小児総合診療医のひとりごと

小児科, 総合診療科(家庭医療), アレルギー についてのブログ

クループの治療(ステロイド吸入・内服併用に意味はあるのか?ステロイド投与量で効果に違いはあるのか?)

ステロイド吸入単体・内服単体・吸入内服併用に効果の差があるか?』

結論→ステロイド単剤・ステロイド吸入・両者の併用療法の効果に有意差なし

Nebulized budesonide and oral dexamethasone for treatment of croup: a randomized controlled trial.

JAMA. 1998; 279:1629-1632.

 

クループに対して、グルココルチコイド内服とステロイド吸入の同時投与が有効かどうかを調べた無作為化比較試験(古い文献:1998年)。

 

3〜5歳のCroup症例を、加湿療法の少なくとも15分後にクループスコア2以上有する子供を3グループに分けステロイド治療を行った。

3グループ:

  1. 経口デキサメタゾン0.6mg/kg、+プラセボ吸入
  2. 経口プラセボ+ブデソニド吸入2mg
  3. 経口デキサメタゾン0.6mg / kg、+ブデソニド吸入2mg

3グループの病院の入院率、医師の勤務時間、救急部への再受診、1週間後に残存する症状(クループスコア)を調べた。

クループスコア(Westley):

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結果:

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Table1:

3グループの集団差なし。救急部受診時クループスコアは3グループ間でほぼ同等(3.5~3.8)。

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Table2:

3グループでクループスコアの改善度に有意差なく、いづれも同等に症状を改善する。

治療

クループスコアの平均改善点数

経口デキサメタゾン0.6mg/kg、+プラセボ吸入

2.3 (2.0~2.6)

経口プラセボ+ブデソニド吸入2mg

2.3 (2.2~2.6)

経口デキサメタゾン0.6mg/kg+ブデソニド吸入2mg

2.5 (2.1~2.7)

 

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Table3:

1週間後のクループによる症状も3グループで有意差なし。

結論:3グループはいずれも同様の結果であった。

 

 

ステロイド投与量で効果に違いはあるのか?』

Oral Dexamethasone in the Treatment of Croup:0.15mg/kg Versus 0.3mg/kg Versus 0.6mg/kg

Pediatric Pulmonology 1995; 20:362-368.

結論→デキサメタゾン0.15㎎/㎏、0.3㎎/㎏、0.6㎎/㎏単回内服のクループスコアの改善に有意な差はない。

 

二重盲検無作為化対照臨床試験

中等症クループで入院した小児における経口デキサメタゾンの単回投与の有効性を比較した

デキサメタゾン投与量は0.15㎎/㎏、0.3㎎/㎏、0.6㎎/㎏とした。

クループで入院した120人の子供(年齢範囲6〜160ヵ月)が参加。

各試験における2つの群に分けた。

トライアルA群:60人、0.3または0.6mg/kgのデキサメタゾンシロップを投与した。

トライアルB群:60人、0.15または0.6mg/kgのデキサメタゾンシロップを投与した。

アドレナリン吸入併用は、重症のStridorやクループスコア5-6点の症例に用いた。

クループスコア:

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結果:

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入院期間の中央値は、トライアルA/ Bで同等である(A:7hおよび8h、B:9hと9h)。アドレナリン吸入、集中治療を受けた患者数、クループ再発による再受診率、退院後の再入院率は、いずれも同等であった。

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治療後のCroupスコアの改善はグループ間で有意な差がなく、全てのグループで初期スコアよりも有意に低い。

デキサメタゾンの経口投与は、症状を緩和するために0.15mg/kgの用量で0.3または0.6mg / kgと同等に効果的と結論づけた。

 

重症例に関して:

A randomized comparison of dexamethasone 0.15 mg/kg versus 0.6 mg/kg for the treatment of moderate to severe croup.

Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2007; 71(3):473-7.

