば帰宅可能

・安静時の吸気性喘鳴がない、SPO2異常なし、チアノーゼなし、意識清明など

必ず24時間以内にフォローアップを行うこと。

【非典型的経過】

通常は36時間以内に退院可能である。通常は3日以内に症状が改善するが1週間まで続くこともある。期待する改善がない場合は、合併症の可能性を疑う。気管支肺炎の精査や頸部の軟部組織評価、耳鼻咽喉科へのコンサルトも考慮する。

【その他 合併症】気胸、肺水腫、肺気腫、気管支肺炎などの細菌二次感染

  

時間がない時の参考:日本語のクループ治療についてのブログ

 

虫垂炎の手術をすべきか?薬物療法でもよいのか?

Efficacy and Safety of Nonoperative Treatment for Acute Appendicitis: A Meta-analysis

 Pediatrics.  2017, Mar, 139(3)

【背景

虫垂切除術の代替治療として、小児における急性単純虫垂炎抗生物質単独による非手術療法(Nonoperative treatment:NOT)が提案されている。

【目的】

既存文献に基づいて非手術療法の安全性と有効性を判断する。

【研究対象】

子供のAUAでないと報告しているすべての記事。

【結果】

10文献で、非手術療法を受けた413人の子供を報告されていた。RCT1文献を含む6文献で虫垂切除術を受けた小児と比較していた。

97%の小児において、非手術療法は初期治療として有効だった(95%信頼区間:96%~99%)。虫垂切除術を受けた小児では、病院滞在の長さは、非手術療法と比較して短かった(平均:0.5日、95%信頼区間:0.2~0.8、P=0.02)。

フォローアップの最終報告(期間8週~4年)では、非手術療法の82%(95%信頼区間:77%~87%)では虫垂切除術が必要なく効果的であった。

再発性虫垂炎は14%(95%信頼区間:7%~21%)で発生した。合併症および合計入院期間のは、非手術療法と虫垂切除術で同等であった。

 

研究の限界:前向き無作為試験ではない。

【結論】データから、非手術療法は安全であると示された。

これは、急性単純虫垂炎の97%において初期治療として有効と考えられ、虫垂炎再発率は14%であった。

長期的な臨床転帰および非手術療法の費用対効果は、大規模な無作為試験でさらに評価する必要がある。

血清クレアチニン濃度が上昇したらACE阻害薬、ARBは中止すべきか?

Serum creatinine elevation after renin-angiotensin system blockade and long term cardiorenal risks: cohort study.

BMJ 2017;356:j791 | doi: 10.1136/bmj.j791

 

【目的】

ACE阻害薬またはARB治療開始後の血清クレアチニン濃度上昇と長期的な心腎転帰を検討する。

【方法】

1997~2014年における英国のClinical Practice Research DatalinkおよびHospital Episode Statisticsの記録を用いたコホート研究。ACE阻害剤またはARBによる治療を開始した122363人が対象。

治療開始後に30%以上のクレアチニン増加を有する患者およびクレアチニン増加が30%未満の患者において、末期腎疾患、心筋梗塞心不全、死亡率を比較した。クレアチニン増加10%ごとの累積死亡率も比較した。

【結果】

クレアチニンが30%以上増加した2078人(1.7%)のうち、女性、高齢者、心腎疾患、および非ステロイド性抗炎症薬、ループ利尿薬、カリウム保存利尿薬を使用していた人の割合が高かった。

クレアチニンの30%以上増加は、30%未満の増加に比べて、全アウトカム(末期腎不全、心筋梗塞心不全、死亡)で調整発生率比が上昇した;末期腎不全3.43 (95% confidence interval 2.40 to 4.91)、心筋梗塞1.46 (1.16 to 1.84)、心不全1.37 (1.14 to 1.65)、死亡1.84 (1.65 to 2.05)。

 

 Figure:

Cumulative mortality according to levels of creatinine increase after renin-angiotensin system blockade

Figure2

クレアチニン濃度の増加に関する分類(Cre:10%未満、10-19%、20-29%、30-39%、40%以上)で、全アウトカムにおいてクレアチニンが増加するほど累積死亡率の増加を認めた。

 

Figure:

Cardiorenal risks associated with levels of creatinine increase after renin-angiotensin system blockade

Figure3

クレアチニン30%以内の増加例は、全有害心腎転帰(末期腎不全、心筋梗塞心不全、死亡)の発生率比増加と関連していた。

死亡はCre:10%未満を基準とすると、Cre:10~19%増加で1.15 (1.09 to 1.22)、Cre:20-29%増加で1.35 (1.23 to 1.49)であった。

【結論】

ACE阻害剤または治療開始後のクレアチニン増加は、ガイドラインで推奨される治療中止基準である治療開始後Cre:30%増加 を下回っていても、有害心腎転帰と段階的に関連した。

 

クレアチニン上昇群は高齢・心腎疾患の割合が高いので、中止すべきか?に関してはガイドラインに従って中止を検討し今後の研究次第で変わってくるのではないだろうか?