中等度〜重度のクループの治療には、デキサメタゾン単回投与0.15mg/kgと0.6mg kgが同等に有効である。

デキサメタゾン注射の0,1,2,3,4,6,8,10および12時間後にクループスコアを測定

⇒注射の1時間後よりクループスコアは有意に低下した。2つのグループ間の平均クループスコアは、全ての測定時間で差がなかった。0.15mg/kgと0.6mg kgの両群でクループスコアが2以下になるのは0.6㎎/㎏:8時間および0.15㎎/㎏:7.9時間であった。

いずれの群においてもデキサメタゾン治療からの重大な副作用はなかった。

 

時間がない急性心筋梗塞の対処(初期評価、検査、診断、治療)

短くまとめた急性心筋梗塞の対処まとめ(診断、治療)

院内勉強会の内容を整理

ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)より一部引用

 

1 発症から病院まで

 急性冠症候群が疑われる患者にニトロ投与を指示

(ニトロペン0.3㎎1錠舌下、ミオコールスプレー 1Puff)

5分後も症状が持続するなら救急要請を考慮

2 初期評価

・Vital sign測定、ショック症状・低酸素・不整脈の覚知

・発症時間、随伴症状、冠機関因子、身体所見(Killip分類)

クラス I

ポンプ失調なし

肺野にラ音なく, III音を聴取 しない

クラス II

軽度~中等度の心不全

全肺野の50%未満の範囲でラ音を聴取あるいはIII音を 聴取する

クラス III

 重症心不全,肺水腫

全肺野の50%以上の範囲でラ音を聴取する

クラス IV

 心原性ショック

血圧90mmHg未満,尿量減少,チアノーゼ,冷たく湿った皮膚,意識障害を伴う 


・すぐに心臓血管カテーテルを行う場合:造影剤使用歴、アレルギー歴、心カテ歴

 

上記と同時に12誘導心電図(心筋梗塞疑いなら右側胸部誘導も)

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・次に血液検査、心臓超音波検査へ進むが、ある時点で急性心筋梗塞と診断できればそれ以上の追加検査は必須ではない(高次医療機関への搬送を優先する)

・ポータブルレントゲン(臥位)は必須。大動脈解離のスクリーニング(縦隔拡大の有無)のため。血圧左右差・移動する痛みなど大動脈解離が疑われる場合はCTへ。

・トロポニンは心不全・腎障害で擬陽性もありうる。

・CK-MB>CKの10% は心筋虚血がほとんどだが、CK-MB割合の高度上昇は悪性腫瘍等に起因する擬陽性もありうる。

・超急性期はWBC上昇のみのことも多い。トロポニン上昇や心電図変化がはっきりしなくても、疑わしい胸部症状+複数の冠危険因子+心臓超音波検査での軽度壁運動障害 等で心臓血管カテーテル検査となるケースもある。

・発症からの経過時間別に見た各心筋バイオマーカーf:id:drtasu0805:20170412020124p:plain

・症状が改善し有意な所見もなく、観察する場合は3-4時間後にトロポニン/CK/CK-MBを再検査する。陽性となる場合は急性冠症候群 ⇒高次医療機関へ搬送。

 

3 初期治療

・絶対安静(基本は臥床。うっ血が強ければギャッジアップ可能)

・左上肢にルートキープ(右橈骨動脈は心臓血管カテーテル検査で用いる)

・可能なら膀胱カテーテル留置

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レントゲン上、うっ血が疑われれば、SPO2:95%以上でも少量投与しておく。(血中酸素分圧が保たれていても虚血心筋は酸素欠乏のため。PaO2が上がりすぎないように酸素化が良ければ少量にとどめる。)

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心電図施行時に、投与を考慮(前後の評価が可能なため)。重症冠攣縮による心筋梗塞の可能性もあるため可能なら使用する。右室梗塞では前負荷低下により循環動態が悪化するため、カ壁誘導ST上昇や徐脈・ブロックがあるときは控えてもよい。

(右室梗塞時は、大量輸液+ドブタミン)

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疼痛による心筋酸素消費量の増大予防。前負荷・後負荷の減少により肺水腫にも効果あり。

モルヒネ10㎎(1A)/生食10mlを1-2mlずつフラッシュする。

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アスピリン定期内服がなければ投与。バイアスピリン100㎎ 2錠を噛んで内服。

PPIもあれば一緒に内服させる)

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プラビックスはCABGとなった場合に出血の問題があるため指示がない限りは投与しない。

 

時間

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に余裕があれば投与。(冷所保存ですぐに出てこない)

シグマート48㎎/生食48mlとし、血圧をみながら2-6ml/hで開始。

 

4 搬送 準備薬剤

■心原性ショック

 うっ血が強くなければ、まず細胞外液負荷。

 ショックが持続するなら、第一選択にノルアドレナリンを考慮

不整脈が少ない、生存率が低下しない)

ノルアドレナリン1A+生食19mlで1-2mlずつフラッシュ Or

 3A+生食97ml 5ml/h(50㎏で0.05γ、20ml/hまで)で投与開始。

徐脈や右室梗塞ではドブタミン考慮。

 ドブタミン原液200ml 3ml/h(50㎏で3γ、10ml/hまで)で開始。 

 NA/DOBを使い慣れてなければ、ドパミンを考慮。

 

■洞性徐脈

洞性徐脈による意識状態の悪化・失神・持続する 胸痛・呼吸困難やショックを認めた場合は、アトロピン0.5 mg急速静注を5分ごとに全3 mgまで投与し、効果がなければア ドレナリン(2~10μg/分)もしくはドパミン(2~10μ g/kg/分)を投与するが、まず経皮ペーシングを考慮してもよい。

 

経皮ペーシング:

 使い捨てパッドをつける⇒デマンド⇒40~60bpm⇒ペーシング強度を0mAに設定しスタート⇒ペーシング強度を適切な値まで上げていく(大腿動脈が触れるまで)。

鎮痛・鎮静が必要。

 

■房室ブロック

症候性房室ブロックの治療として、経皮ペーシングあるいはアトロピン投与が推奨される。

第3度(完全)房室ブロックでQRS幅の広い補充調律を伴う場合には、アトロピンの効果は期待できないため、経皮ペーシングもしくはアド レナリン(2~10μg/分)もしくはドパミン(2~10μg/ kg/分)の投与を考慮する。

3度(完全)房室ブロックでは、症状の有無にかかわらず可及的速やかに治療が必要である。アトロピンの効果は期待できないため、経皮ペーシングもしくはアドレナリン(2~10μg/分)もしくはドパミン(2~10μg/ kg/分、3-5γで開始)の投与を考慮する。

 

心室細動、無脈性心室頻拍

電気ショック、心肺蘇生、そして血管収縮薬に反応しないVF・無脈性 VT に対しては、

アミオダロン300mgまたは5 mg/kg投与を考慮し、その後再度電気ショックを行う。

 

アミオダロン塩酸塩:300㎎(6ml)または5㎎/㎏を5%ブドウ糖液20mlに加え、静脈内へボーラス投与する。

心室不整脈が続く場合は、150㎎(3ml)または2.5㎎/㎏を5%ブドウ糖液10mlに加え、追加投与することができる。

 

 

・多形性持続性VTに対して

非同期下電気ショックを 行う。

(初回二相性なら推奨エネルギー〈120~200 J〉、単相性なら360 Jに設定する。)

・単形性持続性VTに対して

狭心症、肺水腫、あるいは低血圧(血圧<90 mmHg)を伴う場合、可能であれば鎮静下にて同期下電気ショックを行う。

(単相性、二相性いずれも100 J から。頻拍が停止しない場合は出力を上げる)

 

wide-QRS tachycardiaで最も多いのはVTであるが、変行伝導あるいは脚ブロックを伴った上室頻拍もwide-QRS tachycardiaを呈し、心筋梗塞後の心電図変化によってさらに上室頻拍とVTとの鑑別は困難である。そのため心室 頻拍と明らかに否定できない場合には、心室頻拍として治療にあたる。

中耳炎の再評価は3日後でよいのか?

2013年版小児急性中耳炎の診療ガイドラインでは

抗菌薬の臨床効果の発現は早ければ投与後3日目にみられることが示唆され、投与後3日での効果の評価が推奨される。

と記載されている。

 

ガイドラインにはその根拠として、下記文献を引用していた。

 

A Placebo-Controlled Trial of Antimicrobial Treatment for Acute Otitis Media

N Engl J Med 2011; 364:116-126

 

内容:

AMPC/CVA投与群(7日間)とプラセボ群のランダム化比較試験で、治療不成功(Treatment failure)の率は3日目から両群に有意差を認めた。

 

方法:

6-35か月の急性中耳炎児を、無作為化二重盲検試験を用いて、7日間のAMPC/CVA(アモキシシリン40mg/kg/日、クラブラン酸5.7mg / kg /日、1日2回投与)内服群(161人)とプラセボ群(158人)で比較した。

Primary outcomeは治療終了時(来院8日目)までに治療が失敗する期間とした。治療不成功(Treatment failure)は、中耳炎所見や(副作用を含めて)全身状態が悪化した場合と定義した。