PCT高値は菌血症の診断に役立つか?

菌血症診断におけるプロカルシトニンの有効性の検討

日集中医誌 2017;24:115-20

【目的】菌血症におけるプロカルシトニン(procalcitonin, PCT)の初期診断での有用性について、後方視的に解析した。

【方法】2012年11月から2013年6月までの8ヶ月間において当院で血液培養検査が陽性となりPCTが測定されていた132例を調査対象とし、菌血症群と擬陽性群(コンタミ)に分け、検出菌・PCTおよびC反応性蛋白(CRP)との関連性を評価した。

【結果】感染症専門医により、菌血症102例,contamination(擬陽性)30例と判断された。菌血症と擬陽性でPCT(ng/ml)とCRP(mg/dl)の中央値は、それぞれ2.8と0.3,13.2と7.0であり、菌血症で有意に高かった(P<0.001,P=0.020)。

ROC-AUC(receiver operating characteristic-area under the curve)(95%CI)は、PCT 0.76(0.65~0.86),CRP 0.64(0.52~0.76)で2つのマーカー間に有意差はなかった。

一方、菌血症の原因菌別でグラム陽性菌(n=48)とグラム陰性菌(n=54)のPCTは、それぞれ2.1と3.7で有意差を認めなかった(P=0.123)。

【結論】PCTはCRPと比較して真の菌血症と擬陽性の鑑別に役立つと評価された。しかし、菌血症におけるグラム陽性菌グラム陰性菌を鑑別できるものではなかった。ROC-AUC解析ではPCTとCRPは共に菌血症として有用なマーカーであると評価された。

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PCTとCRPは菌血症群で有意に高い。

GP菌血症とGN菌血症で、CRPはGN菌血症群で有意に高い。PCTは両群で有意差なし。

PCTは

 カットオフ値 0.5ng/ml ⇒感度:79%、特異度:57%

 カットオフ値 1.0ng/ml ⇒感度:74%、特異度:73%

 カットオフ値 2.0ng/ml ⇒感度:62%、特異度:80%

で明確なカットオフ値は示せなかった。

クループの治療(ステロイド吸入・内服併用に意味はあるのか?ステロイド投与量で効果に違いはあるのか?)

ステロイド吸入単体・内服単体・吸入内服併用に効果の差があるか?』

結論→ステロイド単剤・ステロイド吸入・両者の併用療法の効果に有意差なし

Nebulized budesonide and oral dexamethasone for treatment of croup: a randomized controlled trial.

JAMA. 1998; 279:1629-1632.

 

クループに対して、グルココルチコイド内服とステロイド吸入の同時投与が有効かどうかを調べた無作為化比較試験(古い文献:1998年)。

 

3〜5歳のCroup症例を、加湿療法の少なくとも15分後にクループスコア2以上有する子供を3グループに分けステロイド治療を行った。

3グループ:

  1. 経口デキサメタゾン0.6mg/kg、+プラセボ吸入
  2. 経口プラセボ+ブデソニド吸入2mg
  3. 経口デキサメタゾン0.6mg / kg、+ブデソニド吸入2mg

3グループの病院の入院率、医師の勤務時間、救急部への再受診、1週間後に残存する症状(クループスコア)を調べた。

クループスコア(Westley):

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結果:

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Table1:

3グループの集団差なし。救急部受診時クループスコアは3グループ間でほぼ同等(3.5~3.8)。

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Table2:

3グループでクループスコアの改善度に有意差なく、いづれも同等に症状を改善する。

治療

クループスコアの平均改善点数

経口デキサメタゾン0.6mg/kg、+プラセボ吸入

2.3 (2.0~2.6)

経口プラセボ+ブデソニド吸入2mg

2.3 (2.2~2.6)

経口デキサメタゾン0.6mg/kg+ブデソニド吸入2mg

2.5 (2.1~2.7)

 

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Table3:

1週間後のクループによる症状も3グループで有意差なし。

結論:3グループはいずれも同様の結果であった。

 

 

ステロイド投与量で効果に違いはあるのか?』

Oral Dexamethasone in the Treatment of Croup:0.15mg/kg Versus 0.3mg/kg Versus 0.6mg/kg

Pediatric Pulmonology 1995; 20:362-368.