 

結果:

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治療不成功は、

AMPC/CVA群では18.6%でプラセボ群は44.9%であった(P<0.001)。AMPC/CVA内服することで、治療失敗への進行を62%減少させた(Hazard ratio:0.36、P<0.001 )。

 

Rescue treatment(中耳所見や全身状態が悪化したため治療を変更した)は、

AMPC/CVA群では6.8%でプラセボ群は33.5%であった(P<0.001)。AMPC/CVA内服することで、Rescue treatmentを81%減少させた(Hazard ratio:0.19、P<0.001)。

解熱剤または鎮痛剤を、AMPC/CVA群は84.2%、プラセボ群は85.9%が必要だっただったが、同程度の使用であった。

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治療不成功(Treatment failure)の率は、3日目から有意差を認めた。

プラセボ群では、治療不成功・治療変更(Rescue treatment)は3日目から有意に多かった。

 AMPC/CVA群に関しても、治療不成功・治療変更率は3日目から多くなっていた。

 

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治療終了後(8日目)に、AMPC/CVAではプラセボ群より良好な全身状態・鼓膜所見であった。改善なしor悪化は、AMPC/CVA群で6.8%(11人)でプラセボ群は29.7%(47人)であった。

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有害事象はAMPC/CVA群群でより多かった。

AMPC/CVA群では47.8%に下痢を認め(プラセボ群:26.6%、P<0.001)。

AMPC/CVA群では8.7%に湿疹を認めた(プラセボ群、P=0.04)

 

AMPC/CVAによる治療は、発熱、食欲不振、活性低下、癇癪を著しく改善した。

発熱の改善効果は、最初の投与を行ってから6時間後にみられた。食欲不振、活動の低下、癇癪の解消効果は、2病日にみられた。

耳痛、耳の擦り傷、落ち着きのない睡眠、過度の啼泣は、AMPC/CVA内服で効果はなかった。 

伝染性単核症の症状、検査、診断、合併症、抗体

 

Infectious Mononucleosis(伝染性単核症)

Katherine L, et al. NEJM 2010;71:1993―2000.

 

純粋なEBV感染は人間にしか起きない。

多くはEBウイルスの初感染で起こるが、CD3モノクローナル抗体が枯渇した慢性感染症の患者にも認める。

全世界の95%以上の成人がすでに感染し、先進国では1-5歳・10台で感染のピークがある。

発展途上国では幼児期に多くが感染し症状は非特異的である。(1歳未満は母の移行抗体のため感染は稀である)。乳幼児期の感染は、初感染例の90%以上が不顕性または上気道炎症状で経過する。10-19歳では有病率が1年で8/1000人である。10歳未満・30歳以上では1/1000人未満である(若すぎると症状が無いため正確な人数不明)。

季節による発生頻度の変動はない。最近では30-75%の大学新入生は、EBVがSeronegativeである。毎年10-20%が感染しその内30-50%が伝染性単核症を発症する。

主に日常生活で唾液から感染する(キスは稀)が、初期暴露より症状発現まで30-50日かかる。初感染時は、唾液を介して咽頭上皮より侵入してB細胞に潜伏感染する。

 

症状:

古典的3症状は発熱、リンパ節腫大、咽頭炎である。

(98%が、全身倦怠感・発熱・リンパ節腫大・扁桃腫大を伴う。咽頭痛は93%、咽頭炎は85%、口蓋点状出血は50%、頸部リンパ節腫大は76%、倦怠感は66%に認める。後頚部リンパ節腫大が典型的だが前頚部リンパ節も腫大しうる。)

血液検査異常・身体所見は診断後1か月以内にほとんど改善するが、頸部リンパ節腫大・倦怠感の改善はゆるかやである。全身倦怠感は長ければ6か月以上持続するが、多くは2-3か月以内に日常生活が普段通り行えるようになる。

Commmonな検査所見は、異型リンパ球を伴うリンパ球が50%以上であり、少なくとも異型リンパ球は10%以上で感度75%・特異度92%である。(リンパ:4000 mm3以下は伝染性単核症らしくない。Hoaglandクライテリアでは、少なくとも50%以上のリンパ球数と異型リンパ球が10%以上であるが伝染性単核症状に特徴的と報告されている。 )

ASTは青年期以上で上昇しやすく、高齢者では高ビリルビン血症や肝腫大が多い。(高齢:60歳以上では黄疸は26%で青年8%に比べて高く、リンパ節腫大や咽頭痛・脾腫が少なくなる)

 

補足;症状の感度・特異度

Am Fam Physician 2004 Oct 1;70(7):1279-87.より

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補足;Am Fam Physician. 2015 Mar 15;91(6):372-376.より

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補足;検査結果の感度・特異度

Am Fam Physician 2004 Oct 1;70(7):1279-87.より

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合併症:

血液学的異常は50%に合併(溶結性貧血、血小板減少、再生不良性貧血血栓性血小板減少症、紫斑、HUS、DIC)する。神経学的合併症は1-5%に合併する(ギラン・バレー症候群、顔面神経麻痺、髄膜脳炎、無菌性髄膜炎、横断性脊髄炎、末梢神経炎、小脳炎、視神経炎)

他に、生命を脅かす合併症は脾破裂(0.5-1%;活動量の多い運動がリスクで、Valsalva maneuverが関与しているのかもしれない)および、リンパ組織の過形成と粘膜浮腫による上気道閉塞(1%)が挙げられる。(上気道閉塞は6歳未満が高リスクである。)

女性は膣潰瘍も起こすことがある。血球貪食症候群は1/800000人に発生するがその半数はEBVが原因である。(Immunocompromised hostやX連鎖リンパ増殖性疾患では、慢性活動性EBV感染で高い死亡率;96%がある。)

アンピシリン加療例の90%、そのほかのβラクタム系抗生剤の40-60%で麻疹様発疹が出現する。

脾破裂は診断後3週間以内に生じることが多いが、最長で7週間でも報告がある。スポーツの制限は一般的に症状が出て最短3週間後が推奨される。多くの患者は2か月以内にいつも通りの日常生活に戻れる。

補足;Am Fam Physician. 2015 Mar 15;91(6):372-376.より

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伝染性単核症と鑑別すべき咽頭炎の原因疾患:

NEJM 2010;71:1993―2000.より

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伝染性単核症の鑑別診断:

CMV、HHV-6、トキソプラズマHIVなど

補足;Am Fam Physician. 2015 Mar 15;91(6):372-376.より

 

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抗体について:

EBV感染の確定診断はIgM /IgG antibodies against viral capsid antigens, early antigens, and EBV nuclear antigen proteinsで行う。 IgM抗体は慢性EBV感染では認めない。

IgMは、初感染後1週間以内は25%が陰性、初感染後2週間は5-10%が陰性である。上昇しても4-8週以内に消失する。IgM抗体陽性は伝染性単核症の感度85%、特異度94%である。(伝染性単核症の原因疾患のうち、HIV Type1のみ1%未満だがEBVのIgMが陽性になることがある。)

NEJM 2010;71:1993―2000.よりf:id:drtasu0805:20170410000622p:plain

補足;EBVウイルスの感染時期

 

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診断手順:

補足;Am Fam Physician. 2015 Mar 15;91(6):372-376.より

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補足;Am Fam Physician. 2004 Oct 1;70(7):1279-87.より

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伝染性単核症の診断に用いる検査の感度・特異度:

BMJ. 2015 Apr 21;350. より

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治療:

グルココルチコイドの投与は、支持する文献は少ないが臨床経験からは、上気道閉塞・溶血性貧血・血小板減少などの重症合併症を伴う場合に役立つ可能性がある。

アシクロビルは有益性なし。バラシクロビルはEBV量の口腔内唾液への減少するかもしれないが、現在のところ有益性がある結果なし

高熱が続くと精子が死ぬのか?

 

最新版は下記

drtasu.hatenadiary.jp

精子は死ぬか

伝染性単核症の母から『高熱が続くと精子が死ぬとネットに書いてある。』と言われ本当にそうなのかPubmedで検索した。

 

【結論】

●死ぬかどうかは不明だが、発熱後に一過性に精子濃度が減少し、正常な形態の割合も低下する。ただし、2-3か月後には回復する。

 

Effect of increased scrotal temperature on sperm production in

normal men 1997 Aug;68(2)

陰嚢温度を上昇させるために、補助具を使用して睾丸を腹部に近づけ、精子産生が減少するかを調べた。デザイン:将来の臨床研究。 21人の健康な男性ボランティアが6週間の装着前期間、52週間の装着期間、正常な精子産生に回復するまでの期間を調べた。(期間中は1日中、補助具を着用する)