結論→デキサメタゾン0.15㎎/㎏、0.3㎎/㎏、0.6㎎/㎏単回内服のクループスコアの改善に有意な差はない。

 

二重盲検無作為化対照臨床試験

中等症クループで入院した小児における経口デキサメタゾンの単回投与の有効性を比較した

デキサメタゾン投与量は0.15㎎/㎏、0.3㎎/㎏、0.6㎎/㎏とした。

クループで入院した120人の子供(年齢範囲6〜160ヵ月)が参加。

各試験における2つの群に分けた。

トライアルA群:60人、0.3または0.6mg/kgのデキサメタゾンシロップを投与した。

トライアルB群:60人、0.15または0.6mg/kgのデキサメタゾンシロップを投与した。

アドレナリン吸入併用は、重症のStridorやクループスコア5-6点の症例に用いた。

クループスコア:

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結果:

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入院期間の中央値は、トライアルA/ Bで同等である(A:7hおよび8h、B:9hと9h)。アドレナリン吸入、集中治療を受けた患者数、クループ再発による再受診率、退院後の再入院率は、いずれも同等であった。

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治療後のCroupスコアの改善はグループ間で有意な差がなく、全てのグループで初期スコアよりも有意に低い。

デキサメタゾンの経口投与は、症状を緩和するために0.15mg/kgの用量で0.3または0.6mg / kgと同等に効果的と結論づけた。

 

重症例に関して:

A randomized comparison of dexamethasone 0.15 mg/kg versus 0.6 mg/kg for the treatment of moderate to severe croup.

Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2007; 71(3):473-7.

中等度〜重度のクループの治療には、デキサメタゾン単回投与0.15mg/kgと0.6mg kgが同等に有効である。

デキサメタゾン注射の0,1,2,3,4,6,8,10および12時間後にクループスコアを測定

⇒注射の1時間後よりクループスコアは有意に低下した。2つのグループ間の平均クループスコアは、全ての測定時間で差がなかった。0.15mg/kgと0.6mg kgの両群でクループスコアが2以下になるのは0.6㎎/㎏:8時間および0.15㎎/㎏:7.9時間であった。

いずれの群においてもデキサメタゾン治療からの重大な副作用はなかった。

 

時間がない急性心筋梗塞の対処(初期評価、検査、診断、治療)

短くまとめた急性心筋梗塞の対処まとめ(診断、治療)

院内勉強会の内容を整理

ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)より一部引用

 

1 発症から病院まで

 急性冠症候群が疑われる患者にニトロ投与を指示

(ニトロペン0.3㎎1錠舌下、ミオコールスプレー 1Puff)

5分後も症状が持続するなら救急要請を考慮

2 初期評価

・Vital sign測定、ショック症状・低酸素・不整脈の覚知

・発症時間、随伴症状、冠機関因子、身体所見(Killip分類)

クラス I

ポンプ失調なし

肺野にラ音なく, III音を聴取 しない

クラス II

軽度~中等度の心不全

全肺野の50%未満の範囲でラ音を聴取あるいはIII音を 聴取する

クラス III

 重症心不全,肺水腫

全肺野の50%以上の範囲でラ音を聴取する

クラス IV

 心原性ショック

血圧90mmHg未満,尿量減少,チアノーゼ,冷たく湿った皮膚,意識障害を伴う 


・すぐに心臓血管カテーテルを行う場合:造影剤使用歴、アレルギー歴、心カテ歴

 

上記と同時に12誘導心電図(心筋梗塞疑いなら右側胸部誘導も)

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・次に血液検査、心臓超音波検査へ進むが、ある時点で急性心筋梗塞と診断できればそれ以上の追加検査は必須ではない(高次医療機関への搬送を優先する)

・ポータブルレントゲン(臥位)は必須。大動脈解離のスクリーニング(縦隔拡大の有無)のため。血圧左右差・移動する痛みなど大動脈解離が疑われる場合はCTへ。

・トロポニンは心不全・腎障害で擬陽性もありうる。

・CK-MB>CKの10% は心筋虚血がほとんどだが、CK-MB割合の高度上昇は悪性腫瘍等に起因する擬陽性もありうる。

・超急性期はWBC上昇のみのことも多い。トロポニン上昇や心電図変化がはっきりしなくても、疑わしい胸部症状+複数の冠危険因子+心臓超音波検査での軽度壁運動障害 等で心臓血管カテーテル検査となるケースもある。

・発症からの経過時間別に見た各心筋バイオマーカーf:id:drtasu0805:20170412020124p:plain

・症状が改善し有意な所見もなく、観察する場合は3-4時間後にトロポニン/CK/CK-MBを再検査する。陽性となる場合は急性冠症候群 ⇒高次医療機関へ搬送。

 

3 初期治療

・絶対安静(基本は臥床。うっ血が強ければギャッジアップ可能)

・左上肢にルートキープ(右橈骨動脈は心臓血管カテーテル検査で用いる)