結果:

被験者(3グループ:補助具は3種類あり1層・2層・3層構造の補助具を使う)の全てで、補助具を装着している間、陰嚢温度は常に0.8〜1℃上昇したが、平均精子濃度、精子の運動性、形態および生存能力に違いはなかった。 →正常体温から1℃程度の体温上昇であれば、精子形成の著しい抑制または精子機能の変化は引き起こさないと思われる。

 

3グループの陰嚢温度について:装着後0.8~1度程度の体温上昇f:id:drtasu0805:20170406192801p:plain

精液の量(Semen volume)、精子の濃度(Sperm concentration)、精子の運動性(Sperm motility)、精子の形態(Sperm morphology)について:

いづれも装着前後で有意差なしf:id:drtasu0805:20170406192817p:plain

 

 

History of febrile illness and variation in semen quality Human Reproduction

Vol.18, No.10, 2003

2003年に発熱の病歴が精液の質に及ぼす影響を分析。

 

方法:27人の健康な男性(年齢中央値24.4歳)に毎月の精液サンプルと1998年3月から16ヶ月の間に経験した発熱の記録させた。発熱時の精液サンプルを用いて精液量、精子濃度、精子の運動性および形態学的に正常な精子の割合を分析した。

精子の形成時期:精子形成は、分裂増殖期・減数分裂期・精子形成期・精巣上体精子成熟の4段階に分けられる。これらの時期は精子の射精前にそれぞれ約57-80、33-56、9-32、0-8日に発生する。

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結果:精子濃度は減数分裂中の発熱で32.6%減少、減数分裂後の精子形成期間中は35.0%減少した。形態学的に正常な精子の割合は7.4%減少した。精子形成中の発熱により不動性の精子の割合は20.4%増加した。発熱した日数は、精液パラメーターに影響を与える。減数分裂および精子形成の間の発熱は、発熱1日あたりそれぞれ7.1%および8.5%の精子濃度を低下させた。精子形成の間、形態学的に正常な精子の割合は、1.6%減少し、不動の精子の割合は1日当たり4.5%は増加した。 発熱期間の中央値は5日(1-11日)だった。

精子の濃度は、熱性エピソードの約56日後に影響を受けた。精子運動性および精子形態は発熱性エピソードの32日後までしか影響を受けなかった。

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発熱後57-80日の精子濃度、精子の形態・運動性は影響を受けておらず、発熱に伴う精子への影響は一過性と思われ、生涯にわたる影響はない、と考えてよいのではないのではないかと思う。

(伝染性単核症は、まれに精巣炎の報告あり精巣炎が起きれば生涯にわたる影響があると思われるが、高熱により精子が死ぬという記載はなく、『発熱によって一過性に精子濃度や精子の形態・運動性には影響を与える』ことは言える)

片側性の顔面神経麻痺

2008年の日本神経治療学会の標準的神経治療:片側顔面痙攣によると、『顔面神経の不随意な興奮によって支配筋に痙攣を生じる病態で、この一部に脳底動脈または硬化症濃度うまくあるいはその分枝が顔面神経に触れて拍動性の圧迫を及ぼすことで起こる』とされている。

 

 

 

B型肝炎について

B型肝炎のワクチン接種が2016年10月から1歳になるまでの小児に定期予防接種化された

小児B型肝炎診療指針と日常診療 日本小児感染症学会シンポジウム2009

B型肝炎では、C型肝炎と異なり小児でも肝硬変や肝細胞癌が発生する例があり注意深いフォローが必要。B型肝炎のを治療する際の治療目標は、肝臓の炎症を鎮静化し炎症の持続に伴う肝繊維化の進行、肝硬変および肝細胞癌の発生を防ぐことにある。治療に際しては肝炎の活動性と繊維化の評価のために肝生検が必須である。HBe抗原陽性のキャリアであれば、現実的な治療目標はHBe抗原の陰性化やHBe抗原・HBe抗体系のセロコンバージョン(HBe抗原消失およびHBe抗体出現)である。HBV感染が疑われる場合は、HBs抗原を検査する。HBs抗原陽性であれば、ALT含む生化学に加えHBV DNA量、HBe抗原、HBe抗体を検討する。急性肝炎を診断する際はIgMHBc抗体を測定する。近年では、父子感染が問題となっており、HBVキャリアの場合にも髭剃りや歯ブラシの共有など少量の血液感染を介して家族内発症することがある。

乳児期に全員ワクチンを接種する(Universal vaccinatin)ことは、わが国でも母子感染が激減していること、水平感染であってもキャリア化する、Genotype AのHBV感染が増加していることから水平感染防止が重要になっており、Unversal vaccinationは重要である。

 

HBVワクチンについて

10%前後に副作用が認められ、主な副作用は倦怠感、頭痛、局所の発赤、発赤、疼痛。B型肝炎ワクチンには2種類(化成研製、MSD社製)あり、MSD社のワクチンバイヤルにはラッテクスが用いられているためラテックス過敏症の患者者には注意が必要である。

一般的な予防接種:

対象は本年4月以降に生まれる0歳児で、標準接種スケジュールは生後2ヶ月と3ヶ月、7~8ヶ月の3回接種。

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通常、0.5ml(10歳未満は1回0.25ml)ずつを4週間隔で2回、1回目の接種から20-24週後に1回の計3回を皮下または筋肉内に接種します。

小児の酸素化目標値はSPO2何%なのか?

Oxygen saturation targets in infants with bronchiolitis (BIDS): a double-blind, randomised, equivalence trial

Lancet 2015; 386: 1041–48

 

【背景】

細気管支炎では2006年にUK Sign GuidelineではSPO2≧94%

American Academy of Pediatricsでは(WHOも推奨)SPO2≧90%

を許容できる酸素管理値をして推奨しているが、エビデンスに基づく値ではなかった。

SPO2の目標90%以上が、急性ウイルス性細気管支炎においてSPO2:94%以上に相当する効果があるのか評価した。

 

【方法】

ウイルス性細気管支炎で入院した生後6週~12ヶ月までの乳児を、標準群(SPO2<94%で酸素投与する標準酸素濃度計群)と修正群(SPO2:90%の測定値を94%と表示し、SpO2<90%まで酸素を与えない)に割り付ける多施設RCTを行った(n=615)。ベースラインの特徴は、2群間で類似していた。 評価項目は、咳の持続期間・食事摂取が正常の75%以上に回復する期間・両親が健常だと判断するまでの期間、退院可能な状態と判断するまでの期間、実際の退院までの期間、酸素投与が不要となるまでの期間 を評価した。

【結論】f:id:drtasu0805:20170414101139p:plain

咳の持続期間は両群とも中央値15.0日で同等であった。

修正群で2.7h 標準群より早く適切な摂食に戻った。

修正群では、両親が健常な状態であると判断する期間は1日短かった。

実際の入院期間も修正群では優位に短かった(入院期間 標準:50.9h、修正群:40.9h)。

酸素投与期間は修正群で優位に短かかった(標準:27.6h、修正群:5.7h)

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両親が退院できる状態はない と思う割合

⇒修正群では、標準と比較してより早く、両親が退院できないと思う割合の低下を認めた。

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退院後の再入院率は、28日後まで両群で同等であった。

 

【評価】

乳児細気管支炎でのSpO2目標値を検討しSPO2:90%は安全かつ臨床的に有効(小児の急性ウイルス性細気管支炎で、SPO2:90%また94%に管理されているかどうかにかかわらず、症状:咳の持続期間が改善するまでに要した時間は同等だった。)であり、入院期間を短縮する傾向が見られた。酸素療法に用いられる医療費用を抑えられる側面もある。

SPO2:90%以上を目標とした管理は、酸素を必要とする幼児の数が少なく、食事摂取の回復が早い、より早く帰宅できるかもしれない。

しかし、肺炎の小児や慢性肺疾患の早産児はSPO2:90%未満である場合に死亡する危険も高くなる報告もある。

 

この文献から得た上記内容を加味すると、

SPO2:90%以上を目標とすることは有益な点が多いと思われるが、(特に、SPO2モニタリングを常にCheckできるような環境が整っていない病院)SPO2:90%未満で酸素投与を開始する管理を行うことは、各医療機関でよく考えなければならない

 

 

 

 

 

昇圧剤:(ショック時の昇圧剤は)ドーパミンとノルアドレナリンどちらが有益か

ドーパミン使用は、不整脈の出現率がノルエピネフリンより高く、かつ心原性ショックにおいては死亡率の上昇に関与している

Comparison of Dopamine and Norepinephrine in the Treatment of Shock

N Engl J Med 2010; 362:779-789

背景:

ドーパミンノルエピネフリンは、ショック時にFirst lineの昇圧薬として推奨されている。どちらが優れているかどうかについての継続的に論争されている。

方法:

今回の多施設無作為化試験では、割り当てた患者に初期昇圧剤としてドーパミンノルエピネフリンを血圧を上げ維持するために用いた。ドーパミン20μg/㎏/minの用量で維持することができなかった場合や、ノルエピネフリン0.19μg/㎏/minで血圧を維持できない場合は、ノルエピネフリンエピネフリン、またはバソプレシンを追加可とした。主要転帰は、無作為化後28日目の死亡率とした。二次エンドポイントは、有害事象の発生と、臓器サポートが必要ない日数とした。

結果:

1679人の患者で、858人にドーパミン、821人にノルエピネフリンに割り付けられた。集団のベースライン特性は同様であった。28日後の死亡率に大きな差はなかった(ド--パミン使用群:52.5%、ノルエピネフリン群で48.5%ノルエピネフリン;ドーパミンOdds比 1.17; 95%信頼区間0.97-1.42; P= 0.10 )。しかし、ドーパミンで治療を受けた患者の間でより不整脈の有害事象があった。(ドーパミン207事象(24.1%)対ノルエピネフリン102事象(12.4%)、P <0.001)。サブグループ解析でノルエピネフリンにと比較してドーパミンでは、280人の心原性ショックで28日後の死亡率が増加した。1044人の敗血症性ショックのや263人の循環血漿量減少性ショックでは増加はなかった。(P=0.03 心原性ショック、P=0.19 敗血症性ショック、P=0.84 循環結晶量減少性ショック、カプランマイヤー分析)。

結論:

全ショック患者間の死亡率に有意差はなかったが、ショック患者においてドーパミン使用群ではノルエピネフリンの使用群より有害事象数が多かった。

 

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28日、6カ月、12か月後の死亡率は両群で著変なし。

ICU入室期間は有意差ないがノルエピネフリン群でやや短いような?

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両群で生存期間に有意な差はなし。(有意差はないが常にドパミン群で生存率が低くみえる?)

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有害事象について:

両群あわせて309人(18.4%)に不整脈が出現。内訳は心房細動 266人(86.1%)が最多。不整脈以外の有意差のある有害事象はなかった。ドパミン群で不整脈が有意差をもって多い。

ちなみに、エピネフリンの投与量・血圧・初日の総輸液量に関して両群間で有意差なし。初期24時間の尿量はドパミンで多かったが、In-Outバランスを加味すると有意差なし。

 

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サブ解析すると、28日後の死亡率は心原性ショックに関してドパミン使用群で高かった(P=0.03)。

⇒ドパミン使用群では不整脈の出現率がノルエピネフリンより高く、かつ心原性ショックにおいては死亡率の上昇に関与している(*Cadiac outputはドパミン群で有意に良いことが多数の文献で報告されている、死亡率が高くなる原因はドパミン群でHRが上昇することで虚血が起こりやすいからなのでは?と本文献ではDisucussionされている。)

 

Up to date『Post-cardiac arrest management in adults』This topic last updated: 10.5,2016. 

心肺蘇生後の昇圧剤使用に関してUp to dateに以下記載

Inotropic and vasopressor support can mitigate the myocardial dysfunction that is common during the first 24 to 48 hours after cardiac arrest. There is no evidence demonstrating the superiority of any one vasopressor in the post-cardiac arrest patient. Commonly employed vasopressors include dopamine (5 to 20 mcg/kg per minute), norepinephrine (0.01 to 1 mcg/kg per minute; 0.5 to 70 mcg/minute), and epinephrine (0.01 to 1 mcg/kg per minute; 0.5 to 70 mcg/minute).A large cohort study evaluating vasopressor support during the first 24 hours after cardiac arrest, measured by the cumulative vasopressor index, reported that 47 percent of patients receive some vasopressor support .

Studies in septic patients report no difference in mortality between patients treated with dopamine or norepinephrine, but the risk of cardiac arrhythmia may be higher in patients treated with dopamine. Given these data, we use norepinephrine as the first line vasopressor in the undifferentiated post-arrest patient.