・可能なら膀胱カテーテル留置

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レントゲン上、うっ血が疑われれば、SPO2:95%以上でも少量投与しておく。(血中酸素分圧が保たれていても虚血心筋は酸素欠乏のため。PaO2が上がりすぎないように酸素化が良ければ少量にとどめる。)

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心電図施行時に、投与を考慮(前後の評価が可能なため)。重症冠攣縮による心筋梗塞の可能性もあるため可能なら使用する。右室梗塞では前負荷低下により循環動態が悪化するため、カ壁誘導ST上昇や徐脈・ブロックがあるときは控えてもよい。

(右室梗塞時は、大量輸液+ドブタミン)

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疼痛による心筋酸素消費量の増大予防。前負荷・後負荷の減少により肺水腫にも効果あり。

モルヒネ10㎎(1A)/生食10mlを1-2mlずつフラッシュする。

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アスピリン定期内服がなければ投与。バイアスピリン100㎎ 2錠を噛んで内服。

PPIもあれば一緒に内服させる)

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プラビックスはCABGとなった場合に出血の問題があるため指示がない限りは投与しない。

 

時間

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に余裕があれば投与。(冷所保存ですぐに出てこない)

シグマート48㎎/生食48mlとし、血圧をみながら2-6ml/hで開始。

 

4 搬送 準備薬剤

■心原性ショック

 うっ血が強くなければ、まず細胞外液負荷。

 ショックが持続するなら、第一選択にノルアドレナリンを考慮

不整脈が少ない、生存率が低下しない)

ノルアドレナリン1A+生食19mlで1-2mlずつフラッシュ Or

 3A+生食97ml 5ml/h(50㎏で0.05γ、20ml/hまで)で投与開始。

徐脈や右室梗塞ではドブタミン考慮。

 ドブタミン原液200ml 3ml/h(50㎏で3γ、10ml/hまで)で開始。 

 NA/DOBを使い慣れてなければ、ドパミンを考慮。

 

■洞性徐脈

洞性徐脈による意識状態の悪化・失神・持続する 胸痛・呼吸困難やショックを認めた場合は、アトロピン0.5 mg急速静注を5分ごとに全3 mgまで投与し、効果がなければア ドレナリン(2~10μg/分)もしくはドパミン(2~10μ g/kg/分)を投与するが、まず経皮ペーシングを考慮してもよい。

 

経皮ペーシング:

 使い捨てパッドをつける⇒デマンド⇒40~60bpm⇒ペーシング強度を0mAに設定しスタート⇒ペーシング強度を適切な値まで上げていく(大腿動脈が触れるまで)。

鎮痛・鎮静が必要。

 

■房室ブロック

症候性房室ブロックの治療として、経皮ペーシングあるいはアトロピン投与が推奨される。

第3度(完全)房室ブロックでQRS幅の広い補充調律を伴う場合には、アトロピンの効果は期待できないため、経皮ペーシングもしくはアド レナリン(2~10μg/分)もしくはドパミン(2~10μg/ kg/分)の投与を考慮する。

3度(完全)房室ブロックでは、症状の有無にかかわらず可及的速やかに治療が必要である。アトロピンの効果は期待できないため、経皮ペーシングもしくはアドレナリン(2~10μg/分)もしくはドパミン(2~10μg/ kg/分、3-5γで開始)の投与を考慮する。

 

心室細動、無脈性心室頻拍

電気ショック、心肺蘇生、そして血管収縮薬に反応しないVF・無脈性 VT に対しては、

アミオダロン300mgまたは5 mg/kg投与を考慮し、その後再度電気ショックを行う。

 

アミオダロン塩酸塩:300㎎(6ml)または5㎎/㎏を5%ブドウ糖液20mlに加え、静脈内へボーラス投与する。

心室不整脈が続く場合は、150㎎(3ml)または2.5㎎/㎏を5%ブドウ糖液10mlに加え、追加投与することができる。

 

 

・多形性持続性VTに対して

非同期下電気ショックを 行う。

(初回二相性なら推奨エネルギー〈120~200 J〉、単相性なら360 Jに設定する。)

・単形性持続性VTに対して

狭心症、肺水腫、あるいは低血圧(血圧<90 mmHg)を伴う場合、可能であれば鎮静下にて同期下電気ショックを行う。

(単相性、二相性いずれも100 J から。頻拍が停止しない場合は出力を上げる)

 

wide-QRS tachycardiaで最も多いのはVTであるが、変行伝導あるいは脚ブロックを伴った上室頻拍もwide-QRS tachycardiaを呈し、心筋梗塞後の心電図変化によってさらに上室頻拍とVTとの鑑別は困難である。そのため心室 頻拍と明らかに否定できない場合には、心室頻拍として治療にあたる。